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透明の空  作者: 兎束作哉
第1章 灰色の空
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12 「また明日」なんて言葉



「はぁ~俺様夢みたいだ。あずみんと友人になれるなんて!」

「あーはいはい、そう言うの怠いから。つか、滅茶苦茶怒られたじゃねえか」



 あの後、帰ってこない俺達を心配した教師達が屋上に上がってき、俺達を見つけその後こっぴどく叱られた。空澄は簡単に解放されたが、俺はそうもいかず、立ち入り禁止の屋上に勝手に入ったことや、授業をサボったこと、その他諸々これまでの鬱憤を晴らすかのごとく怒られた。立ちっぱなしというのは、結構足に来るもので、もう少し鍛えようと思った。


 そんなこんなで、午後の授業は真面目に受けさせられ、ドッと疲れてしまった。

 そうして、ちょうど空澄の部活と俺の部活が休みだったこともあり一緒に下校することになった。空澄は俺の隣で屋上での出来事を振返って、にまにまと笑っており、本当に調子に乗っていると、友人になると言ってよかったのだろうかと少し後悔しかけていた。



(だが、誰かと帰るって言うのは……初めてかも知れない)



 部活を勝手にサボり休み、依頼をこなしていた昨日までとは違い、俺の隣には空澄がいる。その不思議と偶然と、運命に感謝していないこともない。誰かが隣にいるだけでこんなに変わるものなのかと、正直驚きが隠せない。



「で~あずみん」

「お前、煩いぞ」

「だって、俺様嬉しいんだもん!」



 子供が駄々をこねるようにぷくぅっと頬を膨らませ空澄がその場で地団駄を踏む。よくもあの数分の出来事を何度も繰り返しはなせるなと、そっちの方が驚きだ。何が面白いのか分からない。



「あずみん、聞いているのか?」

「あーあー、聞いてる。多分」

「それ、聞いてないだろ!」



と、安い漫才のツッコミを入れるようにビシッと胸を叩かれる。別に痛くも何もないが、1人ケラケラ笑っている空澄をみていると、此奴大丈夫か? と心配になってくる。こんな奴に先ほどまで乱されていたのかと思うと、自分で自分が情けなくも思う。だが、きっとこれからも此奴と関わっていったら、さらに乱されるんだろうなと容易に予想がついた。


 もしかしたら、俺はそうなることを望んでいるのかも知れない。



(アホらし……)



 どうせ御曹司の気まぐれだと思いつつも、先ほど自分で「捨てるな、裏切るな」と言った手前恥ずかしくて仕方がない。空澄も俺のこと捨てようにも捨てられないだろう。

 言うんじゃなかったと思いつつも、言葉が見つからず、重い人間みたいになってしまって誤解されていないか不安になった。



「それで、俺様雑巾踏んづけて~」



(いや、此奴に限ってないな)



 何にも考えてなさそうな阿呆ヅラをみていると心配するだけ無駄だと思った。余計な心配をするなら、もっと違うことを考えた方が有意義だと。

 しかし、あの依頼を無断で断ってしまったためどうなるか分からなくなってきた。私情で殺せなくなり、逆に守るような立場になってしまったこと、それが依頼人にバレたらどうなるのだろうかと、そんな心配もしている。まあ、まだ日も浅いし、俺が死んでもそこまで空澄は悲しまないだろうとか、俺が死ぬ前提で考えてしまっている。


 生きたいと願って、血沼に足を突っ込んだのに、死んでもいいって矛盾している。


 そう思いつつ、空澄の方を見た。



「何だ?あずみん、俺様の顔になんかついているか?」

「んー阿呆ヅラ」

「それって、褒め言葉か?ありがとな!」



と、素直に喜ぶ空澄を見て、本当に馬鹿なんだと思った。全く言葉の意味を理解できていない。分かっているのなら、きっと怒っただろうに。


 そんな会話をしながらぶらぶらと歩き、家が逆方向だというのでそこでお別れとなった。

 空澄とは明日も学校で会うことになるだろうが何故か、寂しい気もした。此奴が煩すぎるために静かになったからだろうと思いつつも、俺は何故か家に向かって足を進めることが出来なかった。それを勘付いたのか、空澄は「また明日」という言葉の代わりに、約束を取り付ける。



「なあ、あずみん、明日俺様の家に来てくれよ」

「お前の家に?」

「友人になった記念パーティーするんだ。な、楽しそうだろ!?」

「いや、俺は……」



 純粋に言う空澄をみて、俺は何度も瞬きをした。


 約束などしたこともなかったために、それもパーティーとか言う聞き慣れない単語に胸が躍る。じゃあ、そういうことで。と空澄はそれだけいって「また明日」と俺とは反対方向にかけていってしまった。俺はそんな空澄に何も言えなかった。



(楽しみに、してる……とかいった方がよかったか)



 何はともあれ、胸が弾み、家に着くまでの足取りが軽くなったのはきっと空澄のせいだろう。




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