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壊れた世界を今日もゆく!  作者: テキサス
序章『骨吐き洞窟と人喰い蛇』
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弱肉強食

 「こっちです」

 

 私の肩の上に乗ったマツリが、小さな声で呼びかける。


 隣にはマルシェ。テントで会った時と同じ、赤髪によく映える黒い軍服を着込んでいて、足元にも黒いブーツ。


 背後を見遣ると、すぐ後ろにブレアが付いてきている。茶色の軍服には既に所々、赤黒い汚れが付着していた。やたらと多くの勲章が貼り付けられたゾーンは無事なので、そこを庇ったためだろうか。大事なものなら外しておきなさい。右手には、赤く幾何学模様が走った銀色の棒を持っている。長さは私の身長くらいだが、彼は背が高いので、そんなに長く見えない。

 

 もう少し後ろに離れて、3人の軍人が横並びに歩いている。


 黒くてメタリックな兜と鎖帷子を装着している彼の名前はアーノルド。隙間から見える軍服の色は赤。腰には剣を一本差している。


 水色の髪で俯きながら歩いている彼女の名前はノア。右手に持った木の杖の頭部には、赤く半透明な球体が嵌まっている。身長は私と同じくらい。大事な杖を床に付けたくないのか、赤ん坊を抱えるように横抱きしている。 


 彼女の軍服は濃紺色。帝国軍は自由に軍服の色を選べるのだろうか。


 その2人に挟まれて、大きな荷物を背負っているのはピコラ。性別不詳。戦闘員でないのか、気弱そうな雰囲気を纏っている。階級が低いらしいマルシェ相手にもペコペコしていた。領域の入り口で別れた雑用部隊の代わりに、荷物運びや食事の準備をしている。


 …さっき食べた干し肉スープは美味であった。そして軍服は白。そのせいで、足元の汚れの目立ち具合が悲惨だ。


 (警戒するのは分かるけど、後ろに居られると嫌だな‥)


 ボディーガード役のマルシェ以外は全員、罠を疑っているのか、案内役の私達がある程度進んで漸く、後をつけてくる。




 マルシェは私達に待てと言い残してすぐ、テント内にこの4人を連れて戻ってきた。


 既に少し話をしてきたらしい。私達と話すよりは、お互いに相手の意見に反論するのに夢中だった。


 内容としては、三人衆は私達を連れて行くことに賛成。むしろこのチャンスを逃す事の方があり得ないと。ブレアの立場としては、イレギュラーは排除すべきだと。根拠のない信用によって作戦が失敗するのを嫌がっているようだった。


 三人衆がなぜわざわざ私達を庇ったのかは分からない。ただの善人か、ブレアへの嫌がらせか。それとも他に何か狙いがあったのか。


 結局、マルシェも私達をここで処理するよりは、洞窟で役立つということに望みをかけたいらしく、三人衆の側に立った。ブレアはその場の空気からして、明らかに一番偉い人間だった。それでも自分以外の全員にNOを押し付けるのは難しいらしい。渋々私達の同行を認めた。


 そして、時は現在に戻る。


 今のところ雑魚モンスターに数回遭遇したくらいで、順調に進んできた私達は、広場に到着した。 


 立ち止まると、杖に体重をかけて少し休む。頼み込んで、道中倒された首無し犬から、骨槍くん2号を手に入れていた。


 これまで激しい戦闘はなく、ノアが氷魔法を使って、アーノルドは剣士だという発見しかなかった。他のメンバーは温存していたのか、まだ戦闘に手を出していない。


 初めて見たそれっぽい魔法には感動したが、なぜか、剣技の美しさの方に目を惹かれた。


 広場を見渡してみると、見覚えがある。ハデルと一緒に睡眠をとった場所かもしれない。今度はあまり休憩することもなく、奥の通路を抜けた。







 何度目かの分かれ道を過ぎ、一本道を進んでいる。すると、マツリが肩から降りて、こちらを振り向く。通せんぼするように頭を高く持ち上げて、


 「もう少し進むと、この先に大きな穴があります。そこを通らないと、一番奥には行けません。でも、降りてすぐ、モンスターが居ます。門番さんなのか、これまで出会ったモンスターよりもかなり強いと思います。もう、感じるんです」


