ここはオープンワールド
この世界『リーファ』には、各地に冒険者ギルドが散らばっている。凡そ二百年前の大戦、その間は中立と沈黙を貫き続けたこの組織は、終戦と同時にその規模を広げた。
東側では、今では平和条約によって厳しくなった武装や兵役の制限により、避けられないモンスター等との戦闘に際して冒険者ギルドが活躍する事も多い。
西側では、未だ続く紛争の最中、一方的に侵略された国への武力援助なども行なわれている。
勿論、そうした依頼だけではない。迷い人探しや安全な場所での薬草の採取。さらには工事現場での力仕事や、専門領域での特殊技能の発揮など、彼らの活動内容は多岐にわたる。
この世界に欠かせない存在となった冒険者ギルド。各地に散らばるその建物はしかし、全てが『支部』だという噂がある。
『本部』はどこにあるのだろうか。
曰く、学園島のように宙に浮き、常に移動し続けている。
曰く、魔法で隠蔽されていて、強者しか認識できない。
曰く、見つけたものを口封じし、場合によっては殺している。
曰く、実はそんなものなどない。
一部の噂好きの人々の間では、今もその議論は紛糾し続けている。
そんな冒険者ギルド総本山、つまりは『本部』の執務室でのこと。
その部屋の主、ギャラリア=ハオラードは、人族としては異様に大柄な体を豪奢な椅子に沈め、長い脚を机の上に載せていた。彼はその丸太の様な腕を組みながら、皺だらけの顔を更に歪めて言う。
「それ、派遣しなきゃダメかのう」
「帝国が復興に失敗すれば三大国のバランスが崩れます。それに、共和国にはボランティアをずっと回していて、帝国だけスルーというのも…」
「…あー、分かったわい。まーた仕事が増える。ただでさえ人材不足でいっぱいいっぱいっちゅうのに」
ギャラリアは大きな掌で顔を覆うと、呟く。
「それで、良いニュースの方はなんじゃ?」
執務机の前に立った女性が口を開く。
「これは、ハオ爺びっくりして死んじゃうんじゃないでしょうか」
「…不謹慎じゃのう。早く言っとくれ。嬉しい報告で死ねるなら幸せじゃわい」
いや私の仕事が増えるから許しませんけど、と呟くと、女性は老人の目を見つめながら、
「なんと!数百年ぶりの特級災害領域の破壊報告!それも帝国と共和国で同時に2件!!」
大柄な老人は、白い口髭の付いた口をあんぐりと空ける。
「……ほわぁ。そーりゃあ驚いた」
そう言って、すぐに口を閉じる。暫く考え込んだ様子で、
「…こりゃあ推理ってほどのもんでもないが、帝国でのクーデター事件、それとほぼ同時期での共和国での4人の勇者召喚も関わってきとるじゃろうな」
彼は後頭部をガリガリと掻きながら、
「確かに特級の破壊はギルドとしては仕事が減って助かる話じゃが、もうちょい深く知る必要があるのう。シーフ坊に探らせるか」
彼女は苦々しい顔付きになると、
「いえ。シーフ君はまたもや消息不明です。他の新顔の特級冒険者にしても忙しそうですし、古株は私達の言うことなんか、あんまり聞いてくれません。あとですね、実は最初に言い切らなかった悪いニュースがまだあるんです。一気に言ってハオ爺が心停止したら不味いので、最後に残してました」
老人は白い前髪をかき上げながら女性に顔を近づけて、
「…多い多い。ネガティブな情報が多すぎるんじゃ!最後に残してたのってなんじゃ、聞きたくないんじゃけど」
彼女は嫌そうな顔をしながら、
「顔が臭いです。離れてください。そうですね。共和国で特級が発生しかけらしいです。『感知』持ちのクレアが先程伝えてくれました。なのでハオ爺、行ってきてください」
老人は椅子に座り直すと、
「もうちょっと婉曲に言ってくれんかのぉ。孫の反抗期、こわいんじゃあ。…それにしても儂、一番偉いんじゃけどなぁ。でも分かっとるよ。儂以上の適任がおらんから、行くしかないんじゃろう?」
