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透明の空  作者: 兎束作哉
第2章 血色の空
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05 独特な空気



(綴・J・栫泉……変わった名前の構成だな)



 そんなつまらない感想を抱きつつも、声が若干高かったが男だとようやく転校生綴の性別が判明する。見た感じ160前半だと思われるその身長に、ふわふわとした白髪はまるで何かのキャラクターのようだった。ハーフかクォーターかなど1人考察しつつ、綴の自己紹介は続いていた。



「なあなあ、あずみん。凄い可愛いな」

「……そうだな、だが男だぞ」

「そうなのか!?」



 こそっと耳打ちしてきた空澄は、綴の性別がわからなかったようで、俺がそういうとカルチャーショック! と口に出しつつ驚いていた。古いというか、そんなに驚くようなことでもないと思った。まあ、空澄はいつものことだし、と放っておきながら俺は綴に視線を戻す。

 自分の愛らしさに、容姿によっぽど自信があるんだろう。繕ったような笑みを張り付けて、クラスになじもうとしていた。さすがに、ここまでくるとクラスメイトも黙っておらず、「可愛い」とか「イギリスってことは、英語ペラペラなのか?」とかざわつき始めた。やはり、まだ子供だと思う。自分のことを棚に上げ、俺は他の連中と違うと思いながらも、俺も綴から目が離せなかった。

 皆の言う可愛いや、珍しいものを見るような目で見ているのではなく同じ匂いを感じ取ったからだ。



(一瞬だったが、感じた殺意のようなもの……あの独特な空気、まさかな)



 クラスメイトを疑うのもたいがいにしろと、自分で自分を怒りつつ、俺は空澄に視線を戻す。もし、綴が仮に危ない奴だったとして、学校で空澄を守れるのは自分しかいなかったからだ。空澄は、昔から暗殺者にねらわれていると公言していたが、その実ボディーガードの類は付けていない。命の危険があるというのに、そういうのは普通一般人は付けないだろ? の一言で拒否しているらしい。空澄も普通に憧れているのだと思い、俺と同じだなと親近感がわく。俺も空澄もないものねだりで、普通なら手に入る当たり前すらも手に入らないのだ。


 空澄は今でも命を狙われている。だからこそ、俺がそばにいて守ってあげなければと、勝手に空澄のボディーガードを名乗っている。空澄は「あずみんと俺様は友人!」の1点張りだが、俺は友人兼ボディーガードだと自分のことを思っている。先生に教えてもらった力を技術を友人のために使うなら罰は当たらないだろうと思っている。だが、そんな為に教えた力じゃない。と言われたらそれまでの話なんだが。



(友人を守るために、人を殺す……確かに間違っているのかもな)



 方法が分からないから、そうするしかない。俺は間違いもいつか正解になるんじゃないかと思いつつ生きている。空澄がいてくれれば、彼奴がこちら側に来なければ俺は自分の手が汚れてもいいと思っている。

 そんなことを考えていると、自己紹介が終わり、綴がこちらに向かって歩いてきた。どうして? と一瞬身構えてしまったが、俺の横に座った綴は何を言うでもなく「よろしく」と先ほどと同じ笑顔を俺に向けるだけだった。



(気のせい、だったか)



 話を聞いていなかったこともあり、綴の席は俺の隣になった。左隣には空澄、そして右隣に綴という挟まれた形になり微妙な空気感が漂う。綴りがおしゃべりでなきゃいいなと、空澄だけで手いっぱいの俺はそう願うしかなかった。



「僕、久しぶりに日本に戻ってきたから、色々忘れてることもあるし、一杯教えてね。梓弓クン」

「……あ、ああ。だが、俺も分からないことだらけだし、他の奴に聞いた方がいいと思う。勉強なんてほんと」



 ずいっと体を乗り出して聞いてきた綴から目をそらして、俺は関わらないでくれという意味でそう発言した。だが、綴は俺の意図をくみ取ってくれなかったのかクスリと笑った。そのしぐさは、愛らしいとは思う。空澄よりも身長が低いし、足も細い。折れてしまいそうなほどに。

 そう綴の分析をしていると、いきなり綴が俺の手をつかんだ。



「……ッ!?」



 あまりに突然のことで、思わず振りほどいてしまいそうだったが、俺の手を確かめるように、小さな両手で包み込まれ、払うにも払えなくなってしまった。掌、手の甲、指の形、長さとなぞるようにその白い指を動かしていく。



「僕ね、運命感じちゃったかも」

「は、はあ?」

「梓弓クンの手、すごくごつごつしてるのに、指はすらっと伸びていてかっこいいし、その目に射止められちゃった。凄くぞくぞくするよ」



と、まるで舌なめずりするように、舐めるような、恍惚とした笑みを向けてくる綴。さすがに悪寒が走り、俺は手を振りほどく。



「どうした?あずみん」

「い、いや何でも」



 空澄がひょこりと顔をのぞかせたので、俺はとっさにごまかし視線だけ綴に向けた。綴りは悪気ないように手をひらひらとふっている。



(俺を試しているのか?)



 その笑顔の裏に隠された、ただならぬ殺意と好奇心を俺は垣間見た気がし、気を許してはいけないと、直感的にそう思った。




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