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透明の空  作者: 兎束作哉
第2章 血色の空
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02 支配の目



「初日終わり~俺様へとへと~」

「お疲れ様だな、空澄」



 初日のホームルームやら何やらを終え放課後になった。教室にいた奴らは、部活動見学に行くと教室を真っ先に出て行ってしまい、教室に残っている人数はかなり少なかった。俺達は、窓側の一番後ろの席で隣同士だった。

 意外にもア行の苗字の同級生が多かったため、空澄が後ろの席に来ている。これも、何かの運命か。そんなことを思いつつ、机に突っ伏している空澄をみながら、この後どうするかと相談をしたかった。俺的にはそのまま家に帰りたいのだが、依頼もあるし、だが、空澄はきっと部活動見学に行きたいと言い出すだろうとも思っている。どちらに転んでもいいよう構えているが、かなり疲れたようで空澄はぐでっとしていた。



「空澄」

「あずみん、俺様のことはあすみんって呼んでくれ」

「いきなりどうした」

「さっき、自己紹介したときそういったから」

「……転校してきたときもそうだったな」

「あずみん、1回も呼んでくれないから」



と、少し拗ねたように唇を突き出し上目づかいで見てくる。


 確かに、3年前転校してきたときも空澄は自分の事を「あすみんと呼んでくれ」と言っていたが、俺は1度もそのあだ名で呼んだことはなかった。初対面から俺のことを「あずみん」と巫山戯た名で呼んでいた空澄からしたら、あだ名で呼ぶというのは普通のことらしく、強要はしないが言って欲しいと何度かせがまれた。俺は恥ずかしくて言わないが、周りは皆「あすみん」呼びで、自分だけ取り残された感覚になった。でも、裏を返せば俺だけ「空澄」呼びなのだ。



(……前々から思ってたんだが、空澄の下の名前「囮」って珍しいというか、子供にそんな名前つけるもんなのか?)



 俺の名前がどうやって付けられたかは知らないが、空澄の名前「囮」というのはあまり良い漢字では無い為普通ならつけないはずなのだ。どういう意味が込められているのか気になるところだが、空澄の事だし知らないだろうと聞いたこともなかった。空澄が苗字であだ名で呼んでくれと言うのには引っかかりを覚えるが。

 そんなことを考えながら、空澄をみているといきなり顔を上げて、俺の方を見た。



「ど、どうした」

「俺様、美術部に来てくれって言われてたんだった」

「あー部活動見学」

「あずみんも来るか?」

「いいや、俺はいい。となると、帰りは別々か?」



 俺は首を横に振った。

 別に空澄と一緒に居たくないとかそういうのではない。ただ、依頼もあるし、もし時間がかかるようであれば先に帰らせて貰うということにもなるだろうと。



「うーん、なるべく早く帰ってくるし、それに顔見せに行くだけだからな!校門で待っててくれ」

「お、おい、空澄!」



 俺の制止も聞かず、空澄は教室を出て行ってしまった。鞄も置いて、本当に落ち着きのない。

 俺は、空澄が帰ってくるまで時間を潰そうと廊下に出た。広すぎる廊下の壁は白いのにもかかわらず綺麗で、汚れ1つない。清掃員でも雇う、金があるのだろうと改めて私立の学校の金のかかりように驚く。そう、俺は何処に何があるのか把握すべく歩いていると、目の前から歩いてきた男に声をかけられた。



「鈴ヶ嶺梓弓君かな?」

「……あ、貴方は」



 入学式校長の話とは別に理事長の話もあった。その時喋っていたのが目の前の男、神々廻理秀だった。神々廻理事長は俺のフルネームを口にするとフッと微笑んだ。

 何とも言えないプレッシャーを感じ、思わず身構えてしまう。

 入学式の時もそうだったが、この人は苦手だと思った。繕った笑みに、何を考えているか分からない腹の底。ただあれだけの挨拶だったのに、そう感じざる終えなかった。

 この学校が進学校として名が上がるようになったのは、この理事長に代わってからだ。



「ど、どうされたんだ、ですか」

「ああ、白瑛コースの子だからね。声をかけてみたんだよ」

「……」



 身構えなくていいよ。と理事長は笑ったが、どうにも身体が硬直してしまう。蛇に睨まれたカエルとはこのことだろうと、身をもって体感する。



「俺なんて、学力あれですし、陸上だってかなわないと思いますが」

「そうだね、天才は白瑛コースには沢山いる。君じゃ、かなわないかも知れないね」

「なら、何で俺を推薦したんですか?」



 この学校の可笑しなシステム、白瑛コースの推薦は全部この人によって決められる。


 白瑛コースが天才の化け物の集まりなのに、どうして俺と空澄は推薦されたのか。空澄の場合は、財力という財閥がバックにいるからだろうが、俺の場合勉強も運動も秀でているわけではない。だからこそ、ずっと不思議だった。聞く機会があれば、是非とも聞きたいところだったが。



(嫌な感じだな……人を見下している、支配の目)



 握った拳は綻ぶことはなかった。目を離せば食われると思ったからだ。



「難しい質問だけど、言えることは1つかな。君がいずれこの学校に侵入するネズミを排除してくれる存在になるから、かな」

「……はい?」

「まあ、すぐに分かるよ。君の『腕』には期待しているよ。鈴ヶ嶺君」



 ポンと理事長は俺の肩を叩いて、横を通り過ぎていった。

 極度の緊張状態から解放され、俺は息が上がる。あの目、言い方からするにきっと理事長は全て見透かしているんだろう。



(あの理事長……俺が暗殺者だって知っている?)



 知っていて、推薦した。


 理由は分からないが、多分そうだろうと、俺の中で警鐘が鳴った。理事長とは絶対に敵対しないようにしようと決意しつつも、もう既に手のひらの上で踊らされ、支配下に置かれているのだろうと思い、俺は空澄が戻ってくるまで大人しく教室で待つことにした。



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