「いえ、ハオ爺の前に3人の特級冒険者に打診しましたが断られました。あと、反抗期じゃない!だったとしても私今年で31!」
「………」
「取り敢えず、歩きながら今回の計画について話し合いましょう」
女性はそういうと、茶色のおさげを揺らしながら部屋を出ていく。
老人はため息をはくと、それについて行った。
「面倒じゃわい」
「ファイトです、ハオ爺」
すぐ後ろには『本部』の大きな建物。そして、ポツポツと建った別の建物や街灯、その間を歩く人々はみな武装している。
頭上を見上げればただひたすらに暗黒が続いていた。眼前にはその暗黒の先へと伸び続ける壁面。
ここは世界を二分する傷跡『スクラッチ』、その谷底である。
「あー嫌じゃ嫌じゃなんでまたこんな所に総本山を建てたんじゃ」
「そりゃ、知ってるでしょう」
『リーファ』を『スクラッチ』で東西に二分できるように、そこに刻まれている『スクラッチ』もまた、北部、中央部、南部に三分できる。
彼ら二人の現在地は北部である。
北部と南部には広大な土地にポツポツと、人間の居住スペースが設けられていた。それ以外の、この谷底の殆ど全ての土地は、未だ人の手がつけられていない。
谷底では、古くから住んでいたらしい実力者の子孫や、本人、そして新しく辿り着いた者。様々な強者が入り混じって生活している。
有望株をスカウトして教えることは稀にあるが、守秘義務により、基本的に独力でここを発見したものしか、『本部』の場所は知ることができない。
「アケチヒナタに行かせてはどうじゃ?」
「いくら勢いがあるからって、登録して3ヶ月の冒険者に任せる訳にはいかないでしょうに」
「そんな考えじゃ後進が育たんぞ」
「…状況に余裕がないんです」
そんなスクラッチ北部に位置する、冒険者ギルド総本山は、崖の上との行き来がしやすいように壁面に建てられていた。といっても、行きやすいのは東側だけで、西側には行きづらくなってしまうのだが。
そして中央部の大半を占めるのが、巨大なダンジョン。超級災害領域『大迷宮グラン=ガルディア』である。
中央部を通らないと会う事が出来ない北部と南部の冒険者は、いずれもグラン=ガルディアに挑み続ける為に谷底に住居を構えている。この巨大な魔窟の底から、日々湧き上がってくるモンスターを駆除し、或いはダンジョンを踏破、破壊しようとしている。
「じゃあ、行ってくるわい」
「ちゃっちゃと済ませて来てください」
ドオオォォン!!!
轟音。そして土煙。
茶髪の女性が見上げると、遠くの薄暗闇の中、老人が手足を崖に突き刺しては引き抜き、その登る姿がみるみる小さくなって行くのが見えた。
(魔法もギフトも無しにこんな芸当できるの、ハオ爺くらいですよね…)
祖父を見送ると、彼女は踵を返す。
(…5分ほど紅茶休憩したら、残ってる大量の書類仕事ですね)
うげぇ、と彼女が舌を出す。そのまま歩いてギルドの入り口に迫ったところで、耳元からプルルルルと着信音。
「…はい、なんですか」
(もしもし、聞こえるコーネル?)
「クレア…聞こえますけど。さっき通話したばかりでしょう」
コーネルは右耳に付けられた真珠大の赤いイヤリングを抑えながら呟く。
(いやさ、悪いけどまた私の『感知』に引っかかったんだわ)
「…なんですか?」
(教国で『負の想念』が一箇所に集まってる気配。多分、自然発生。地形とか人の流れによる問題だと思う。あと20年弱は大丈夫そうだけど、食い止めないと千年ぶりの『魔王』が発生するかも)
「………」
(そっちはコーネルに対応して貰いたいんだわ。私達、お偉方との交渉とか苦手だしさ。あと事前報告がもう一つ。ギルドと連携取ってる『忍びの里』から救援要請。西部で勢力拡大中の遊牧民にいきなり攻め込まれてるらしい。流石にすぐ武力は派遣できないだろうしさ。まず、私合わせた近くにいるクラメン何人かで斥候してくる)
「………」
(…コーネル?)
