04 帰国子女
「あっずみん、おはよ!今日も元気か?俺様は元気だ」
「相変わらずで、俺もまあそこそこには」
弱点克服の課題を出され、どうにか自分で使えるものはないかと部活動をやっている最中、使う筋肉の研究や、早く走る方法、瞬発力を上げる方法など試した。俺は中距離とハードル走の選手で、障害物を飛び越える、という点に関しては暗殺に使えそうだと思った。足の速さも使いようによっては使えるんじゃないかと、生活と暗殺が切っても切れないようになっていた。
視野が狭いと、指摘されたが、それが表に浮き彫りになっていて、現に弱点克服のために生活しているようなものだった。視野を広く持ち、思考に余裕を持たせること、そうすることで、いついかなる時も冷静沈着な暗殺者でいられると。
「ふあぁ……」
「あずみん、眠たそうだな。何時に寝たんだ?」
「2時は回ってたか」
「俺様は11時に寝たぞ!起きたのは7時だ!」
「健康だな」
眠い俺とは真逆に、空澄は今日も元気だと笑っていた。その笑顔を見るだけで満足しつつ、つい昨日の課題をやっていないことを思い出した。居残りでも仕方ないなあと思い、授業中は寝させてほしいと思った。
弱点の克服と研究、そして依頼。それらをこなしているとやはり勉強のほうがおろそかになる。これまで受けた試験では下から数える方が早い。
白瑛コースの中で見たら再開にいるといっていい。数学も、中学までとは比べ物にならないほど難しいし、もともと理数系が苦手だった俺からしたら、数学が毎日のようにあるのはつらかった。その点、空澄は理数系が得意なようで「楽しいな!」と俺には到底理解できないことを言っていた。数学に関しては今のところ100点をキープし続けている。
「俺様、学食に行ってみたい!」
「まだ朝だぞ?朝食取ってないのか?」
「ちゃんと食べたぞ!プレートだった!」
「……あっそ」
空澄の言うプレートとは何かわからなかったが、きっとすごいに違いないと俺は空澄を見た。こんな金銭感覚その他もろもろ一般常識には当てはまらない奴が、学食に行きたいとよく言えると思った。その味の質の違いに驚くだろう。だからと言って残されて、俺が食べることにでもなったとしたら、それはもったいない気がする。俺はどちらかというと少食だから。偏食はしないし、出されたものは食べる。それは、最底辺の子供時代を送った名残であり、食べることは生きることだと理解しているから。それでも、あの時十分に食べられなかったこともあって、胃が小さいのかもしれない。先生にもたくさん食わねえと大きくならないぞ? と言われたが、平均身長よりかは伸びたのでまあ、いいだろうと思っている。
「そうだ、あずみん、あずみん。今日は転校生がくるって噂されてたぞ」
「噂だろ?俺達のクラスじゃないかもしれない」
「帰国じょしって奴だっていってた!」
「帰国子女な……ふーん、この時期にか」
デジャブのように感じつつ、空澄も中学校時代この時期ぐらいに転校してきたなと懐かしく思っていた。だが、帰国子女ということは英語かその他言語どれかペラペラだろうなとも思う。英語は苦手だから、仲良くできるビジョンが浮かばない。そもそも、仲よくしようとも思わない。
「あずみん、楽しみじゃないのか?」
「俺は、お前がいれば……いいや何でもない。そもそも、空澄お前英語理解できないだろ?日本語は話せるだろうが、会話が成立するとは思えない」
俺がそういえば、それは盲点だった。と言わんばかりに空澄は口を開けてうなずいていた。あほ面を今日も拝ませてもらったことに笑いがこぼれつつ、時計を見て、もう少しでホームルームが始まると、廊下でたべっていた俺達は教室に向かうことにした。
滑りこむようにして教室に入り、席に着くとちょうどチャイムが鳴り担任が入ってきた。学校生活にはなれたがこの化け物クラス……普通コースの奴らからは「超人クラス」と呼ばれている俺達ともう1つのクラスはやはり空気感が違うように感じた。独特というか、個性がぶつかり合っているというか。芸能人や、将来のアスリートとして有望な奴らもいて、やはり普通と違うと感じる。俺も普通じゃない生活をしている自覚があるため、一人はみ出しているという感じがないのはありがたいが。
「もう噂になっていると思うが、うちのクラスに転校生が来る。おい、もう入ってきていいぞ」
と、担任は隠す様子もなく、サプライズといった感じもなく、さらっと流して転校生の紹介に入った。さすがに、この年になったら転校生もさほど珍しくないのか、へーみたいななんも言えない空気感が漂う。勿論俺もそのうちの1人だ。
金がかかっているとしか思えない自動ドアが開き、担任に呼ばれ転校生が入ってくる。
(ちっちゃ……)
歩き方はすごくなっているのに、その背の低さや、目立つ白髪の男か女かもわからないような奴が入ってきた。そいつは教卓の上に立つと愛想がよい笑顔を振りまく。そうして、見開かれたアメジストの瞳は一瞬俺と目があった気がした。
(気のせいだよな……)
その一瞬、自分と同じものを感じ、背筋が伸びる思いがした。ゾッと後ろからナイフを突き立てられているようなそんな感覚に。
「初めまして、イギリスから帰ってきました。綴・J・栫泉です」
どうぞ、よろしく。と転校生はにこりと笑った。