 少し震えを見せながら、マツリは一行に言った。


 アイツなのかな。雑ケンタウロス。マツリの方を向くと、小さく頷いてきた。…私達だけ穴を降りないってナシかな。


 「そうか。行くぞ」


 ブレアは顎髭をモサモサと触りながら答えた。緊張しているのだろうか。


 案内の必要のない一本道だからか、5人はこちらを警戒しつつも、私達を抜かして進んでいく。

置いていかれても、この人達が死んでも、この先困ってしまう。少し離れて後ろをついていく。立場が逆転してしまった。


 再び歩き始めてすぐ、あの圧迫感を感じた。


 空気の変化は明らかなはずだが、5人の足取りが重くなることはない。我慢しながらもついて行くと、とても広い空間に出た。


 少し前方に、大きな黒い穴が見える。目測が難しいが、半径10メートルはありそうな円形にくり抜かれていて、とても深そうだ。


 悍ましい雰囲気を感じる。底の方はよく見えない。ここに飛び込むのは絶対嫌だな。


 ブレアが銀色の棒を掴んでいない方の指で、空中に魔法陣のようなものを描く。すると、穴の上空にメラメラと燃え盛る炎の球が現れた。大玉転がしに使えそうなサイズ。


 魔法って不思議。


 かなりの熱量を蓄えているのか、離れていても少し暑い。炎に照らされて明るくなった穴に近づき、軍人達の横から覗き込んだ。 


 薄ぼんやりとした暗闇の中、アイツが穴の底からこちらを見上げている。


 目が合う。何も考えず背後にジャンプ。


 ドムッ


 重いゴム毬を硬い床に叩きつけたような音が、すぐ横から聞こえた。見ると、ピコラの上半身がない。


 炎球と氷弾がケンタウロスに向かうが、図体に似合わず巧みに避けると、ノアの方に向かう。

異常に膨張した左腕を横殴りに叩きつけるのを、アーノルドが間に入って防ぐ。が、そのまま2人まとめて吹き飛ばされる。


 マルシェは私とマツリを庇うように立っていた。


 「ここから動かないで」


 マルシェはそういうと、重なって倒れた2人を踏み潰そうとするケンタウロスに、掌をかざす。

するとケンタウロスが視界から消えた。何が起きた?


 混乱して辺りを見回す。


 2人の転がる場所の奥で、壁に半身を埋めたケンタウロスが、ゆっくりと抜け出すところだった。その傍らには大きな岩が転がっている。これを射出して弾き飛ばしたのだろうか。


 睨みつけるケンタウロスを、鋭い目で見返しながら、マルシェは怖気を感じさせない足取りで近づいて行く。


 遠目から、ケンタウロスの脚に力が篭るのがわかる。来る。思わず目を閉じる。


 パァァァアン!!!!


 分厚い風船が弾けるような音がして目を開ける。マルシェはまだ同じ場所に立っていた。


 拳を振り抜いた体勢だ。右肩から先は、背丈よりも大きくゴツゴツとした赤い岩に覆われている。帯電しているのか、バチバチという音と共に、岩の周りに白い火花が点滅した。


 周りにはケンタウロスだったものが散乱していて、もはや原型はない。血液が蒸発したのか、血溜まりさえも見えない。ケンタウロスが存在していた証拠は、殆ど消えてしまった。


 「な……」

 

 (なに、これ)


 安堵と畏怖と恥辱が入り混じった感情で頭が満たされる。


 あんな化け物にまた遭遇して、生き残った。その化け物を、蟻を踏み潰すような気軽さで血煙にした存在が、すぐそこに居る。なにより、与えられた力にはしゃいで、少しでも強くなったと勘違いしていた。そんな自分がほんと馬鹿みたいだ。


 緊張が解けたのか、ストレスが許容限界を迎えたのか、体から力が抜けて、


 (意識を失う感覚にも慣れたな)


 べちゃり、と顔面から汚い床へと倒れ込んだ。







 言い争う声が聞こえる。


 目を覚ますと、大きな扉の前に居た。後ろを振り向く。通路が暗闇に伸びていて、その脇に人が集まっていた。暖かい。大きな焚き火がパチパチと音を立てている。


 (ボス部屋前といった風情)


 もう着いたのだろうか。誰かが私を運んでくれたのかな。今は休憩中?


 背後が騒がしく、思考が中断される。


 見ると、ブレアと三人衆の2人が険悪なムードだ。横に座ってうとうとしていたマルシェの膝上から、マツリを引ったくり、首に巻く。


 (なにがあったの?色々よく分からないんだけど)


 念話で話しかけると、マツリは舌先をチロチロと動かしながら答えた。


 (うーん。説明が難しいですね。とりあえず、ここは領域の主が居る大部屋の前です。主は領域の核みたいなものなので、倒せば領域は破壊できます。つまり、ここが軍人さん達の目的地です)


