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透明の空  作者: 兎束作哉
第3章 毒蛾の空
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03 将来の夢



「あずみん、課題終わったか?」

「ゴールデンウィーク明けの抜き打ちテストの補充のせいで、手がつけれていない」



 ゴールデンウィーク明けの抜き打ちテストの補充、そして新たに出された課題に全く手がつけられず5月も下旬にさしかかっていた。空澄は、「だよな~」と楽そうに言うが、全く俺達はだよな、なんて言っている余裕などなかった。成績最底辺、来年は受験だからと口酸っぱく言われて、今から間に合うのかと諦めている。大学生活という未来の自分が想像できず、夢も何もないため、就職でいいんじゃないかと他人事のように考えていた。

 先生には「人生課題」として、やりたいこと、なりたい自分を見つけるようにと課されたが、何も見つからずただただ時間は過ぎていった。そもそも、暗殺者で汚れた手の俺が何か人の為に出来る事なんてないだろう。ならいっそ、空澄財閥が募集しているかは分からないがそこのボディーガードにでもなって、金を稼ぐのもありかもしれない。

 そんなことを言えば、空澄はきっと笑うだろう。



(別に、疲れてるわけでもないのに、栄養ドリンク……)



 どういう風の吹き回しか、学校に来る前に先生に渡された「栄養ドリンク」なるものを鞄から取りだし眺めた。何でも「何にでも効く薬」だというらしい。本当にそんなものがあるのかと疑いたくなったが、俺の身体のことでも心配してくれているのだろうと、先生なりの配慮をありがたく受け止めて頂戴したが、もし本当に「何にでも効く薬」であるなら、空澄にでもつかってやりたい。さすがに、馬鹿がなおる薬ではないだろう。



「梓弓疲れてるな~もしかして、暗殺者と殺りあったとか?」

「なわけないだろ、お前と一緒にするな。綴」



 隣でによによと、楽しげに喋りかけてきた綴の言葉を交しつつ、綴は将来何になるのかとふと思ってしまった。此奴も此奴で、将来のことなど何も考えていなさそうだと、失礼なことを考えてしまう。



(空澄は……何になるんだ?)



 ふとそんな考えがよぎり、目の前で俺の取りだした薬に興味津々な空澄をみる。こんな脳天気でも、一応は3大財閥、ヒエラルキートップの財閥の御曹司だ。だからきっと財閥を継ぐのだろうと思うが、今の学力で経済を、金を管理できるのかと不安になる。俺の事じゃないのに、自分事のように考えてしまうのは、それほど空澄の事が心配というか、離れたくない意思なのだと自分でも思う。もう切っても切れないような縁で、口にはしないが空澄が俺から離れていったら……そう考えると多分夜も眠れない。


 現に最近夢を見る。



(空澄は俺を置いていったりしないよな……)



 自分の顔も覚えていない母親はあのクソ親父をおいて出て行ってしまった。それは裏を返せば俺も同時に捨てられたことになり、置いて行かれる寂しさというのは未だに残っている。顔も分からないのに変な話だが。

 だから、空澄がもし手の届かない存在になってしまったら。命を狙われているため、殺されるようなことがあったら、俺は絶えられるだろうかと、そういう想像もしたくない不安に駆られてしまう。



「どうした?あずみん」

「いいや……別に何でもない」



 考えなければいい。俺はそう思って先生から貰った薬をポケットにねじ込んで頭をかく。綴はそれを不思議そうにみていたが、ホームルームの始まりを意味するチャイムが鳴ったことで、空澄も自分の席に着いた。



「そういえば、あずみん!今日は、教育実習生が来るらしいぞ!」

「教育実習生……?」

「梓弓知らねえのか?教育実習、教員免許取るために必要な単位のことだよ」

「し、知ってる。それが、どうした」



 見栄は張ったが知らない。そもそも、教育実習生が来ることなど知らなかった。綴は可笑しいと腹を抱えて笑っていたが、反対の席の空澄はキラキラと目を輝かせていた。



(教師になるために必要な過程か……)



 担任が連れてきた教育実習生は、小綺麗な顔の女性だった。毒々しい赤黒い髪をポニーテールにまとめた気の強そうな女性。名は栗花落水仙つゆりすいせんと言うらしい。ホワイトボードに書かれた名前が漢字ばかりで頭が痛くなりそうだったため、俺は目をそらす。そんな教育実習生の栗花落先生の自己紹介を聞き逃しながら、俺は教師という職業は……とぼんやりと考えていた。

 先生に、暗殺のための技術を、これまで授業を受けてきた。一般的な先生とは違うが、先生の教え方や偉大さなどを知っているからか、ああなりたいとはほんの少し思っていた。誰かにものを教える事の難しさは知っているが、それで成長できる人がいると言うこと。その善のサイクルに。まあ、俺がなれるわけないがと、諦めを抱いてはいるが。



(教師、教師ね……)



 どうやったらなれるのだろうか、と考えながら、俺は担任の言った最後の言葉を聞き逃した。



「今日は帰りのホームルームが終わったらすぐ帰るように。掃除はなしだ。白瑛コースのこの棟を一時的に封鎖する」



と、しっかり聞いておけばよかったと後々後悔することとなった。



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