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透明の空  作者: 兎束作哉
第3章 毒蛾の空
33/63

02 完敗



「あずみんなんだそれ!ぞうさんか!」

「犬だ……!見たら分かるだろ」



 チョコレートで絵を描くというのは存外難しいものなのだと思った。

 注文された、パンケーキに俺はチョコレートで絵を、空澄はオムライスにケチャップで絵を描いていた。これは、何だかこのカフェでやるようなことじゃないなと思いつつも、頼まれたものなのでやりきらなければという思いはあった。



(……自分でも酷いと思ってる)



 どう考えても、犬には見えない、しかも足が五本あるモンスターを犬だと言い張るのは少し無理があったか。空澄の絵は見たことあるし、息をのむぐらい上手かったが、ケチャップとなるとまた話は別だったらしい。やり直しが利かない上に、客を待たせるわけには行かないのでモンスターが描かれたパンケーキとオムライスをもって注文した女性の元へ戻る。

 反応は言うまでもないが、引いていた。



「こ、これ……は」

「犬です」

「猫です!」



 注文した女性二人は苦笑しているのにかかわらず、その横で「なかなかだろ!」と胸をはってる空澄がいた。

 女性達は空澄のポジティヴさに開いた口が塞がらないようだったが、くすりと笑って「2人とも可愛いね」といって、美味しそうに食べていた。味は別に普通らしい。そうして、オムライスを食べていた方の女性がちらりと俺の方を見た。



「ごめんなさい。見過ぎちゃったかしら?その、髪型が……ほら、ほどけそう」

「……あ」



 髪型を指摘され、自分の髪に手をやると、空澄に結んでもらったハーフアップもどきが崩れ、そのゴムが緩んでいた。女性は、直してあげようか? といってきたが、原則店員に触れることは出来ないため、それを知っている女性は如何したものかと困った顔をしている。



「だらしないところみせてすみません。直してきますね」

「いいのよ。その髪型、自分でやったの?」

「あ、いえ、空す……あすみんが」



と、俺が言うと、女性の顔がみるみるうちに赤くなる。恥ずかしいというよりかは、嬉しいとでも言うような顔。そうして、興奮気味に「それって、つまり、鈴ヶ嶺君はあすみんと!」と何やらわけの分からないことを言い出す。

 一応、バイトをしているときるルールとして互いを「あすみん」、「あずみん」呼びにしているが、恥ずかしいって言う問題じゃない。空澄が財閥の御曹司だとバレるのは面倒だしと、配慮してのことだが、慣れない呼び方には苦戦する。



「あの、ポッキーゲーム頼んでもいいですか!」

「……?」



 女性は、何かを決意したように俺にそう尋ねてきた。オプションサービスをつけることが出来るのがこのカフェのルールにあり、その1つを頼んだのだと思われる。だが、こちらも聞き慣れない単語に首を傾げるしかない。だが、俺の戸惑いも気づく様子なく注文を続ける。



「相手は、あすみんがいいです」

「……?」



(ポッキーゲーム……?)



 女性の言葉が右から左へと流れていく。

 すると、呼んだか? と空澄に後ろから肩を叩かれる。



「ん?俺様指名されたんだよな」



 状況を理解していない空澄は俺を見て首を傾げるばかりで、女性はというと「頼んじゃった~」と顔を赤くしていた。

 それから、バイト先の同僚にやり方を聞きに行き、ポッキーを持って空澄が帰ってくる頃には、俺は全てを理解し羞恥心で死にそうになっていた。



「うわ、うわ………」



(んなもん、出来るか!?俺と空澄はそう言うのじゃない!)



 そもそも、このバイトをしている時点で避けて通れない者であったのだが、本当にバイトの内容を知っていればこなかった。



「あっずみん!ポッキーもってきたぞ!って、凄い真っ青だけど、どうした?」



 空澄は全然理解していない。



「何すんのか分かってんのか?」

「ゲームだろ?ゲームなら俺様得意だぜ!」



と、親指を立てる。


 溜息以外何も出ない。


 ウジウジしていても仕方ない。腹をくくるしかないと俺は空澄を見る。一応、このゲームの内容については理解したようだったが、きっと此奴に恋愛感情もクソもないだろうと思う。そういう目で人を見たことが無いんじゃないかってぐらい、純粋なめをしている。

 そういう所に、俺は惹かれているんだ。人間として。



「よぉーし、ゲームだな。今度こそ勝つ」

「そうこなくっちゃな!あずみん!俺様も負けねえ!」



 そんな風に意気込んで初めた、ポッキーゲームは、俺の敗北で幕を下ろしたわけだが、思えば、空澄の初めてをこんな所で奪ってはいけない気がして、勿論邪な考えも何もなかったが、俺なんかで汚してしまったらいけない。そんな意識があってブレーキがかかってしまった。

 どうせ、彼奴は何も考えていないだろうと思いながら、それでも俺からそう意識しないと、空澄は鈍感で一生気づかないのだろうと思った。


 まあこれはこれでいいとして、ゴールデンウィークは怒濤の連続で、バイトざんまいだった。

 もう一生やりたくないと思いつつ、記念にとバイト先の制服を貰って上機嫌だった空澄をみていると、これはこれでよかったんじゃないかと思う。また、1つ、友人との思い出が出来て。


 ただ、ゴールデンウィーク明けの抜き打ちテストでは散々な結果だったのは言うまでもない。





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