15 アナグラム
「今日も滅茶苦茶頭使ったな!俺様、古文苦手かも」
「あーでも、暗記ゲーな所もあるし、繰り返し覚えるしかないな」
「あずみんは、国語得意だったよな!矢っ張りコツとかあるのか?」
空澄の部活が終わるまでガラにもなく自習室で自習をしていた俺は、空澄と合流し廊下を歩いた。何色でもその色を映す真っ白な廊下は、夕日のオレンジ色を映し真っ赤に燃えていた。廊下に長い黒い影が伸びる。
綴はあの後俺にべったりだったがターゲットだった、空澄には全く興味を示さず、どれだけ空澄が話し掛けても無視を決め込んでいた。それどころか、嫉妬のような敵対心のようなものを燃やしており、空澄を見る目が暗殺者の目をしていた。一応彼奴にも暗殺者としての自覚はあるのか、依頼がない私欲を満たすために殺しはしないらしい。といっても、空澄はターゲットととしてはつまらない方で、俺も前に思ったがいつでも殺せるぐらい隙がある。だから、綴もつまらないのではないかと思った。まあ、もう手を出さないというのなら危険ではないが。
その後、綴が何処に行ったが知らないが、学食は相変わらず1人で何処かで食べているし、部活も入っていないのかホームルームが終わるとすぐに姿をくらましてしまう。綴の方も依頼があるのだろうと思うが、俺には関係無いと空澄との時間を優先することにした。第1、あんな変態に好かれてこっちも迷惑している。
(だが、情報は手に入ったから差し引きゼロか)
勝利報酬である空澄を狙う組織の名前を申し訳ない程度に綴から教えて貰った。組織の名前は「アミューズ」と言うらしい。実際そこのボスと顔を合わせていないそうで、どんな顔の奴かも名前も知らないらしい。ただ、もの凄く頭がきれ、財力があるやつだと綴は言っていた。それだけの情報では過不足で、組織の名前のつづりも分からないらしい。耳で聞いてそう聞えたから、そういう組織の名前なのだろうという曖昧な情報を渡してきた。
そして、綴はその組織に選ばれた幹部の1人だったらしい。その後どうなったのかと聞けば、解雇されたと言っており、後2人幹部がいるらしい。
(アミューズ……意味は「お楽しみ」だったか。巫山戯ているが、安直に、もしそうならば綴がJ、残りの2人もトランプの絵柄にちなんでいるのだろうか)
珍しく冴えた頭でそう考えていると、空澄とかなり距離が出来てしまったことに気づき、俺は小走りして距離を縮めようとした。
「遅いぞ、あずみん!」
「お、おい、前!人!」
曲がり角から誰かが出てくるのが見え、声をかけたが空澄は気づくのが遅れその誰かとぶつかり尻餅をついた。俺は急いで駆け寄ったが、俺が手を差し伸べる前に、曲がり角を曲がって出てきた奴が、空澄に手を差し伸べた。
「あちゃー前見てないとダメッスよ?」
「あ、ありがとな!」
奇抜なピンクに紫のグラデーションのかかった髪の少年がそこにはいた。生意気な口調で、制服も着ていない。ここの生徒ではないのだろうかと、空澄をみながら俺は目の前の少年を見つめる。空澄は怪我はないようで、誰かも分からないそいつに礼を言っていた。勿論、いつもの調子で。
(誰だ?こんな時間に……生徒じゃないとしたら)
「礼はいいッスよ。ぶつかった僕にも非があるわけだし。まあ、普段から周りに気を遣うって言うことも大事だとは思うんスけど」
と、よくまわる口で、にこりと少年は微笑んだ。
空澄と身長は同じくらいだっただろうか。空澄は持ち前の天然を発揮して、髪色を褒めたり、注意を怠るなと言ってくれたその少年に興味を持ったようだった。俺はそれをみてなんとも言えない気持ちになったが。
「お前、ここの生徒か?」
「そうッスね、ここの生徒……ではないッスけど、ここの生徒になれたかも知れない生徒ッスかね」
「……同い年ぐらいに見えるが、勝手に学校に入るのは不法侵入になるんじゃないか?」
「ええ~”イー”じゃないッスか。でも、そういうルールを守ってる所、嫌いじゃないッスよ。”アイ”があって」
「はあ?」
受け答えになっていないような返答をされ、俺は眉間に皺を寄せた。
ここの生徒になれたかも知れない生徒。と言うことは、違う学校の生徒と言うことだろうか。入試に落ちたから……だとしてもかなり入学式から時間が経っている気がするが、と俺は思考を巡らせた。それに、先ほどのわざとらしい強調した言い方は何の意味があるのか。
そう俺が1人考えていると、少年は時計をみて「あっ」と声を漏らす。
「ボク、時間になったんで帰るッス。定時帰りッスね~」
と、俺達に背を向ける。
そんな少年を空澄が「待ってくれ」と呼び止めた。少年は意外にも足を止め、空澄の方を振返る。空澄のルビーの瞳と、少年の紫とピンクのツートンカラーの瞳が交わる。
「何ッスか?」
「名前、名前教えてくれ!」
「どーして?」
「えーっと、また会える気がするから。そしたら、色々お礼とか、話したいなって思ったから!」
「プッ、単純ッスね。会えるかも分からないのに」
そう少年は言いつつも空澄の純粋さに惹かれたのか口を開いた。つり上がった目を細めフッと笑う。
「アナグラム。これが、ボクの名前ッス」
「アナグラム……?格好いい名前だな、俺様覚えたぞ!」
空澄は、少年の名前を反覆し何度も呟いていた。
そうして、これで最後とアナグラムと名乗った青年はひらひらと手を振って歩き出す。
「それじゃあ、また会えたら何処かで。空澄囮君」
アナグラムはそう、空澄の名前を言って廊下の先へと消えてしまった。




