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透明の空  作者: 兎束作哉
第3章 毒蛾の空
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13 決別



「綴、何でここに?」

「まだ、目覚めてねえのか。にしても、悪運強いよなあ」



 俺の話を無視し、近くにあった椅子にどかっと座った綴は空澄の顔をのぞき込んでふーんと、興味なさげに言った。

 最近綴とは話せていなかったため、久しぶりにみた相棒の顔に安堵感を覚えている自分がいた。少しでも誰かが隣にいて欲しいと思ってしまっている自分がいることに、驚きだったが、それよりも何故ここに綴がいるのかとそこが不思議だった。



「何でここにいるんだ。お前は、空澄に興味なかったんじゃないのか?」

「そう、空澄には興味ない。空澄財閥の事も、等しくどうでもいい。僕は自分の命がかかった殺し合いにしか興味ない。でも、一応アミューズの幹部として偵察をかねて」

「脱退したんじゃないのか?」

「クイーンのおかげで処分は免れたって言っただろ?そういうこと」



と、綴は言うと肩をすくめる。


 嫌な想像が頭をよぎったが、仮にも相棒を疑うのはよくないと流すことにする。

 だが、綴が言うのなら、やはり今回空澄を狙ったのはアミューズと言うことになるのだろうか。華月は潜入を……と言っていたため、協力者かは置いておいて主犯では内容だった。となると、空澄財閥を、空澄を狙ったのはアミューズか。

 どれほど空澄財閥が周りから恨まれているか計り知れないため、アミューズではない組織かも知れないが、その可能性はやはり高かった。



(だが、殺そうとしている割には相変わらず詰めが甘い……それに、生け捕りに、というようなそういうのを感じた)



 黒服の男達は、俺達が逃げたため拳銃を撃ち放ってあんなことになっていたが、初めは空澄についてくるよう脅迫していた。その点から考えると、空澄財閥に恨みはあるものの、ターゲットである空澄は生け捕りにしようとしていたのではないかと。謎は深まるばかりだ。



「綴は、アミューズの情報を知っているんだろ?」

「だから、前も言っただろーが!んな、僕あんまり知らねえって。知ってても、ゾクゾク出来ない事には興味ないって」

「聞いた俺が馬鹿だった」



 綴はこういう奴だったと、俺は溜息をつく。

 もしかしたら、情報が手に入るかも知れないと一瞬でも思った俺は馬鹿だと。他人に期待するだけ無駄だと思ってしまった。

 そんな俺の心中を察したのか、綴が目を鋭くさせ、俺を睨む。



「ほんと、お前は空澄ばっかりだよな」

「は?」



 綴の一言に俺は疑問の声を上げる。

 綴は馬鹿にするように鼻を鳴らすと、呆れたとでも言うように口を開いた。



「口を開けば、空澄、空澄って。空澄は、お前の信仰対象か?神様みたいなもんか?お前のそれは友情じゃねえよ、クソみたいな信仰だ。依存対象……そもそも、お前と此奴は生きる世界が違うだろ!僕達はゴミ溜めで育って、日の目を見ることすら出来なかった。眩しすぎる世界では生きていけないから、血で血を洗った!なのに、今更普通に戻れるかよ!」

「……綴、お前ッ!」



 俺は知らぬ間に、綴の胸倉を掴んでいた。だが、綴は出会った時のように驚きも動揺もしなかった。ただ俺に冷たいアメジストの瞳を向けて、何処か苦しそうに、嘲笑する。



「僕と梓弓は同類だ。僕は、梓弓の目が好きだ。人を殺せるような目が、無情で無慈悲な目が!その手だって、指だって、人を守る為じゃなくて、人を殺すためにつかったくせに!」



 確かにそうだ。この手で、何人もの命を奪ってきた。だけど、それでも空澄はそんな俺を認めてくれた。そして、友人になってくれた。

 俺は、依存じゃなく信仰でもなく、友情だとこの気持ちを言いたい。

 冷静さを失うことがどれほど暗殺者にとって不利なことか分かっている。だが、高ぶった怒りの感情は抑えられず相棒に向けることでしか発散できなかった。



「梓弓残念だよ、僕は……やっと、僕のことを理解してくれる人が現われたって思ってたのに……僕を1人にしてくれない人に会えたと思ったのに」

「綴?」



 離せ。と俺の手を払って地面に足をつき、綴はマフラーを調えた。口元を隠すようにぐいっと上に引っ張り、冷たい瞳を向ける。

 俺はまた何か間違ってしまったのかも知れないと、後悔が生れた。



「弱くなったよな。梓弓は。出会った時よりもかなり」

「俺は……」

「失望した。僕と同じくせに、その手で何人殺してきたかも分からなくなってるくせに、今更偽善者ぶるなよ。お前の手は、人の命を奪える手だ。血濡れた、汚い手」

「……」

「僕なら、これからも一緒にその世界で生きてあげられる。僕なら、一緒に堕ちてあげられた」



 でも、梓弓は空澄を選ぶんだろ? と、綴は口にする。どうして、そんなに悲しそうに言うのか俺には理解できなかった。暗殺のために身につけた相手を観察する目も何もかも役に立たなかった。ただ、目の前の相棒の考えていることが気持ちが理解できなかった。読み取ることが出来ない。三角すらきっと貰えないだろう。



(確かに、俺の手は、汚れている……でも、俺は――――)



 1度光を見てしまった。眩しい世界をみてしまった。なのに、それを諦めるなんて俺には出来ない。

 それに、俺はもうあの暗闇に戻るつもりはなかった。

 空澄と出会って、初めて本当の友人が出来た気がしたから。



「無言っつうことは、それが梓弓の答えなんだな」

「俺は……答えを」

「まあ、今日限りで相棒を降りるって言うことで、それでいいんじゃねえか?僕は、この世界で生きるってとっくの昔に決めているわけだし。僕にはそれしかねえからな」



と、綴は俺の横を通り過ぎ、病室を出て行った。その帰り際、1度足を止め振返らずに言う。



「先生からの伝言。『もう少ししたら、卒業課題を出す』って」

「卒業課題?何だよ、それ……綴、待て――――ッ」



 振返ったときには既にそこに綴はおらず、部屋には静寂が戻っていた。




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