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透明の空  作者: 兎束作哉
第2章 血色の空
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01 入学早々



「あああ、ああずみん!どうしたんだ、そのかおぉお!?」

「……あー、何か殴られ……何でもない」



 新学期。


 慣れない白い制服に身を包み、中学校の時頼も拾い体育館のパイプ椅子に座っただけでも周りの空気感にやられ、背筋が自然と伸びた。受験の時のピリついた空気とはまた違う、緊張と期待に満ちたその空気に俺は本当にこの学校に入学したんだと思い知らされた。人混みは苦手だ。

 クラス発表では、空澄と同じになり人目も気にせず抱き付かれ、初日から同級生に酷い目で見られたが、空澄を叱ろうにも叱れず、ただされるがままになっていた。そんな感じで、入学式を終えトイレに走りに行ってしまった空澄を追いかけるべくゆっくりと歩いていたらいきなり頬を殴られ、ついでに頭もぶった。一瞬のことで気配にも気づかず理不尽に殴られ、何処の何奴だと、事を荒立てないように、それでもしっかりと殴った奴の面は拝んでおこうと顔を上げれば、真っ黒な髪に、光の灯らない真っ黒な瞳をしたハネ髪の男がいた。俺よりも大きい、見たところ3年生らしい男子生徒だった。俺を殴った後、楽しそうに「同じ匂いがする」と語尾を弾ませていたが、左腕に青い腕章をつけたその先輩の同級生らしき人に連れられ何処かに行ってしまった。勿論謝罪は貰っているが……


 トイレから帰ってきた空澄は、国宝に傷がついたと言わんばかりに俺の顔に触れて大丈夫かと大げさなぐらいに心配してくれた。



(殴られたのは痛かったし、理不尽だとは思ったが……そんな大げさに)



 空澄に心配をかけてしまったことの方がダメージが入っていたのは、何故だろうか。

 まあそれはいいとして、上の学年の先輩達には関わりたくないなと入学初日に思ってしまった。あの青腕章は、どうやら生徒会の役員だけがつけられるらしく、風紀委員とかそういうのなのだろうと、殴った男を引きずっていった正義感溢れた先輩のことを思い浮かべていた。でもどっちにしても関わりたくないと。



「絆創膏何個あれば足りるんだ?」

「多分、湿布の方がいいと思うが……って、大丈夫だからな。すぐ腫れなんてひくだろうから」



 俺は慌ててそういった。


 空澄が馬鹿な事を言うのはいつもの事だが、事を大きくされるのは絶えられなかった。初日から、保健室の世話になるのは嫌だったし、こんなの数年前に比べれば軽い方だった。あのクソ親父の暴力に比べれば何てこと無い。

 そう心の中で思いつつ、空澄に大丈夫だ。と何度連呼したことか。空澄は納得がいかないように俺の頬を触る。空澄の手は未だに小さいが温かくて、それでも触れられると殴られたところは痛かった。



「……ッ」

「救急車呼んだ方がいいか?」

「もう、だから事を大きくしないでくれ。税金の無駄遣いって言われる……」



 俺はため息をつく。

 空澄は、そうか仕方ない……といった感じにようやく諦めてくれた。



「でも、痛かったら俺様の家に来て見て貰うからな!それか、直々に呼び……」

「さっきの話し聞いていたか?」

「うぅ……」



 相変わらずやることなすこと、言うこと全てがスケール違いで、一般人には理解できない領域だった。友人が怪我をしたからと言って、そんな専門医を呼ぶとか考えられない。空澄の一般常識と、金銭感覚のバグりようはなおらなかった。



(……財閥が傾かない限りずっとこうなんだろうな)



 生れた環境や教育が違うだけでこんなにも人は変わるものなのだろうかと思った。俺はどちらかと言えば節約家で、そもそも家に金がない。未だに暗殺業は続けているが依頼がこない月もある。そういう場合は、先生の貯めた貯金から引き落としている。ボロアパートということもあって家賃は低いが生活費は馬鹿にならない。手に色つければ、俺が良いところに就職すればそれらは解消されるのかも知れないが、今のところそういうプランはたてれていない。何になりたいのかも、はっきりしない状況だ。

 まだ時間はある。そう言っていたら、またすぐにその時になってしまうだろう。



「取り敢えず教室に戻るぞ。配布物もあるだろうし、一応クラスメイト同士の顔合わせもあるだろうからな」

「楽しそうだな!」

「俺は、億劫だが」



 正直、空澄さえいればいい。他の奴らと仲良くなれるかも分からないし、馴れ馴れしくするつもりは毛頭ない。

 そんなこと空澄が知れば「皆にあずみんの良さを知って貰う!」なんて張り切りそうだから言わない。

 俺は教室に向かって歩き出した。だが、後ろにいた空澄は1歩も動こうとしない。



「どうした?」

「ん~いや、教室何処かなあって、さっきも迷子になりかけてさ」

「……だから、帰ってくるのが遅かったのか」

「へへ、俺様地形覚えるの苦手なんだ!」

「誇ることじゃない。俺が案内するからついてこい」

「さっすがあずみん、頼りになる~!」



 空澄を引っ張りながら、俺は再び歩き出した。




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