「私、この仕事が終わったらギルド辞めます。ハオ爺の世話も辞めて、どっかで旦那さん見つけて2人で幸せに暮らすんだ……」
(もー、頑張ってよコーネル。確かに一番忙しいだろうけどさ。てかそれ死亡フラグだし!…まあ報告は以上かな。まだ何かある?)
「ないです。はぁ、パンクしそうですよ。…とりあえず頑張ります。そっちもお気を付けて、それじゃ」
(ほいほーい)
プツ…と音がして通話が切れた。
コーネルは耳元から手を離すとギルドへと入って行く。
「あは…は…」
(もういや、仕事やめたい)
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「ッギャアアァァア!!!」
「うるせっ」
「…ッ喋った!喋った!もう出し惜しみしてないから!やめてくれ!!里にはもう宝なんて残ってない!!」
涙と鼻水で顔をベタベタにしながら、椅子に縛り付けられた男が喚く。脚は開かれて固定され、その中央へ辿って行くと、まばらに針が突き出した赤混じりの肌色が垂れている。
「こんだけ針刺しても痛覚に耐性できないタマキンって、ほんとクソだよなぁ、アサヒ」
「…はい。その、睾丸はそもそも針を刺す為にできてないので。それに、耐性が出来ない方が我々にとって、都合が良いかと」
「ギャハハハハ!!…そりゃそーだ。オメーはさ、面白いから。こうならないように立ち回れよ」
目の前の金髪を逆立てた男がこちらに話しかけてきたので、選択肢を吟味してから、答える。
(ウップ…気持ち悪りぃ)
吐き気を堪え、出来るだけ拷問されている男の股間や、床に散らばる指が見えないよう目を逸らす。
どこにいっても、人の世は結局クソらしい。
あの変な光球のせいで、どんどん地獄に転げ落ちて行ったんだ。
大学の友人が『おくりびと』と名乗り、陰鬱でおかしなサークルを運営していると知ったのは偶然だった。
ソイツと仲良くしてた俺に対して別の奴が言って来た。
「ホウライくん、あんまり彼に関わらない方がいいよ。変な噂があって…」
噂を聞いた俺はすぐに本人に確認した。他人が言ったことをそのまま鵜呑みにするのが嫌だったからだ。
結果、事実だったらしい。
それでもソイツは妙な魅力があるので、付き合いを続けていた。暫くそうしていると、そのサークルの集まりに呼ばれた。
「アサヒにも来て欲しいんだ」
基本的に飲み会やイベントだったが、意外にも楽しかった。心に傷を負ったやつは人の機嫌を取るのが上手い。俺は楽しくなってサークルの常連になった。ただ、自殺幇助とかいう危なそうな活動には関わらないようにしていたが。
(勇気ある人間の手助けとか、自嘲げに言ってたな…)
またしばらくして、初めてソイツの家に呼ばれる。
ソイツの家が無駄に金持ちなことを知った。自虐的に、親に恵まれたことを語る彼に、耐えきれなかった。俺は内心を素直に語った。
(…金が余ってんなら欲しかった)
俺の母親は、シングルマザーだ。夜の世界で働き、あまり客が取れないらしいのに、消費者金融に借金してまで大学に行かせてくれた。
「頼んでねえよ!高卒で働きゃいいだろ」
「私のエゴよ。アサヒには私みたいにならず、まともになって欲しいの、ダメ?」
俺が半生を語り終えると、すぐにソイツはお小遣いをくれるようになった。一番仲の良い友達料として、毎月50万。本気で言ってるのかと、殴りつけそうになったが、友情を台無しにしたのは俺だ。
歯を食いしばりながら、涙目でお礼を言った。
そんなふうに日常を過ごしていたある日、高校生たち数人のグループが、庭でやってたバーベキュー中に突入してきた。
(面倒なことになったな…)
そう思いながら、ソイツと他の奴らが口論しているのを離れて静観していた。
