14 仲良し
「……はぁ」
「あずみんどうした?」
「どうしたって、お前のせいで酷い目に遭った」
次の週、月曜日――――
自分の机で突っ伏している俺に空澄はいつも通り声をかけてきた。何の悪意も感じられない脳天気な声を実際に聞くのは2日ぶりか。
(……まさか、拉致されていなかったなんてな。巻き込まれ損だ)
綴と決着がついた後、彼奴は気を失ってしまって空澄の居場所を聞き出せず、繋がらないと思いながら空澄に電話をかければ、電話越しから元気のいい声が響き、家にいるとこっちの状況も何も知らないで言ってきた。そう言わされているのだろうと思って問い詰めたが、本気で何もなかったらしく、ただスマホの電源が切れて俺が見つからないからとむかえに来て貰っていたらしい。と言うことは、綴の嘘で、綴が俺と戦いたいが為にあんなことを言ったのだと後々気がついた。
まあ、何はともあれ空澄に何もなかっただけマシかと、傷だらけの体にむち打って学校に来たわけだが。
「あずみん、その怪我どうしたんだ?転んだのか?」
「なわけ……そうだな、転んだ……かも知れない」
俺はありのまま伝えようとしたが、すぐに言い留まって嘘をつく。
空澄はあの日何があったか知らない。俺が何処にいて何をしていたのかも知らない。俺が狙撃手であることも、依頼を受けて人を殺していることも知っているが、追求してこない。だからこそ、そことここの境界線は引けているわけだが。だから、いう理由もないと思った。俺が黙っておけばいい話であり、空澄をわざわざこちら側に引きずる理由もないと思ったのだ。いいや、絶対にこちら側にはこさせない。空澄にはこんな汚い世界絶対に見せないと決めている。
(先生には感謝しないとな……)
先生の助言のおかげで、綴への対抗策、必勝法が編み出せたわけだが、先生がその後何かを俺に聞いてくることも、俺が先生に綴のことを尋ねることもなかった。
弱点の克服、課題の達成は出来たため、先生の授業は完走したわけだが、自分の新たな課題も見つかりまだまだ自分は未熟だと気づかされた。
相手を侮らず観察すること。それが、今回学んだことだった。
「でも、すっごく痛そうだぞ?」
「あー、まあ色々あったからな」
「湿布」
「大丈夫だから」
「あずみん」
「あー……クソ、ありがとな」
俺は頭をかいて感謝を述べる。そうでもしないと空澄は解放してくれそうになかったから。
俺がそういえば、空澄は嬉しそうに笑って俺の背中をばしばしと叩いた。まだ全身痛いというのに、それを知らない空澄はこれでもかというくらい俺の背中を叩く。いつこの攻撃はやむのだろうかと考えながら、隣の席に視線を移す。
(来るわけないか……)
あの後綴を廃医院においてきてしまい、その後彼奴がどうなったかは知らない。ただ、雇われた暗殺者で仕事をこなせなかったとなると、そして組織に属していたと言うこともあり処分は免れないのではないかと思った。現に、8人もの構成員を殺しているわけだし。
(俺には関係無いが……)
取り敢えずは、空澄から危険を遠ざけられたことを喜び、またいつもの日常が戻ればいいと思っていた。だが、そんな平穏など訪れる筈も無く……
「あ・ず・ゆ・み♡」
「……は?」
背後から肩を掴まれ、聞き覚えのある声に顔だけ向ければそこには、先日殺し合いをしたはずの綴がいた。
(此奴、何で?)
てっきり処分されたと、一応クラスメイトなのだが、そんなことを思っていたため、ここにいることが不思議でたまらなかった。幽霊でも見ているんじゃ無いかと思ったが、俺の肩にのしかかっている体重は確かにそこに存在するものだ。
ふわふわと白い髪を俺の頬にすりつけるように顔を近づける綴に、鳥肌が立ちそうな程気持ち悪かった。
「な、んで此処にいるんだよ!?」
「あぁ?そりゃ、僕はここの生徒だし無断欠席は出来ないだろうがよぉ。そ・れ・に!僕は、梓弓にご執心なんだよ!」
「は、はぁ?」
「あずみん、いつ、かこいんと仲良くなったんだ?」
そうまた、ダサいあだ名をつけた空澄の問いに対し、綴は俺にすり寄ったまま、まるで空澄がいないもののように無視を決める。
「俺は、此奴と仲良くなった覚えはない!」
「またまたぁ、梓弓は僕をイカせてくれたじゃんかよぉ。責任取れって」
「……あーもう、鬱陶しいな!」
状況が理解できず、純粋に「仲良しなんだな」という空澄を横目に、俺は面倒くさい奴を引っかけてしまったんじゃないかと先行きが不安で、ため息をついた。




