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透明の空  作者: 兎束作哉
第1章 灰色の空
16/63

15 合格



「1年ってこんなに早く過ぎるものなのか?」

「あずみーん何黄昏れているんだ?」



 1年はあっという間に過ぎ去っていった。その間にも色々あったし、修学旅行や、最後の合唱祭に、体育祭。沢山の思い出がこの1年の間に出来て、どれも思い出すだけで頬が緩む。でも、楽しい思い出と対をなすぐらい勉強に追われ、受験のピリついた空気を味わうことになった。

 俺達も最後まで一応粘ったし、推薦だったが周りに合わせて勉強した。ようやく中の下か下の上にはいったがてっぺんは見えなかった。


 俺達は来月から、白瑛高校に通うことになる。真っ白い制服に紺色のベスト、黒いハイネックと他ではみないデザインの制服で、空澄の言ったとおり格好いいには格好良かった。動きやすいかと言われれば見た感じ微妙だった。



「この3年間色々あったな!俺様は、あずみんと出会えたことが1番だったけどな!」

「俺も確かに……うん、いや……」

「もしかして、泣いているのか?卒業が嫌とか」



と、空澄は俺の顔をのぞき込んだ。


 な訳あるかと言い返したいところだったが、確かになんとも言えない気持ちだった。この3年間はあっという間に過ぎていった。空澄と出会わなければきっと俺のこの3年間は無駄に過ごしていただろう。でも、此奴と出会えたから、此奴が俺を引っ張ってくれたから、少しだけ学校生活が楽しいと思えた。凄く感謝している。それが伝わっているかどうかは別として。



(空澄は、俺といて楽しかっただろうか……)



 少しだけ不安がある。俺を友人と言いながら、周りに愛想いい笑顔を振りまく此奴は、無愛想な自覚がある俺といて楽しかっただろうかと。考えれば考えるほど思考の穴に落っこちそうで、放棄したが、それでも少しだけ思ってしまった。この無自覚タラシの阿呆ヅラに。



「楽しかったなぁ。でも、来年も一緒だぞ」

「一緒のクラスになれるかは分からないだろ……」

「いいや、なれる!俺様とあずみんはずっと一緒だからな!2分の1の確立だろうが絶対に同じクラスになる!」



と、空澄は根拠も何もないのにそう言い張った。


 らしいといえば、らしい。

 そう思えば、少し気が楽になって、俺は噴き出した。空澄はキョトンと俺を見つめた後に、つられるように笑う。

 確かに、高校に上がっても、来年も一緒にこうやって笑い合えればそれでいい気がした。

 空澄と出会ってからの毎日は本当に楽しくて、今までモノクロだった世界が少しだけ色づいたような感覚だった。晴れた空の下にいる方が、空澄の笑顔はよりいっそ映えたし、輝いて見えた。だから、空を見上げることが少しだけ楽しくなった。



「あずみん、あずみん。高校に入ったらやりたいこととかあるか!?」

「とくには……進学校に通うのに、やりたいことが出来るとは思わないが」



 そういえば、夢がないなあと脇腹をつつかれる。鬱陶しいと思いつつも、いつもの事なのでサラリと受け流す。

 だが、白瑛高校に入学した以上、勉強は切っても切り離せない存在になるだろう。パンフレットには体育祭も球技大会も、修学旅行や文化祭にも力を入れているみたいだが、それは出来る奴らが上手く時間を見つけてやっているのであって、俺達は要領が悪いからついていけないんじゃないかと思っている。留年とかなったら先生に申し訳なくて、高校を中退してしまうかも知れない。



(そういえば、先生……反対しなかったんだよな)



 最近先生に、言葉遣いが前よりも柔らかくなったと言われた。全く無自覚だったため、言われてみて、ああそうか。とは思ったが、やはり自覚はない。だが、観察眼の鋭い先生が言うのであればそうなのだろう。きっとそれは空澄の影響でもある。

 先生は、高校の合格通知を持っていったとき自分事のように喜んでくれたし、いっぱい思い出を作れよとも言ってくれた。頭を乱暴に撫でて、ニカッと歯をむき出しにして笑っていた。そんな先生をみて、先生が親だったらよかったのに、ともう父親同然と言って良いほど俺に色々教えてくれているのに、血が繋がっていないことが悲しい。でも、先生は先生だから、俺は1度も「父さん」と先生の事を呼んだことはない。俺は、教え子のうちの1人だろうし、そんなことを言われても先生は迷惑だろう。


 そんなことを思いつつ、無事合格できたことを喜び既に制服の採寸を行いにいって「大きくなったな」とそこでも感動したというように言われ、照れくさかった。



「俺様はな、バイトしてみたい!」

「いや、バイトより学業……」

「バイト!」

「高校って他にも楽しいこと一杯あるだろ!」



と、空澄は頬を膨らませた。


 その仕草が可愛くて思わず口元を押さえる。

 先生の事を考えていたら、空澄の事を忘れていて、意識を戻せば、まだ高校生になったらやりたいことを口にしていた。

 確かに、アルバイトも悪くないかもしれない。今はまだ無理だけど、高校生になったら、空澄と一緒に何かしたいと思った。

 でも、今はとりあえず、卒業式を無事に終えることだ。



「ほら行くぞ、遅れるとがみがみ言われる」

「式終わったら写真撮ろうな、絶対だからな!」

「分かった、分かった。せっかくセットした髪の毛が崩れるぞ」



 俺達はそんなことを言いながら、中学校最後の日を終えた。卒業式、ボロボロと空澄が泣いて周りが目を剥いていたのは今でも忘れない。




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