すると、光球が現れた。そこからはあっという間だ。
白い部屋には、バーベキューに参加していたサークルメンバーの12人がいた。
みんな、テンションが高かった。
(そりゃ、現実に閉塞感抱えてたんだからワクワクするよな)
でも、俺はそうじゃなかった。
ソイツがすぐ全員の参加を宣誓したせいで、俺まで母親を置いて、一緒に来てしまったからだ。
ソイツが行って小遣いの支払いが止まるだけなら、逆に安心できただけかもしれない。でも俺まで巻き込んだのは許せなかった。
怒鳴りつける俺の必死な表情を見て、ソイツの浮かれた表情はどんどん引き攣って行った。
(異世界でオーブを50個集めろ?そもそもオーブが何か説明しろ。あと、集めたら願いを叶えてくれるって、どこまで許されるんだ)
焦燥と混乱に襲われる頭を、必死にコントロールしようとする。
(無駄な事を考えるな、すぐクリアして、絶対地球に帰ってやる)
5つのギフトを提示するウィンドウと長時間睨み合った俺は、精一杯頭を捻って、『選択』というものを選んだ。
選択肢で分岐するタイプのノベルゲーム、その中でも異性を攻略する『ギャルゲー』にハマっていた俺は、勢いでそれを選んだんだ。
(俺に才覚があるとは思えない。だったら強者に取り入って、俺を助けさせるべきだ)
自分のイメージとズレた能力である可能性も感じだが、『選択』への適正となるとそれくらいしか思いつかない。人生の岐路を優柔不断で台無しにして来た俺に、決断力なんて無かったから。
そして、それだけは賢い立ち回りだった。
(他人とコミュニケーションを図るべき時に、会話や行動の選択肢が3つ浮かぶ。好感度を上げる、維持する、下げる。恐らくそういう能力だ)
転移してすぐ、森の中に居た。
暫くボーッとしていると、さっきまで空中で何かを読んでいた様子のソイツが、俺の肩を叩く。無言で人の輪から外れ、陰に隠れると、
「アサヒ、ごめんね。これを足しにして欲しい」
世界が止まった。
―選択してください―
・好感度上昇 「なんだよ。貰えるもんなら貰うけどよ」と言う。
・好感度維持 黙ったまま地面を見つめる。
・好感度下降 「クソ野郎が。二度と話しかけてくんな」と怒鳴って殴りつける。
(何だこれ。ギフト?とりあえずは)
「なんだよ。貰えるもんなら貰うけどよ」
それを聞いて安心したように笑ったソイツは、やっと踏ん切りがついたよ、ありがとうね、と呟く。
まずソイツは、右手で抜き手の形を作った。鈍く銀色に染まっていくソレに度肝を抜かれる。そして、右手を側頭部の高さまで持ち上げる。そのまま勢いを付けて、自分のこめかみをぶち抜いた。
パニックになった。飛び散る脳漿。だくだくと広がる血溜まり。顎から上を失ってベシャリと倒れたソイツの体。それでも、赤と黄と白と緑の景色、その中に混じる銀の小球から目が離せない。
「美味そう…」
衝動的にそれを飲み込んだ。
俺は騒ぎになる前にその場を離れた。
(どうせ俺が殺したと思われる)
どんな能力を持っているか分からない大勢の人間と敵対するよりかは、一人の方がまだ安全だ。
突然母と離れ、親友も失ってしまった。心の整理がつかなかった。あてもなく森をふらつく。暫く歩いても同じように木が並んだ景色だ。迷子になったまま適当に歩いていると、血の匂いがする。
顔を上げると、転移した時の場所にいる。ソイツの死体はそのままだった。でも、それ以外にも咽せるような死臭の原因があった。大量に人体の部品が散乱する中で、血を浴びた背の高い男が立っていた。近くには黒い馬。周りには騎馬遊牧民のような格好の沢山の兵士達。
(なんだよこいつら…明らかにヤバそうだ。草原に帰ってくれよ。ッ……!!)
ゴォォォォオン!!!!
