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透明の空  作者: 兎束作哉
第1章 灰色の空
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04 財閥の御曹司



 昨日は最悪だった。


 階段の上から落ちてきたやつのことであたまがいっぱいになっていたからだ。ここまでくるともう勉強なんて勿論のこと手は付けられず、明日提出の課題は放棄した。ここまで自分があんな奴に乱されるとは思わなかった。

 ただ純粋に、俺の目を見ても怖いとか言わなかった奴に興味を持った。それだけの話な気がしたが、実際のところどうだろうか。

 いつもと変わらない、教室に入り、誰も俺の存在など認知することなく、俺も自分の席に座る。窓際の1番後ろの席に鞄を置き腰を下ろし、外の景色を眺め、灰色の空を見てため息を漏らす。



(空澄、空澄なあ……どこかで聞いたことある気がするんだが)



 空澄囮と名乗った彼奴の苗字がどこかで聞いたことあるような苗字だった。調べてみようとも思ったが、そんな関心などなく、逆に自分がここまで人に関心を持ったことが以外で、自分はどうかしてしまったんじゃないかと、彼奴のことを考えないようにした。だが、考えないようにすればするほど、頭の中にあの眩しい笑顔が思い出される。



(……もう1度会えるとしたら、俺はなんて彼奴に声をかけるだろうか)



 そんな柄にでもないことを思う。そんなの自分じゃない気がして、俺は考えを散らす。

そう考えている内にチャイムが鳴り、担任が入ってきた。



「よーし、お前ら席に着け。今日は、転校生を紹介するぞ」



 転校生という単語に過剰に反応するクラスメイト。俺も、この時期に転校生とは珍しいと思いつつも、たかがクラスメイトが一人増えるだけだと、興味ないことを示すため窓の外を見る。教室の雰囲気が変わるのは苦手だ。行事ごとも集会も、全て苦手だ。



「よぉし、入ってこい」



 担任の声がかかるとガラガラっと建付けの悪い扉が開く。ざわめきだした教室に、仕方なく取り敢えずは、そいつの顔でも拝んでおこうかと、前を向く。

 すっと背筋を伸ばし、少し長めの黒髪を揺らしながら入ってきた生徒に俺は思わず息をのんだ。否、目を見開き何で彼奴がここに? と食い入るように見てしまう。



「今日から、このクラスの一員になる、空澄囮っていいます。かたっくるしいことと、難しいことは苦手だから、気軽にあすみんって呼んでくれ」



 そういって、にこりと笑い自己紹介をしたのは昨日俺が出会った、空澄囮だった。



(は、はあ?明日にでも会えるってそういうことかよ)



 通りで、名前も顔も知らない生徒だったわけだ。盲点だった。

 そう思いながら、同じクラスになってしまったことに、彼のその他の紹介を聞き逃し、それから座席の話になった時、顔を上げると空澄と目が合った。

 ルビーの瞳を爛々と輝かせて俺を見つめた空澄は、数秒もしないうちに俺を指さした。



「俺様、あそこの席がいい」



 一斉に俺に目線が集まり、クラスメイトの注目の的になってしまう。確かに俺の前は空いているが、此奴の後ろとかは絶対嫌だ。そう首を振りたかったが、担任は俺の意見も聞かず席を決めやがった。もともと拒否権はないだろうがそれでも、あんまりだと思う。

 勝手に物事が決められ、俺の目の前の席に腰を下ろし体をこちらに向けた空澄は満面の笑みで俺を見てきた。



「ほら、会えただろ?えっと、あずみん」

「……」

「これからよろしくな」



と、白い歯を見せて笑った此奴に、俺は苦笑いも何も返せなかった。


 それから、授業中に分からないといってわざとらしく聞いてきたり、やたら俺にからもうとしてきた。だが、周りも転校生である空澄のことを放ってはおかず、やすみ時間には質問攻めにあっていた。それを嫌がる様子もなく、空澄は全部受け答え、持ち前の笑顔でみんなの笑いを誘った。すぐにクラスになじんだ空澄は、やっぱり世界が違うと思った。 

 そうしてどうやら、俺の感はあっていたようで、空澄は空澄財閥の御曹司だった。



(通りで、聞いたことがあると思った)



 空澄財閥とはこの国で3大財閥のうちのトップとされる最古の財閥で、その規模スケールは計り知れない。3大と並んで称される、久遠、華月とは比べ物にならなかった。まあ、そんな経済のことも何も知らないし、興味がないためただ有名人という認識で空澄を見ていた。俺から話しかけることはなかったが、話したいという雰囲気が空澄から伝わってき、俺は迷惑していた。極力人と関わりたくない。

 クラスメイトも、何故空澄が俺に興味を持ったのか不思議がって、俺にはかかわらないほうがいいと聞こえるような声量で言っていた。それをどうこう咎める必要性は感じなかったので、俺は寝ているふりをして過ごすことにした。


 結局その日は、空澄はクラスの注目の的となり、どの部活に入るだとか、財閥の御曹司って暮らしが違うだとか、絶えず人が周りにいる状態で、俺と話すことなく1日が終わった。俺はその間、誰にも喋られることなく、平和に過ごせたため、それはまあよかったと思う。

 そんなこんなで、俺は家に帰り、玄関で靴を脱いだところ、先に帰っていた先生に声を掛けられた。



「おう、お帰り、梓弓。依頼来てるぞ?」



 そう言った先生はにやりと笑ってUSBを取り出した。




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