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透明の空  作者: 兎束作哉
エピローグ
62/63

タイトル『友人』



「あっずみーん!聞いてくれ、俺様赤点回避したぞ!」

「おーおめでとさん。まあ、俺も、だけどな……ギリギリ」



と、34点の英語のテスト用紙を持ってやってきた空澄に、俺は絵35点の英語のテスト用紙を見せた。空澄はやったな! と抱き付いてきて、その拍子に2人のテストは宙に舞い上がって、大衆の目にさらされる。元々、頭が悪かった為、誰も驚きはしなかったが、5月にはいり、9月に受験を受ける奴らは準備をし始める時期だった。


 あの後、空澄家の地下は何者かによって爆発されもうあの書斎から地下に行くことは出来なくなり、命からがら逃げた俺達を待ち構えていたのは、空澄の両親だった。空澄の両親は空澄を抱きしめようとしたが、空澄はそれを拒否し、「自分は絵の道に進みたい」とはっきりと言った。それも大勢の前で。空澄の強い意思の表れだったし、空澄の両親は何も言い返せずにいた。彼奴らの間に何があるのかは知らないし興味はなかったが、空澄が決めた道を少しでも応援してやったらどうなんだと少し思ってしまった。


 先生は……父さんはあの地下に埋もれてしまった。もうその骨も拾うことは出来ないだろうが、俺はあれでいい気がした。暗殺者としての死に方なら、あれが正解だろう。誰にも気づかれず孤独に死んでいく。でも、俺は「父親」としてのあの人はちゃんとおくってやれた気がする。そう思うことで、少しは気が楽になるだろう。



「そういえば、絵が完成したんだぞ。見に来てくれ!」

「腕、腕もげるから引っ張るな!」



 グイグイと力量を考えず引っ張る空澄に叫びながら、俺は引きずられるようにして美術室に向かった。


 美術室の扉を開けるとそこには、1枚の大きな絵があった。

 そこには俺達がいて、まるで俺達は生きているかのように描かれていた。満面の笑みを浮べた俺がそこにいて、俺はそんな風に笑うのかと、笑ったことがあったかと一瞬思ったが、空澄にはそういう風に見えたんだろ。



「俺様の卒業制作!タイトルは『友人』だ!」

「安直だな……でも、凄くいい」

「だろ!?一番の力作なんだぞ!?」

「後、凄く恥ずかしい」

「褒めてるって事だろ、照れるなあ」

「そこまで言って……はあ、そういうことにしておく」



 きっと空澄に何を言っても良いように解釈されてしまいそうだし、そうなると恥ずかしいため、俺はここで話を切った。



「そういえば、空澄……進路先決めたんだったな。芸術大学」

「ああ!説得するのに、時間かかったけど、第1志望に向けて絶賛デッサンの練習中なんだぞ!美大にしないかって言われたけど、俺様のやりたいことはその芸術大学にあるし、まあ、俺様の決めたことに誰も文句言わせないんだからな!」

「珍しく強気だな」



 空澄は、自分のやりたいことのために歩み始めた。それは、俺とは全く分野の違うことで、この先の未来、空澄と離ればなれになってしまうことが見える。


 それで、俺はいいと思った。


 中高と空澄に依存してきた。空澄が行くなら、俺も行く。そうやって空澄の後を追いかけてきたが、俺にも夢が出来た。

 フッといつの間にか上がっていた口角をみてか、空澄は首を傾げる。



「そういえば、あずみんは何処に行きたいんだ?俺様、あずみんの夢、聞いたことない気がする」

「俺、俺か?」

「あずみんしかいないだろ」



と、指摘されて俺は咳払いをした。


 こうして、友人に夢を語るのは初めてかも知れない。過去の俺がみたらきっと引っ繰り返ってしまうだろう。



「俺は、俺は先生になりたい」

「先生?学校の先生か!?あずみん、似合いそうだな!」

「そう、だろ?夢が出来たんだ。先生になって、人にものを教えたいって……憧れで、目標もいるしな」



 もう此の世界にはいないが、とは口にしなかったが、いつまでも「先生《父さん》」が見守っていてくれるような気がして、俺は窓の外を見る。この空の何処かからみてくれているんだろうかと、考えるとまた自然と頬が綻んだ。

 先生になるためには、今の学力じゃ足りないだろうから、俺も俺の夢のために勉強に励まないといけない。空澄と足並みはズレるが、それでも叶えたい夢が出来た。ようやく依存から放たれ、俺は俺の画く道を歩き出すことを決意した。


 そう決意させてくれたのは、父さんと、空澄の存在だった。



「だから、俺頑張ってみる。初めてこの言葉使う気がするし、似合わないと思うが、俺は先生になりたいって夢を叶えるために、勉強頑張ることにする」

「おー!俺様応援してるぞ!」

「俺も、あ、すみんのこと応援してる」



 初めてそのあだ名で呼び、聞えていないだろうとちらりと見れば、空澄はルビーの瞳を爛々と輝かせた。


 不味い。



「あっずみ――――ん!今、俺様のことあすみんっていった!」

「い、言ってねえ!言ってないから、離れろ」

「もう1回、もう1回言ってくれ」

「しつこいな……あーもう、分かったその内な」



 こうやって、青春出来るのも、あと少しなのかと思うと、少しだけ寂しいような気もした。


 それでも、互いに励まし合って、それぞれの道を行くんだろうと、目の前におかれた「友人」というタイトルの絵が微笑んでいるように見えた。




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