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小さな聖女は血に誓う  作者: 功刀 烏近
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間章二 魔神本尊(3)

 いくらかよろめきながら立ち上がったアッシャーの全身から、湯気が立ち上る。治癒法術で加速された新陳代謝の反動で、アッシャーの体表が人体では有り得ないレベルで発熱しているためだ。その代わり、既に頭部と右肩からの出血は止まり、傷口には新たな肉が盛り上がっていた。

 神官にとって仇敵とも言うべき存在への勝利に湧いて、己の疲労も忘れた神殿騎士達がアッシャーの回りに集まってくる。

 だがそんな部下達にまだ傷も治り切らぬアッシャーが返したのは、まるで戦闘など無かったかのような一喝だった。


「誰でもいい、投げ槍(ジャベリン)寄越せ! ガルズ、初速確保カタパルト用意レディ!」


 大剣を取り落とすように手放して、部下の一人が反射的に取り出した短剣のような武器を受け取り、一振り。途端に短剣の柄が三倍に伸長し、片手で取り扱える短槍の形に変わった。


「……秩序の諸神、(アッド・)事分けては風神(コスモス・デア)トーラスに願い奉る(・トーラス)


 何処か控えめなガルズの詠唱を聞き取るや、アッシャーは腕を振って部下を前方から退かせて叫ぶ。


射出ボルツナウ!」

天風神速の加護持て(ヒュー・)烈風の疾く奔る事、(ファン・)矢の放つが如く在れ(レイ)!!」


 指向性の強い爆風を背に受ける事で、帆船の如く一瞬で加速するアッシャー。

 なお本来は風圧で対象を転倒ないし束縛するための術式であり、移動補助に使うものではない。爆発的な加速を受けてなお、転倒せずに速度を維持して走るアッシャーの剛脚ごうきゃくと体幹が異常なだけである。

 一瞬で風の速度に到達したアッシャーは、あちこちに損傷の残る身体からの悲鳴を無視して、本来の目標を目指して疾走した。

 数十秒で、街道の脇に佇む人影を視界に捉える。巨大な犬のような魔獣も当然目には入ったが、おそらく支援者の使いか何かだろうという程度の事しか思いつかない。

 何はともあれ、二人を逃さない……少なくとも追跡を有利にする事こそが今のアッシャーの目標である。

 だから吠えた。


「ヘリテ=インフェルム! クゥエル=ファルゴット!」


 叫びと共に、銀の短槍を投擲。こちらに注意を向け、可能なら魔獣から距離を取らせるための一撃。事実、叫びが聞こえたのだろう二人の顔がアッシャーの方を向いた。

 だが、そこまでだった。

 疾走による加速も乗った一投は、しかし犬の魔獣――嗤い犬の太い尾によってこともなげに打ち払らわれた。

 予想外の魔獣の挙動に瞠目するアッシャーの目の前で、ヘリテと視線を交わしたクゥエルはヘリテを抱き上げ、馬よりも大きな嗤い犬の胴の下――地面にわだかまる影の中へと潜り込む。


 Hye――hye――hye――hye――


 待っていたかのように『嗤い犬』は高笑いの如き遠吠えを上げると、二人ごと自らの影の中に落下するように姿を消した。

 一部始終を見送るしか無かったアッシャーは徐々に走る速度を緩めると、二人と一頭が消えた場所の手前で崩れ落ちるようにしゃがみ込む。

 そして無言のまま、今までの姿からは信じられないほど力ない動作で、地面を一つだけ殴りつけた。


ちょっと勢いで三分割して一気投稿でございます……我ながら戦闘シーンだけ別物になっちまう……くどかったらくどいって言ってくれてもいいのよ!直るかは分からんが!

あ、でも間章あと一回書きます……分量、本当に毎度読めない。。

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