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透明の空  作者: 兎束作哉
第3章 毒蛾の空
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06 支配の理事長



「あら、どうやら安全地帯には行けたようね」

「ああ、あんな仕掛けがしてあるとは思わなかったがな」



 安全地帯にあったガスマスクをつけ、次の目的地である4階の廊下まで俺達はきていた。綴も万全に回復し、今すぐに切ってかかりたいとナイフを持ってうずうずとしていた。

 廊下には紫色のガスが漂っており、栗花落先生もドレスに似合わないガスマスクをつけている。直接吸ったらおだぶつだと言うことは其れだけでよく分かった。毒ガスというのは本当らしい。



「なあ、梓弓!もう、殺っちゃっていいか?」

「ダメだ」

「そういう焦らしプレイ?僕は、焦らしプレイは好きじゃねえよ!」



(空澄の頭が中ったら、あの教室は割り当てられなかった……)



 俺は拳を握りしめ、栗花落先生と対峙する。



「暗殺者としては見習いたいと思った。先輩に当たるもんな、栗花落先生」

「あら、褒めてくれるのかしら。聞いていた印象とは随分違うわね」

「聞いていた?」

「私も、先生の教え子だから。先生言ってたわ。口下手で、感謝を伝えてくれない生徒がいるって。でも、誰よりもその生徒の事を特別扱いしているって。少し、妬けちゃうわね」



と、栗花落先生は肩をすくめる。


 栗花落先生もまた、先生の教え子なのだと分かった。一体、先生はどれだけの教え子がいるのだろうかと想像も出来なかった。ただ、綴の話を聞けば、時々やってきて課題を出して答え合わせをする程度で一緒には暮らしていないらしい。



(なら、一緒に暮らしている俺は?)



 先生は未だ現役だ。なのに、俺と一緒に暮らしていて、それこそ普通の家族のように接してくれる。話を聞けば聞くほど分からなくなった。そうして、綴も栗花落先生も先生の教え子で、そんな教え子達がアミューズに所属していると。

 栗花落先生は肩に掛かっている髪を払ってガスマスク越しに俺をみた。



「それで?空澄君は、おいてきたのかしら。あのトラップに気づいたと言うことは、もう既に?」



と、栗花落先生は残酷な言葉を言い放つ。


 扉のボタンに触れ、自動ドアが開いた瞬間空澄は倒れた。ボタンには毒が塗ってあったらしく、1人は確実に仕留める算段だったのだ。それに気づかず、俺は空澄を。

 悔やんでも悔やみきれない。

 そして、栗花落先生の言うとおり、空澄は安全地帯においてきた。勿論そこにあった3つ目のガスマスクをつけて。



「さあ、先生がどこまで詠んでいたかは分からないが、これのおかげで、栗花落先生の空澄ターゲットは死なずに済んだ」

「何よ、それ?」



 俺は、空になった栄養ドリンクをポケットから取りだしそれを床へと転がした。栗花落先生はそれに一瞬視線を落としたが、すぐに俺達の方を見る。

 一見すればただの栄養ドリンクの瓶にしか見えないだろう。先生もそういって渡した。そう、「何にでも効く薬」だっていって。



「『何にでも効く薬』だって。先生が俺にくれたものだ」

「まさか……はっ、本当に特別扱いしているっていうのね。矢っ張り、先生は貴方には甘い!」



 そう言って栗花落先生はナイフを取りだし、俺に向かって投げつける。だが、それは俺の横を通り過ぎて後ろの壁に当たった。そして、同時に俺は栗花落先生の方へ走り出す。



「なあなあ、梓弓!あれに当たったら、痛いか!?痛いよなあ!?」

「やめておけ、栗花落先生の事だ、毒が塗ってあるに違いない」



 投げナイフの殺傷性は薄い。となると、あのナイフには毒が塗ってあるだろうと。自ら辺りに行こうとする綴を止めつつ、俺は栗花落先生に銃口を向ける。この調子なら押し切れると、綴の援護をと狙いを定め、引き金を引こうとしたとき、栗花落先生は懐から手榴弾のようなものを取りだした。



(不味い、巻き込まれる――――)



「綴、下がれ!」

「いいわ、道連れにしてあげる!」



 栗花落先生はそう言うとピンを引き抜こうと指をかける。綴は間に合うと思ったのかナイフを握り床を蹴る。俺はそんな綴を引き止めるべく手を伸ばした。



「そこまでにして貰おうか。私の学校《支配領域》で手榴弾それは使わせないよ」

「……ッ!?」



 カン……カツ……とピンの抜かれていない手榴弾が床に落ちる。弾みで爆発したら……と俺は拾いあげ、栗花落先生の動きを止めた男を見上げる。



「理事長……」

「やあ、鈴ヶ嶺君。そして、綴君。随分じゃないか」



 全く気配も感じず現われた神々廻理事長に俺と綴の動きは止る。放たれているプレッシャーに、身体が支配されたように動かなかったのだ。綴も同じようにナイフを握りしめたまま硬直している。理事長はにこやかな顔で栗花落先生の首を後ろから掴んでいて、栗花落先生も同じように動けなかった。



「し、神々廻……」

「栗花落先生、学校での手榴弾の取り扱いは許可されていないよ。それに、君はただの教育実習生だ」

「……かっ、かはっ」



 ミシミシ……とこちらまで音が聞えてきそうなほど、栗花落先生の首を掴む力が増していく。栗花落先生の顔は真っ赤になり、苦しそうだった。それでも、理事長は力を緩めることなく、栗花落先生を持ち上げた。



「これは、教育が必要だね。栗花落先生……2人きりの指導、この後付合って貰おうか」



 そう言って栗花落先生を気絶させた理事長は打って変わって優しく彼女を抱き上げると俺達に背を向けた。



「空澄君は保健室に運んでおいたからね。それと、もうこのガスは中和されているからガスマスク(それ)を外しても大丈夫だよ。遅くならないうちに帰宅した方がいい」

「理事長……は」

「うん?私は今から、彼女の指導をしないといけないからね。君たちも、まだまだ未熟だ。励みなさい」



 理事長はそう言い残して、階段を降りて行ってしまった。


 何故突然現われたのか、栗花落先生の正体に気付いたのかも何もかも不明だった。それ以前に、あの理事長から放たれた支配者のプレッシャーは、暗殺者の俺達を一瞬で仕留め、支配下に置いた。その後、俺達は空澄を回収しに保健室まで行き帰路につくことにした。道中目覚めた空澄はふぁあ……と大きな欠伸をして、全くさっきまでのことを覚えていないようだった。




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