04 スタイル
「――――みん、あずみん、起きろ!」
「……んん。空澄?」
「よかった、起きた!」
空澄が俺を必死に呼ぶような声が聞えた気がして目を覚ました。ぼやけた視界をはっきりさせるために何度か瞬きをして、目の前にいる空澄をみると、空澄は安堵の表情を浮かべた。
周りを見渡すと、薄暗く物音1つしなかった。
(いつの間に、寝入っていたんだ……)
確か栗花落先生の荷物を運ぶのを手伝ったところまでは覚えている。力持ちに見えて意外と非力なのだと思いつつ、女性であれば普通かと、頼ってくれるのを嬉しく思ってしまっていた自分がいた。そして、手伝ってくれたお礼にとチョコレートを貰った所までは覚えている。
(それにしても、何でこんなに暗いんだ?)
窓の外は黒幕に覆われているように外の景色が見えず、生徒1人の話し声も足音も聞こえなかった。担任が何かを言っていた気がするが覚えていない。
「空澄、何があったか覚えているか?」
「俺様もさっき目を覚ましたばっかりで!全然何があったか……ああ、でも栗花落先生に貰ったチョコレート食べたら眠くなって」
「空澄もか?」
全て繋がったように、ピンと糸が張る。
気がなかったため、話を聞き逃していており、完全に油断していたことも気を抜いていたこともあって気づかなかった。
(もしかして、刺客か……?)
あり得ない話ではない。綴も転校生だと言ってやってきて、空澄をアミューズという組織から暗殺するよう雇われていたわけだし、もしかしたら栗花落先生もそうなのではないかと。となると、この教室に留まるのは危ないか。一刻も早く出口を探して学校から出た方がいい。綴のように、ただ殺し合いを求めているような暗殺者ではないとしたら、確実に空澄の命を狙ってくるだろう。出来るのであったら、空澄を巻き込まずに解決したかったのに……
そう思い、立ち上がって空澄の腕を掴んだ。
「うおっ、どうしたんだ!?」
「ここから離れるぞ。きっと栗花落先生は暗殺者だ」
「栗花落先生が?何で」
「……まだ確証はないが、俺も栗花落先生からチョコレートを貰った。それに睡眠薬が混ざっていたって言うなら……俺達を確実に仕留めるきだ」
少し遊ばれているのかも知れない。
俺と空澄は何の疑いもなくチョコレートを食べた。そこに毒を仕込むことだってきっと出来たはずだ。それをしずに、俺達を眠らせ学校に閉じ込めたのはどういう理由があってか。
(生徒のいる前で俺達が倒れたらチョコレートを渡した自分が、疑われると思ったからか?)
色々と想像は出来るが、答えは出ない。取り敢えず、学校から出ることが優先だと、廊下に出る。廊下も真っ暗で突き当たりが見えないほど闇に包まれていた。
「……隔離されているみたいだな」
「あずみん」
「何だ、空澄」
「朝、担任が言ってたぞ。今日は速やかに下校するようにって、何でも白瑛コースの棟の工事をするからとか、閉鎖するって」
「先にいえ!」
思わず俺は叫んでしまった。空澄は「聞いてなかったのか?」と首を傾げていたが、そう言われると言い返せなかった。確かに何も聞いていない。それは俺の落ち度だ。だとすると、これは仕組まれたことではなく、元々それを知っていたから逆に利用したと。
(まあ、どっちでもいい。他の生徒を巻き込まないって言うのは、暗殺者として腕がいいって事だろうな)
周囲を巻き込まず、速やかにターゲットの命を奪うこと、それは暗殺者に求められている技術の1つだ。一流の暗殺者であれば、それぐらい出来て当然。と言うことは、綴の上を行く暗殺者に違いない。
そう思って廊下を走り出口を探していれば、廊下の向こう側からコツ、コツ……と足音が聞えた。
「はぁ~クイーン強いんだから、あー梓弓!僕、捕まっちゃった♡」
「……つ、綴!?」
闇の中から姿を現したのは、仕事着に着替えた綴と、それを片手で持ち上げて先ほど着ていた服とは違う、黒いドレスに身を包んだ栗花落先生だった。
栗花落先生は暗殺者が放つ独特なプレッシャーを放っており、真っ黒な瞳で俺と空澄を睨み付ける。
「本来であれば、綴……貴方の処分は決まっていた。だけど、私のおかげで処分は免れたの、感謝して欲しいぐらいだわ」
「クイーンの、毒はほんと痺れる。致死性毒じゃないのは、物足りねえけど♡」
と、明らかに身体が麻痺して動かないような綴は、変態性癖を発動しているようで恍惚とした笑みを浮べていた。
そんな綴にため息をつきながら、栗花落先生は綴を乱暴に床に落とした。
「……鈴ヶ嶺君と、空澄君だったかな。悪いけど、君たち……空澄君には死んで貰わないといけないの。私達のボスが貴方を殺すよう命令したから」
「俺様を?」
「ええ。口を滑らせるわ……ボスは『空澄財閥の壊滅』を目論んでいる」
そう栗花落先生は真顔で言った。何故前置きで「口を滑らせる」と言ったのかは分からないが、綴を殺せたのかも知れないのに、ただ麻痺させただけであるのも引っかかる。一応の仲間意識か、それともいつでも殺せると思ったか。
栗花落先生の黒いドレスは彼女の仕事着なのだと理解する。動きにくいようなそれは、きっと近接むきの暗殺者ではない事を表していた。となると、俺と同じ遠距離スナイパーか。
(だとしたら、俺達の目の前に姿を現すのは可笑しいか)
経験から、栗花落先生が何を得意とする暗殺者かを予想する。もうこの時点で、暗殺者と分かっているのは、綴と同じ組織「アミューズ」とかいう馬鹿げた組織に所属しているからだ。そして、「アミューズ」の目的は「空澄財閥の壊滅」、皆殺しと言うことだろう。だが、幹部を空澄に送ってくる理由が分からない。ガードは堅いだろうが、狙うのなら財閥のトップではないかと。
「梓弓君、貴方も暗殺者らしいわね。こちら側の人間……どうして、空澄君を守るの?」
「空澄は……空澄は俺の友人だからだ」
「そう、お綺麗なのね。まあ、いいわ。見ての通り、私は綴とは違って近接向きでも、君のように遠距離向きでもない。私の武器は『毒』よ」
と、自ら公言する栗花落先生。
何が目的かと、戦闘スタイルを言って何を狙っているのかと俺は固唾をのむ。感情の波がない、自分の暗殺術によほど自信があるのだと。
「梓弓君、勝負をしましょう。これから30分後、この棟に毒ガスを放出するわ。でも、助かる方法が1つだけある。この棟の部屋の何処かに安全地帯がある、そこに行けば毒ガスが防げるガスマスクがある……でも、間違えて部屋を開いた途端、毒ガスが貴方たちを襲う。精々、苦しむ事ね」
そう言うと、栗花落先生は闇の中へ消えていった。




