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透明の空  作者: 兎束作哉
第4章 澄んだ空
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11 side先生



 事の始まりは、歯車が狂いだしたのはいつだったか。


 鈴ケ嶺道弓は非常に頭がきれ、周りからその才能を羨ましがられるほどに何でもできる完璧人間だった。だが、何もやりたいことはなく、勧められるまま入った大学にて研究をしていくうちに、空澄財閥に目を付けられた。そして、任された研究の最高責任者になり、空澄財閥の地下にて研究を行った。その間、研究の1サンプルとして人殺しを行っていた。それが初めての人殺しではなかった。大学にいる間も、もっとその前から殺生に関しては良心が働かず好奇心に任せて虫や動物を手に欠けていた。そんな良心が欠如するきっかけを作ったのは両親の離婚で、道弓は父親からの暴力を受け続けていた。そんな道弓はやっと壊れたのか、家を飛び出し、1度は裏社会に拾われ、自分の名前や個人情報を書き換えて、何の罪悪感もなしに学校に通い、大学まで出た。

 何もかもがすべてうまくいき、道弓は退屈していた。それでも、大人になって生まれてきた良心が、人を思いやれる心が彼を変えた。大切な人が出来たからだ。それが、梓弓の本当の母親。



 道弓は彼女に惹かれていき、非人道的にな研究を行っている裏で、彼女とともに過ごした。そうして、研究は進んでいき、やり遂げてしまったのだ。それは、本当に人を逸脱するような、心もないもの。言ってしまえば、「自分の理想の子供を創り出す」研究だった。


 研究を終えて、ようやく過ちに気付いた道弓は空澄財閥から金を受け取らず、彼女と暮らすことを選んだ。しかし、今まで積み上げてきた死体の山に、彼女に合わせる顔などなく、1度きり関係を結んで、それから離れて行ってしまった。取り残された彼女は、深い悲しみをおい、吊り橋効果のように梓弓のもと育ての親であるクソ親父と結婚し子供を授かった。だが、その子供は、そのクソ親父との子供ではなく道弓との子供だった。それを隠しながら彼女は生きた。だが、耐え切れなくなったのか家を飛び出した。飛び出した先で道弓に出会ったが、もともと、空澄財閥に探りを入れるために送り込まれたスパイだったと、道弓に殺されてしまう。道弓は、自分が彼女を愛していたこと、彼女も自分を探りを入れる対象ではなく、愛する人だと認識していたこともわかっていた。だが、道弓にはそうする事しかできなかった。それが、梓弓のもとに母親が帰ってこなかった理由だった。


 彼女が死ぬもっと前から、道弓は世界を飛び回り、恵まれない子供に、幼いながらにその領域に足を踏み入れた子供達に殺しを教えた。自分にはそれしか残っておらず、それを教えることで彼らを救おうとした。もしかするとそれは過去の自分を救うためだったのかもしれないが。

 そうして、道弓は「先生」と名乗り、各地を回って教え子たちに授業をした。課題を出し、出来たら褒める。そうして、また新しい課題を与えて去っていった。道弓が教えた子供の数は分からない。けれど、その全員が一流の暗殺者に近い存在となっていた。


 そんな道弓は、彼女を殺し、彼女との間に子供が生まれていたことを知った。合わせる顔などないと思いつつも、愛した女性との子供ということで、会わずにはいられなかった。そうして、たどり着いたところで見たのは過去の自分のように暴力を振るわれ地獄にいる梓弓の姿だった。梓弓は育ての親を殺してしまった。自分は父親を殺さなかったが、梓弓には自分の血が流れていると瞬時に理解した。



 だから梓弓の目の前に姿を現し、梓弓に手を差し伸べた。


 同じく血に染まった手を梓弓は見る。



 本物の自分の子供を前にして、父親として何が言えるのだろうかと、道弓は、考えた。だが、このまま梓弓を放っておけば、きっとろくな人生を歩まないと。それなら、自分の教えられる「生き方」を教えてあげようと、そう思ったのだ。

 良心からか、それとも、罪悪感を抱えた罪滅ぼしのためか。道弓にはわからなかった。ただ純粋に、無意識に本当の子供、息子を自分の手で育てていかなければと思ったのだ。自分の「生き方」で。


 それから、梓弓と道弓の生活は始まった。敬語もなっていないような、梓弓に敬語を教えたのはあくまで他人「先生」と「生徒」だと教え込むためでもあった。でも、それと同時に、敬語を使うような普通の世界に出て行ってほしいという願いもあった。矛盾、そして複数の理由を織り交ぜながら先生として授業を行った。課題もたくさんだし、それを解けるプロセスも教えた。教えるのはうまかった。だが、何度も本当にいいのかと踏みとどまった。


 生涯、自分を本物の父親だと呼ばせないとずっと胸にしまっていた。本当は、普通の家族のように「父さん」と呼んでほしいとも思っていた。だが、それを言おうとした梓弓が苦しそうにしたので、道弓は1度もその呼ばせ方をしなかった。



 「先生」と「生徒」であり、「父親」と「子供」の複雑な関係の中、それでも一緒に生活できることを、道弓は幸福に思っていた。



 だからこそ、息子の反抗期に戸惑い、それでも息子が抱いた初めての本気の夢を応援したいと思った。今更だと、梓弓は言ったが、今更じゃない。と、そう伝えたかった。ようやく、眩しい世界に恐れつつも踏み出した息子の成長を道弓は誇りに思った。そんな息子の姿をずっと見ていたいと。




 ――――それもかなわない願いになりそうだが。






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