 視線をマツリからずらす。


 一軒家が通れるくらいの観音開きの大扉。 


 紫色の肉のようなものにびっしりと覆われているのは他の壁と同じだ。それに加えて竹くらいの太さの血管が至る所を走っていて、今も脈打っている。所々浮き出た人面は苦悶の表情を浮かべていて、間隙からはみ出た骨や臓器が不気味な威圧感を与えてくる。キショい。肉が禿げた部分から見える白い装飾と、中央に走った太い溝が、辛うじて扉の体裁を保っていた。

 

 (セツさんが気絶しちゃった後、マルシェさんが担いで連れて行くことになりました。ブレアさんだけは置いていきたがってたんですけど)


 グロテスクな扉から視線を外して、マルシェを見る。ありがたいな。


 眼鏡を外して眠そうに俯いていたので、肩を叩き、ペコリと頭を下げる。彼女はにへら、と笑うと立てた親指で私の鼻を持ち上げてきた。


 やめろ、豚鼻になる。


 (それでここに着いてから、アーノルドさんとノアさんが、ブレアさんに文句を言い始めて) 


 マツリが目線を向けたのに合わせて、3人がいる場所を見遣る。少し落ち着いたが、未だに険悪なムードだ。


 (道中もあんまり話してなかったよねあの人達。なんで仲悪いの?何かあったのかな)


 マツリは、今度はマルシェに目を向けながら言う。


 (私もよくわからなくて。マルシェさんに色々教えてもらったんです。それでもあんまり理解出来てないかもしれませんけど)

 

 (なんて言ってたの?)


 (えっと、まず、マルシェさんたちは帝国軍の軍人さんなんです。それで、帝国軍にも派閥があららしいです。ブレアさんが大将でマルシェさんが少将の第一帝国軍。アーノルドさんが中将の第二帝国軍。ノアさんが中将の第三帝国軍。ピコラさんが中将の第四帝国軍。それぞれに後ろ楯があります。第一帝国軍は巫女や神官。第二帝国軍は貴族や皇族。第三帝国軍は職人や商人。それで、ブレアさんたち巫女派は)


 私はマツリが話を続けようとするのを手で押し留めた。


 (情報量多いな。ちょっと待って。えーと……第四帝国軍の後ろ楯は?)


 (ないらしいです。強いて言えば労働階級の中でも下流の人達やスラムの人達くらいだって。政治に一生懸命なのは、法律で優遇されている人達ばかりらしくて)


 (中流以上の労働階級は法律で優遇されてるの?そこがボリュームゾーンでしょ)


 (されてません。その辺りの人達は殆ど職人さん達のシンパさんらしいです。帝国は魔道具の国で、職人さん達の力がとても強いんだとか)


 (へー。まあいいや。さっきの説明の続きお願いします)


 (はい。ブレアさん達は巫女派らしいです。巫女派は他の派閥と仲が悪いんですけど、その活動方針は…)


 「ぉえ」


 一瞬首が締まると、肩周りが軽くなった。振り向くとブレアが立っていて、その手でマツリを掴んでいる。

 

 「ちょ…や、め」


 困惑する私を尻目に、彼は眠っていたマルシェの方に歩いて行くと、スパンッと頭を引っ叩いた。かなり苛立った様子だ。


 「起きろ。作戦会議だ」


 マルシェは手早く眼鏡をかけ、直立すると口を開く。


 「は。突入の時間ですか。……え、作戦会議?先程したはずでは」


 ブレアは疲れたような顔で言う。


 「作戦変更だ。突入は明日。ノアがこれから朝まで、魔法杖の準備をするらしい」


 マルシェは軍服のポケットから取り出した懐中時計を見る。今は夜なんだろうか。そしてため息を吐くと、


 「はぁ。いきなりですね。これだから職人派は…」


 私はブレアに声を掛ける。


 「かえ、して」


 ブレアはこちらに振り向くと、感情を伺わせない声色で言った。


 「これ以上のイレギュラーは受け入れられん。戦闘終了までは預かっておく。結託されても敵わんからな」


 「あの、別に問題ないのでは」


 「黙れ」


 「監視なら私が」


 ブレアは血走った目でマルシェを睨みつける。


 「流石は皇帝の一人娘。上官の決定にもいちいち口答えしなくては気が済まないようだ。素直に従うのは高貴な血が許さないか?」


 そう言って彼は身を翻すと、振り向くこともなく隅の方へ歩いていった。


 「アタシはもう違…」


 マルシェは悔しそうに唇を噛むと、既に遠ざかりつつあるブレアの背中を追いかける。

 

 (ボス戦前に仲間割れすんなよ…)


 考えるべき事は多そうだが、もう疲れた。


 放置されたマルシェの荷物から、毛布とシートを借りた。簡易ベッドを作ると、骨槍くん2号を抱きしめて、潜り込む。


 マツリと私のこれからの無事を祈りながら、再び眠りに落ちた。




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