14 やれるだけやる
空澄と出会って2年が経過した。
「あずみん、あずみん桜――――!桜!」
「いや、去年もみただろ」
たかが桜が満開になったぐらいで喜ぶ空澄をみていると、出会った時と全然変わっていないなと妙な安心感に包まれた。完全に絆されてしまっているなと自分で感じつつも、まだ何処か距離を置いていると自分では思っている。
空澄暗殺の依頼は破棄した。その事は先生にもばれたが、先生も依頼人の正体が分からないから仕方ないということで無効という感じに落ち着き、無かったことになった。だが、その後も空澄以外の暗殺の依頼は入ったため、俺は今でも殺しを続けている。その事を空澄は知っているのか知らないのかは分からないが、俺の暗殺業については何も言わなかった。俺としても、空澄はこっちの世界に入って欲しくないと思っていたため、好都合だった。
お互い線ひきはちゃんとしているし、喧嘩したことはこの2年1度もなかった。
「来年卒業だぞ!?信じられるか、あずみん」
「あーそうだな」
空澄に言われ、現実に引き戻される。
中学3年生と言えば、高校受験を控えている。この2年で俺達の頭の悪さは改善されず、遊びほうけていたこともあり学力は最底辺だ。だから、今から頑張って間に合うかどうかも怪しい。元々高校はいかない予定だったため、まあいいかとも思っているが、そうなると就職先を見つけろと煩く言われるし、そこで暗殺者になります、とも言えない。となると、一応は受験しておかなければならないだろう。
「あずみん、あずみん。あずみんは何処に行くんだ?俺様一緒がいい」
「受験なんて、個人勝負だろ。俺と一緒の所なんてそういう理由で選ぶな」
「えーでも、俺様あずみんと離れたくない……あずみんはそう思わないのか?」
「……ぐっ」
うるうるとルビーの瞳を潤ませ上目遣いで言ってくるため良心が痛んだ。
俺と空澄の身長差はここ2年で結構開いた。だが、まだどちらも伸びしろがあるだろうし、どうなるかは分からないが、そんな風に見つめられたら、嫌もダメも言えないだろう。
(俺は、空澄の顔に弱い……)
自分の意思が弱すぎる。
こんな可愛い顔で見つめられたら断れない。
それに、俺も空澄と同じ気持ちだったから。いや、俺の方がずっと前から同じ想いだ。口ではああいったものの、一緒がいいと思っているし、その方が気が楽だと思った。きっと、高校に行って友人は出来ないだろうし、作る気もないから。そう思うと、孤独な3年間を過ごすぐらいなら、空澄と同じ所に行ければ……そう思ってはいる。いるが、まずいけるかどうか怪しい。
「でも、俺様いってみたいところあるんだよな」
「そこに行けばいいんじゃないか?」
「推薦狙ってて」
「……いや、無理だろ」
俺もそこそこいい成績を部活で収めたが、声がかかったと言うこともなく、美術部である空澄がかかるなんてもっとだと思った。だから、推薦でいこうと思うとやはりスポーツ推薦というのが有力だ。しかし、空澄は運動神経が良い方ではないし、そもそもそういう部活に入っていない。まあ、体育の時間見る限り出し惜しみがある気がするが。
じゃあ、なんの推薦なのか。俺は思いつかず空澄に答えを求めると、空澄は胸をはっていった。
「白瑛大学附属高校!ここの白瑛コースを狙ってる!」
「は?」
思わずそんな声が出た。
「い、いやいや、あそこは化けもんが通う学校だって、俺達みたいな底辺が入れるような学校じゃないだろ」
「あずみん、卑下はよくないぞ」
「いや、本当のことだろう」
白瑛大学附属高校。
そこは超エリート私立高校であり、部活動だけではなく学力も高い文武両道、日本でも名前が挙がる高校だ。俺達の住んでいる双馬市と、隣町の捌剣市にある2つの高校を合わせて、3大高校と呼ばれているが、その中でも飛び抜けて優秀な学校なのだ。そこの白瑛コースと言えば、天才揃いと聞く。そんなところ、まず推薦など貰えないだろう。
「何でそこなんだよ……」
「学校が綺麗、制服が格好いい!」
「理由が単純すぎる……あそこの偏差値みたか?最低でも60は必要だぞ」
「何とかなる!あずみんと頑張る!」
「俺を巻き込むな……」
空澄が、俺の手を握ってくる。その手は小さいくせに温かくて、空澄が本気なんだということがよく分かった。だからといって俺は本気になれない。この学力じゃきっと一般でウケたらボロボロになるだろうと。
空澄の理由も単純だし、普通の公立高校を狙った方がいいと俺は勧めようと思ったが、理由は単純であれど本気が伺える空澄に何か言うのも阿呆らしくなって俺は口を閉じた。
(まあ、やれるだけやってみるか……)
新学期早々にこんなことを思うのも億劫だったが、熱量があるうちにたたき込んだ方がいいと、空澄に付合わされることとなった。結局学力はそこまで上がらずじまいだったが、何故か推薦が通り、簡易的なテストを受け合格通知を貰ってしまい、幸いにも、空澄と高校も同じ所をいけることになったのは、数ヶ月後の話だった。