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透明の空  作者: 兎束作哉
第3章 毒蛾の空
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10 御意



「はあ~矢っ張り、俺様ああいう所むいてないのかも」

「よくパーティーに出席しているんじゃないのかよ」



 疲れた、と言った空澄のため一緒に席を外し人気のない廊下のソファに座った瞬間、空澄はぐてんと伸びてしまった。

 俺もさすがにあの会場に居続けるのは辛かったため、空澄が外に連れ出してくれたのには感謝したが、空澄の前で俺まで伸びてしまったらダメだろうと言うことで背筋を伸ばしていたのだ。そうして、先ほど空澄の口から出てきた言葉は全く予想していないものだった。

 普段の言動から、こういう場に慣れていると思っていたのだが違うらしい。寧ろ苦手なのか? と首を傾げる。先程までの堂々としていた空澄からは想像できなかったためだ。



「俺様こういう所慣れてないぜ?皆はそういう風にみるけど、結構気疲れするし、顔も知らない大人の中に居るってかなり窮屈だし、恐怖って言うか」

「お前でもそういうの感じるんだな」

「感じる、感じる!俺様、10歳ぐらいまで家から出して貰えなくて、毎年送られてくるプレゼントは山のようだけど顔も分からない人からのものだったし。そういうので、ちょっと人間不信か持って思うときあるぐらいだし」

「……空澄」



 初めて聞いたその事実に俺は目を丸くした。


 そんなこと微塵も感じさせなかった。いつも明るく笑って、元気で。そんな空澄がそんな思いをしてきたなんて思いもしなかった。

 しかし、確かに、財閥の子息が誘拐される事件は後を絶たない。だから、もしかすると病弱だと偽って、外に空澄を出さなかったのかも知れない。色々考えられるが、これと言って答えが出るわけでもなかった。



(俺、もしかしたら空澄の事何も知らないのかもな)



 そう思うと何だか情けなく感じて、本当に友人と言えるのだろうかと自己嫌悪に陥ってしまう。



「ああ、でも!今は、あずみんっていう友人がいるから寂しくもなんともないぞ!毎日が楽しいって思えるのは、あずみんのおかげだ!」

「それならいいんだが……空澄、お前の家ってもしかして――――」



 俺がそう言いかけたときだった。

 ジャコッと俺達を囲むようにして黒服の男達が拳銃を構え立っていた。



(いつの間に……!?)



 完全に油断しており、気配に気付けず焦った。だが、それ以上に驚いている空澄を見て、俺は咄嵯に空澄の前に立ち両手を上げた。この行動が正しいのか分からなかったが、空澄を守れるのは自分しかいないと必死に抵抗の意を示すためだ。



(華月の言っていたのは、このことか……)



 ボディチェックと手荷物検査がなかった。と言うことは、本来防げたはずの敵の侵入を許したと言うことだ。それもグルで。



(いいや、此奴らが何処の誰に雇われたのかも分からない。だが、考えられるのはアミューズか、他の財閥の奴らか……)



 少なくとも、今日、パーティーに空澄が参加すると知っていた奴になる。

 逃げ場を失い、俺はただ空澄の前に立つことしか出来なかった。両脇に拳銃を装備しているがこの人数を突破することは難しい。



「空澄囮、我々と一緒に来て貰おうか」



 リーダー格であろう男がそう言った。

 俺は空澄の状況を確認したかったが、顔を逸らせば此の男達に何をされるか分かったものではない。隙を見せず、そして隙をうかがうことしか今できることはない。



(先生だったら、こんな時どうする?)



 暗殺者は必ず逃走経路を準備する。それは習ったし、それは俺地の世界では一般常識だ。だが、ボディーガードの場合は違う。主人を守る為に盾になることが求められている。そして、主人を速やかに逃がすことも。

 だからこそ、方法が分からなかった。まさかこんな所まで空澄の命を狙う奴らが追ってくるとは思っていなかったからだ。忠告はあった。だが、まさかこのタイミングで。



「あずみん」

「大丈夫だ、お前は俺が守る」



 空澄の声に俺はそう返すしかなかった。

 男は早く空澄を渡せと要求してくる。ここは要求をのんで、隙を突いて空澄を奪還するべきか。



(いや、そのまま取り返せなかったとしたら。俺がいる意味がない)



 考えろ、考えろ。と自分に言い聞かせる。俺が、どうにかしなければと、気持ちばかりが焦る。そんな時だった。



「ああっ!」

「うおっ、何だ!?」



 空澄がいきなり声を上げ指を指した。すると、男達の視線は空澄の指さした方向に集まり、隙が出来る。



「あずみん、今だ!」

「御意」



 俺は空澄を持ち上げ、男達の間をわって走り出した。




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