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透明の空  作者: 兎束作哉
第4章 澄んだ空
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15 side囮



 空澄財閥はその権力と金の力を使い、裏で非人道的な研究を行っていた。


 それは「自分の理想の子供を創り出す」というものだった。完全胎外受精、受精卵のDNAを弄り組み替え直し、そして、その受精卵を胎外で育てる。この時点で既に人智を越えたものだった。それをなしえた研究者がいたからだった。そうして生れた2つの命は、別々に育てられた。だが、その才能を研究のせいかが出たのは片方だけだった。それが、兄の定理。定理は身体能力だけではなくその頭脳は、人間が記憶できる量を遙かに上回るほどの膨大な蓄積量を持っていた。しかし、弟の方は違った。彼は、その身に宿した天才性を発揮することが出来なかったのだ。だから、定理に財閥の未来を託すため教育を施した。それは教育ではなく暴力と言えるほどのもので、心身共にすり減らしていった定理はある日突然姿を消した。この研究が外にバレれば信頼を失うどころの騒ぎではないと、元々公表していなかった自分たちの子供を、第1子だと偽り、囮をたてた。すくなからずの良心が残っていたのか、定理のことを忘れないために双子の弟である囮には「囮」と名付けたのだった。それから、両親は魂が抜けたように、その罪悪感と、定理の居場所を突き止めるために動き、囮のことを愛さなかった。


 結局の所、定理も自分たちの都合のいい道具としか思っていなかった為、子供に対する愛情などはじめから無かった。




「どうッスか。これが空澄財閥の真実ッスよ!彼奴らは血も涙もない、人間の心もない奴らだ。死んで当然だと思うッスよね?だから、ボクはこうして復讐のためにこの地下を脱出した日から誓ったんスよ。絶対に、根絶やしにしてやるって。お前らの悪行を世間の目にさらしてやるって!囮君もその血が流れてるから、って殺してやろうと思ったんスけど、さっきの言葉撤回するッス。ボクより欠陥品でも、彼奴らより頭は良い。囮君なら、ボクのこと理解してくれるッスよね。同じ仲間ッスからね!」



 そう語り終えたお兄ちゃんは高々に笑った。それは、悲しく、虚しいものだった。

 そんな過去があったこと、両親が俺様に付けた名前の意味もちゃんと理解できた。お兄ちゃんの苦しみも、復讐した言って言う気持ちも理解できた。

 でも、俺様は両親のことを嫌いになるどころか、何とも思えなかった。酷いことをしたはずなのに、きっと俺様にも心が欠如しているんだろうなって、人を恨む心とかが。



「……俺様は、別に復讐とかいい」

「ああ?」

「俺様は、普通に生きれたらそれでよかったんだ。財閥に縛られて、その肩書きとか世間の目とかにさらされて生きてきたけどさ、俺様そう言うのいらなかったんだ。地位も財産もいらない……ただ、普通に、それに憧れたんだ」



 理解できないというようにお兄ちゃんは頭を横に振る。きっと、復讐のためにここ数年間ずっと費やしてきたんだろう、だから俺様の言っていることなんて頭がいたいような話だったに違いない。


 復讐を望んだお兄ちゃんと、普通を望んだ俺様と。



「……俺様に流れてる血が嫌だって言うなら、全部抜いちゃえばいい。それで、お兄ちゃんの気が済むならそれでいい。でも、俺様は出来るなら、死んだ後……次の人生とかあるなら、俺様、普通の家庭に生れたい」

「は、はあ……?」

「普通に家族がいて、家族と旅行に行ったり、たまに喧嘩したり、叱られたり。褒めても欲しい。料理の作り方とか教えて欲しいし、授業参観には必ず来て欲しい。学校の入学式も卒業式も、成人式も、俺様のことみてて欲しい。そんな普通の家族が欲しいし、そんな普通が欲しい。俺様の願うことはそれだけだ」

「……」

「後、お兄ちゃんがいて欲しいな。自分を理解してくれる友人も欲しい、別に多くなくていい、2人とかでもいい……だから、お兄ちゃん。今からでもそんな普通が作れるなら、俺様、ちゃんと受け止めるよ」



 そう言い終えると、お兄ちゃんはそのまま倒れ込むようにして座り込んだ。

 そのまま俯いたまま何も言わず、暫く沈黙が続く。



「理解できない」

「分かって何て言わない。だから、俺様と一緒に行こう。俺様、お兄ちゃんって存在憧れてた。だから、復讐なんかじゃなくて……俺様と」

「眩しいんッスよ。囮君、ボクは顔を上げられない」



と、ぽつりとお兄ちゃんは零しユラリと立ち上がった。そして、その手にはボタンのようなものが握られておりお兄ちゃんはそれを見せつけるようにしてつきだした。



「本当は、このまま復讐を続けていくつもりだったんスけど、ボク……多分、弟の、囮君の顔に弱いんスね。倒れて、病院にいたとき、しななくて良かったってほっとしてしまったッスから……でも、ボクの中の復讐心が消えることは絶対にないッス。囮君には、もうないッスけどね、微塵も……だから」



 そう言ってボタンを押した途端、地面が揺れ始めた。酷い爆発音とともに、天井や壁も揺れはじめる。



「死にたくなきゃ、ここから出て行くといいッス。今回は、この部屋と研究所だけ爆破するだけにとどめるッスけど、必ずボクを作った奴らを全員殺すッスから。だから、バイバイッスね。囮君」

「定理お兄……」

「空澄――――ッ!」



 揺れ始めた地下に響いた聞き慣れた声に、俺様は振向いた。するとそこには、あずみんとかこいんがいて、俺様を見つけるとさらに加速し走ってきた。



「大丈夫か、空澄」

「あ、うん……でも、にい……あれ?」

「兎に角、逃げるぞ。崩れるかも知れない」



 振返ればそこに兄ちゃんはいなかった。バイバイって言ってたけど、もう会えないと言うことだろうか。

 そんな風に、パズルの転がっている部屋を眺めていれば、あずみんに腕をひかれる。



「クズクズするな、早くいくぞ」

「……そうだな。あずみん、助けに来てくれてありがとうな!」



 もう過去の事。冷たい奴って思われるかも知れないけど、俺様は助けに来てくれた友人の顔を見たらどうでもよくなって、自然と笑みが戻っていた。



(忘れるわけじゃないけど、バイバイ、俺様の過去……定理お兄ちゃん)



 俺様は、自由に生きるって決めた。両親の、空澄財閥を受け継ぐ気なんてない。


 俺様は今はただ、あずみん達と生きていたい。 


 そう思いながら、崩れゆく地下を後にした。




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