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透明の空  作者: 兎束作哉
第4章 澄んだ空
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14 side囮



 ピクリと動いたアナグラムの指先を、俺様は見逃さなかった。



「……は、はあ?ボクがアンタのお兄ちゃん?なわけ、ないじゃないッスか。ボクが、消えた御曹司、空澄定理?なわけ――――」

「定理お兄ちゃんは、ヒントくれただろ?アミューズって、あの手紙に書いてあったのただの間違いなんかじゃないよな?アミューズのつづりは『AMUSE』が正解なのに、あの手紙には『AMUSI』って書いてあった。それに、定理お兄ちゃんと初めて会ったときお兄ちゃん言ってただろ?『”イー”じゃなくて……”アイ”』って。お兄ちゃんの偽名のアナグラムって、そのまま『AMUSI』を入れ替えろって事だったんだろ?『ASUMI』空澄って」



 半信半疑だった。


 でも、俺様の直感がそういったんだ。アナグラム、定理お兄ちゃんはそういう謎解きとか数学的な事が好きで、それこそアミューズっていう組織名も、お楽しみっていう遊びみたいな名前だったから。

 あっているかと、答えを確認しようと、お兄ちゃんをみれば図星とでも言うように唇を噛んでいた。



「……だったとしてもそれだけで、ボクが空澄定理って、何でそうおもったんスか。証拠は」

「直感」

「そんな、科学的でも数学的でもない根拠……誰が」

「俺様、知ってた。両親が俺様に無関心なことも、何処か罪悪感を抱えたように関わらなかったことも顔も、知ってた。知ってて見て見ぬフリしてた。俺様は、きっと誰かの代りなんだって、薄々気づいていたよ」



 そう、だからきっと俺様の名前は「囮」何だろう。本物の御曹司であり長子であった定理お兄ちゃんの存在を隠すために。

 俺様が、そう言えば、お兄ちゃんは少しだけ悲しそうな顔をしていた。

 それは、まるで本当の弟を見るような目つきで、今にも泣きだしそうなお兄ちゃんを慰めるように俺様はどうしたら良いか分からなかった。



「おに……」

「ハハ、ハハハハ!傑作ッスね。こりゃあ、傑作ッスよ。確かに認めるッス、ボクがわざとヒントを残したこと、そこに遊び心があったこと、弟である囮君を殺さなかったことも全部!でもね、本当に、哀れッスよ。囮君、可哀相に、囮君。『囮』何て名前つけられて、ボクの代わりに生かされて。そして、可哀相なボク……ほんと、空澄財閥はいかれてる、心がない。だから、皆殺しにするべきなんッスよ!」



と、突然大声で叫んだアナグラムは、また俺様の首に手をかけた。



「かっ……はっ……」



 さっきよりも強い力で、首が締め付けられていく。息が出来なくなって、苦しい。

 目の前にいるアナグラムは、もう正気ではなかった。狂気に満ちた瞳を輝かせて、口元を歪ませて笑っていた。


 ああ、これが本性なんだなって。

 本当はずっと我慢してたんだって。


 俺様は、何も分かっていなかった。俺様は、やっぱり偽物の御曹司なんだなって。



「冥土の土産に教えてやるッスよ、空澄財閥の闇を。ボクと囮君が生れた経緯を!そして、ボクの前で死んでくれよ、囮君!」



 息が苦しくなって、意識がもうろうとし始めた。手を動かそうにも暴れれば暴れるほど首が絞まって息ができない。



(……こういう時、あずみんなら、何て言う?何をする?)



 あずみんは俺様よりも優秀で何でも出来て、いつも俺様を助けてくれた。あずみんだったら、こういう時どうやって切り抜けるか。



「……何スか、その目」

「……は、はは……えがお、の……おそそ、わけ……」

「意味分からねえッスよ。酸欠で頭いかれちまったんスか?」

「わらってたら……しあわせ、に、なれるって……おれさまの、笑顔、……あずみん、大好きだって、口では、いってくれ……なかったけど」



 そう俺が言うと、お兄ちゃんはそのまま俺様を投げて手を払う。俺様は、積み木に激突し、そのまま床に転がった。

 そうして、咳き込みながら空気を取り込もうと必死に呼吸を繰り返す。酸素が足りないせいなのか、頭がくらくらして思考がまとまらない。

 そんな俺様をみて、ゴミでもみるかのようにお兄ちゃんは見下ろした。



「本当に、馬鹿ッスよね。救えない。そんなんで、ボクが救われるとでも思ってるんスか?」

「……すく、われない、かもしれない。でも、かわる、事は出来ると思う。俺様がそうだった。俺様の笑顔で、笑顔になってくれた人、がいたから」

「……」

「お兄ちゃんも笑わせたい。父さんとか、財閥とかどうでもいいから、お兄ちゃんは笑ってて欲しい」



 不甲斐ないなあ、なんて初めて思った。こういう時に使う言葉なんだってあずみんに教えて貰っておいて、正解だと思った。

 お兄ちゃんは、見下ろした後拳を握って俺様の顔面寸前で止める。



「……アンタのせいで、殺せない。もう、こっちはぐっちゃぐちゃッスよ。空澄財閥の事許すんスか?」

「俺様、きっと、お兄ちゃんより、詳しく知らない」



 何をしてたとか、何が悪かったとか、そういうのは何も知らなかった。

 だから、詳しいことは何も言えないけれど。



「……空澄財閥は、人間が手を出しては行けない領域に手を出したんスよ。その完成形が、ボク。そして、欠陥品が囮君。空澄財閥はね『自分の理想の子供を創り出す』研究をしてたんッスよ。それ、どういうことか分かるッスか?」



――――自分たちにとって都合のいい玩具こどもを、人工的につくるっていうことッスよ。




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