平和な時代に男はいらない(改)
すみません、間違えて一章を二回投稿してました汗
二話目を貼り直しましたのでご覧ください^_^
次話で完結します。
そうそう、それが母さんたち女のスローガンだった。懐かしいね。その文字が記された横断幕を世界中のあちこちで、女たちがみんなで持ってさ、練り歩いんだよ。
クーデターは見事成功し、晴れて世界は女のものになった。一部サンプルとして残した身体能力や頭脳が優秀な男たち数体を除いてね、この世の男たちは抹殺されてしまったんだ。
母さん、悲しくはなかったよ。せいせいした。
この時は母さんはまだ娘で独身だったけどね。父親や兄がいてね。偉そうにふんぞり返ってリビングで命令ばかり繰り返す彼らに、母さんの母親が呼びつけられて、威張り散らされる姿ばかり見てきたからね。
娘の母さんには、そんな母親の姿がね、小間使いかコマネズミかみたいに見えたものさ。だから、毎日家にいるのが気詰まりだった。
私の将来も、こんなふうになってしまうのかしら。わけのわからないモラハラ男と見合い結婚でもさせられて、一生不満を抱きながらこの世を恨んで生きていくのかしら……なんて考えてね。
漠然とした不安に抑え込まれるような思春期を過ごしてたんだよ。だからね、
−−ああ、これで家から粗大ゴミがなくなる! この世から男たちがいなくなる! 私のお母さんは自由になれる。私も、未来から自由になれる!
なーんてさ、ものすごく喜んだよ。
消費好きな女たちが取り仕切るようになり、経済は発展した。女は女で世界を統治し、経済を回しカネを生み出しながら、バイオのテクノロジーを発展させ、細胞培養で計画的に生殖を行い、うまいこと暮らしていた。三、四年くらいは、この調子でうまくいってたんじゃないかね。
でもまさかね、あんな事態が起こるなんてね。また別の並行宇宙から、私たちの惑星を攻撃する生き物が襲来したんだね。
それは実際生き物なのかもわからなかった。意志はあれども、その意志に有機性はなくて……ううん、何者かが作ったAIの可能性だってあるし……。
とにかく彼らは巨大で、強く、数週間に一度、女たちの世界を狙って空からやってくるんだ。裂け目みたいな口しかない顔で、目も鼻も耳もないくせして、世界の全部の動きや気配に敏感なんだ。
だから、的確にたくさんの女たちを殺し、時に喰らい、街も、人口の少ない砂漠や山も構わず気ままに殲滅していった。
科学者や政治家たちは、戦うより先に何度も対話を試みようとしていたれど、意思の疎通は図れないとのことだったよ。
だから、なぜやってくるのか。壊すのか。殺すのか。真の目的も掴みどころがなくて、私たちは途方に暮れたもんさ。
当時は、並行宇宙の考え方もまだなかった時代だし、彼らがどこから来てどこへ帰っているのか、次はどの空に現れるのか、母さんたちには予測のしようもない。
彼らはまれに、女たちを殺さず生捕にする時もあってね。捕まえた女を腰につけた胴丸籠に入れて持っていくんだけど、彼らが戻っていく空にあいた黒い穴-−今思えば、それはブラックホールなんだけどね。当時は誰にもわからなかったんだ-−の正体も不明だし、彼らが持ち帰った女をどうしているのかもわからなかった。
食っているのかもしれないし、飼っているのかもしれない。犯しているかもしれない。
あらゆる可能性が考えられ、同時に何の確証も得られなかった。
まさかこんな形で、もう二度と起こらないと考えていた戦争が起こってしまうなんてねえ。人間同士が争うことをやめたのに、まさか宇宙の外から争いを消しかけるなんて、想定外じゃないか。
ここにきて女たちは後悔することになるのさ。
ああ、戦争があるんなら男は必要だ。女じゃ戦えない。腕力が足りないってだけじゃない。女は生来の精神構造上、戦えないようにできているのさ。
女が得意なのは、同調であって闘争ではないんだ。もし戦いが起きたら、男たちを盾にして、自分たちは手を取り合いながら、生き延びなきゃならないんだ。
私たちは、戦うより支えるほうが得意なのさ。女だけで世の中を回していける強さと自由を手に入れても、やっぱり争いや競い合うことは、もう、女の生物の本質として、苦手なんだ。
たとえ、技術を凝らしてさまざまな兵器を開発したところで、それを使って戦う男が必要だ。
だから科学者たちは、サンプルとして殺さず残しておいた数人の男たちから、男の個体の培養を試みた。戦闘用の兵器として、男の命を再生産しようとしたのさ。
遺伝子を操作して、さらに攻撃性が高いだとか、死を恐れないだとか、あと痛覚がないとかの機能を組み込んだ。
女の命令に絶対従うだとか、あとは、あの巨大な彼らに対抗して負けないくらい巨大化するように品種改良してるなんて、テレビや新聞ではやってたね。
まあ、女ってのはとことん現金な生き物だよ。自分たちで男をこの世から断捨離しておいて、困った時には再び男にすがろうとする。我ながら、自己中心的で愚かな生き物さ。
計画ばっかりはあったけど、結局それは実現せずに終わったよ。なぜなら、わずかに残された男たちが飼育されていた研究所が、彼らの侵攻によって殲滅されてしまったからだ。
そう、最後の男たちが全部丸焦げになってしまったのさ。それで男の再生産が、不可能になってしまった。
女の世界はいよいよ絶望的になった。
自分が兵士になってできる限り闘ってみればよかったけど、誰一人として手を挙げる女はいなかった。
みんな、誰かがやってくれないかと、曖昧な笑みを浮かべて小さく頷くばかり。
団結していた女たちの間にも仲間割れが起こってきた。一度仲がこじれだすと、男以上に修復が効かなくなるのもまた女の特徴さ。
次で完結します!