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透明の空  作者: 兎束作哉
第2章 血色の空
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07 遭遇



 部活がない日が重なるのは中学校よりも多く、一緒に下校する時間は増えたような気がした。



(まあ、俺の場合はサボっているって言ったほうが正しいか)



 高校から、空澄の家までさほど距離はないが、道中何があるか分からない為、一緒に下校したほうがいいだろうと、俺が勝手にそう決めてやっているのであって、空澄の提案ではない。別に俺も提案などしていなく、「部活やる気分じゃないから一緒に帰る」とだけ言って隣を歩く。それに関しては空澄も何も言わないので、聞いてこないことをいいことに一緒に下校しているのだ。



「あずみん、帰りにどっかよってこぜ!」

「金がない」

「俺様が出してやるから」



 いや、お前の金じゃないだろう、と心の中で突っ込みを入れ、それでも空澄におごってもらうなど絶対に嫌だと俺は言う。生活が困窮しているから友人に娯楽代を出してもらうとか最低だと思う。

 生活が困窮まではいかないが、それなりに節約生活を強いられている。それで満足しているため、別に不満はない。

 だが、空澄と関わるとかなり金が飛ぶことはわかっており、色々付き合わされると、バイトのできるような時間もないため、依頼料をかさましするとかそういうのを考えないといけない。大体は、依頼人の提示した金額で依頼を受けているが。



(先生は俺なんかより稼いでいるし、それが本職だろうから……俺も)



 俺も暗殺業に専念すれば金が稼げるのではないかと一瞬思ってしまった。だがそれは同時に、空澄との時間を削る事であり、此奴とまた世界が離れていく気がして俺は選べずにいた。先生は俺に才能があるという。俺も才能があると少なからず思っている。先生に褒められたからそれが自信につながっているだけで、自惚れなのかもしれないが、狙撃の腕には今でもやはり自信があった。俺の腕を買ってくれている人が多くいるわけだし、顔も見えない相手からの声は信用ならないが、こうして依頼が来るところを見ると、俺の腕はそこそこなものらしい。


 だが、最近本当にこれでいいのかとも思ってきている。



(空澄が望む普通になるためには、こんなことをしている場合じゃないんだがな)



 空澄は、普通を望んだ。一般的な生活を。だが、財閥の御曹司であるがゆえに、命を狙われる存在であるがゆえに、普通の生活が出来ないでいる。周りの人間も自分の家柄を見て寄ってくると、少しの人間不信もあり、友人は少ない。けれど、普通をあきらめきれずにいる。そんな友人の1人である俺が暗殺業から足を洗わなければ、彼奴の普通は成立しないと思った。

 そう、また迷いが生まれてきている。



「えーでも、せっかくだし、どこか寄っていきたいよな」

「金が」

「クレープとか、タピオカとか飲みたい!」

「……」



 人の話を聞かない癖は相変わらずで、俺の腕を強引に引っ張っていく。考えるだけ無駄化と、彼奴の能天気を考えると馬鹿馬鹿しくなってくる。合わせて普通にならなくてもいいんじゃないかとも。今のところ、暗殺業しかなれるものがないと思っているし、なりたいものも見つかっていない。このまま見つからなければ、その道を選ぶほかないだろうと思っている。実際何が1番いいかは、俺にはわからない。

 久しぶりにふと見上げた空は、灰色がかっていて雨が降りそうだった。



「あずみん?」

「えっと、どうした?」

「ぼうっとしてたから、俺様の話聞いてたか?」

「あーえっと、クレープ食べるんだったか」



 そうだぞ。と俺が答えると嬉しそうに笑う空澄。たかがクレープでこんなに喜べる空澄が羨ましかった。此奴なら、そこら辺のキッチンカーや店舗で売っているクレープなんかよりもずっといいものを食えるはずなのに。俺に合わせてくれているのか、それともそれが男子高校生の普通だと思っているのか。考えるだけ時間の無駄だが。

 そうやって、空澄を見ていると、不意に見慣れた白髪が視界の隅に映り、俺はその人物を凝視してしまった。



(綴……?)



 制服姿ではなかったが、それは紛れもなく転校生の綴だった。彼奴は転向初日以降はクラスに静かに溶け込んでおり、昼になると1人でどこかに行ってしまう。俺よりもボッチが激しいような奴だと、だが愛想はいいためなにも苦労はしてなさそうだった。ただ、孤独を好んでいるという風にしか見えない。自らそれを選んでいるのだろうが、クラスメイトを値踏みしているような目はいただけなかった。

 そんな綴が、白い服に紫色の派手なマフラーをリボンのように巻いて路地裏に入っていくところが見えた。あんなに目立つのに、周りは一切気にしていない。まあ、他人に興味はそこまでないだろうしということで片付けられるだろうが、それにしても空気に溶け込んでいるという感じだった。目を凝らして神経を研ぎすませていないと気づかないような。



「あずみん、どうした?」

「い、いや……なんでも」



 見間違いじゃない。そう思いつつ、目で追えばもう綴の姿はなく、いやな胸騒ぎがしつつも、俺は空澄の手を握り返した。



(……やっぱり、そうなのか?)



 そう考えていると、途端に雨が降り出し、土砂降りになり、俺達は近くにあったコンビニに駆け込んだ。





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