危機感を感じて体が強張る。同時に衝撃を感じて、木に背中をぶつけた。
「ゴハァッ!!ゴッホ…ゲホ」
体中が痛い。…眼前に銀に染まった前腕。それが顔を庇っていた。隙間からは、すぐ近くに大きな棍棒を持った男の姿が見える。
「…お前ェ。採用!!」
アバレーン=カーン。遊牧国家『シャクタル』の第三王子。残虐な一族の血を煮詰めに煮詰めたような精神異常者。
その男が、金髪を揺らし、血に濡れた顔を嬉しそうに歪ませてそう言った。
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回想していると、拷問部屋に女が1人入ってきた。
「これ、とーっても美しい顔立ちじゃありませんこと〜」
174センチの俺よりも、頭ひとつ分背が高い。
左手で髪を掴んで女性の生首をぶら下げていた。クソ…こんな奴ばっかだよ。
「作業中に入って来んじゃねェよ、邪魔だ」
その言い方だと、気に入られて、仕事も無いのに連れ回されてる俺が火の粉浴びるだろ…。案の定大女は俺の顔をキッと睨みつけてから、
「……バトレーン様ァ〜。もう辛抱溜まりませんわァ。そんな些事はよして、お情けを頂けませんこと?」
バゴォォォ!!
「ッアァン!」
「つまんねェかどうかは、俺様が決める事だ…」
バトレーンに殴られて嬉しそうに悶えているクリーム色の髪の大女がサンテパだ。
『シャクタル』の万人隊長。第3王子派。血と女の顔と殺し合いを愛する。…さっき言ってた『お情け』も模擬戦のことだ。
サラシで巻かれた胸がハミ出そうになっているのを無感動に見ていると、
「あァ、蛆虫が穢らわしい目でこっち見てんじゃ無いよ!!」
殺したい。興味ねーよ、人格破綻者。
―選択してください―
・好感度上昇 「アバレーン様、コイツ殺して良いですか?」と言う。
・好感度維持 左手の生首を奪ってから、「クレアの仇!」と言って襲いかかる。
・好感度下降 隙を見て背後からカンチョーする。
(あーーーー、クソ!!!出やがった!)
カンチョーはダメだ。この女意外と潔癖だから、そういうノリは普通に戦闘が始まる。引き継いだギフトも、高まった身体能力も、まだ運用に慣れていない。それじゃ流石に万人隊長に勝てる気がしない。
クレアって誰だよ。これも戦闘になるから却下。
一番上、なんで好感度上がるんだ。上がっても絡まれるのが嫌だし。しかも出過ぎた言動はアバレーンの方に嫌われる。…コイツにだけは好かれないといけない。
(くそ…詰んだ。難易度高すぎんだろ。コミュニケーション)
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「まだなの!?早くしなさい」
「わからねぇ!もうすぐなはずだ」
「…せっちゃん、大丈夫かしら」
焦る。まだ生きているだろうか。3ヶ月に1回の『質問』を下らない事に使ってしまって、心臓が捩れるような気持ちで教国に滞在していた。
「ッチィ。やっぱり国外に出た方が良かったんじゃ」
「馬鹿。この広い世界で手掛かりなく1人を見つけるよりは、私達がここで有名になる方がまだ会える可能性があったって、何度も何度も言ったでしょう!」
「喧嘩しないでよぉ。2人とも…」
「そもそもアンタが転移してすぐ何も考えずに、俺のギフトについて教えろ、とか呟いたせいでしょ。…アンタみたいな脳筋が戦闘用じゃないギフトを選んだのは見直したけど、宝の持ち腐れね」
「ちょっと、ナギちゃん言い過ぎ…」
「状況も状況で焦ってたんだよ。まずは自分のギフトについて情報を集めてからだと思った。…まさか、3ヶ月に1回しか使えないなんて、思わなかった。本当に反省してる」
大豪邸の庭ではなく、気づけば白い部屋に立っていた俺達は、施設のメンバーが4人しかいない事に気付いた。管理人さん。俺。ナギ。ユーリ。
光球に聞いても、『勾配の調整』としか言わない。意味がわからねぇ。こんな奴に聞いてもしょうがないと思った俺は、セツを探す方法を考えた。
結局提示された五つのギフトのうち、最も使えそうな『質問』を俺は選んだ。
それからすぐ転移したのは、特級災害領域『碧き象牙の塔』の最上階だった。しかも戦闘中。
領域を破壊しにきたパーティのリーダーである、教国の枢機卿が、命を対価に自らのギフトを使って『召喚』したらしい。そのタイミングの良さに、光球の邪悪な遊び心を感じた。
『啜り泣く女神像』という領域の主は強かった。
錆びた女型の巨像。一定以上見つめられ続けると頭蓋骨の中を食い破って金属の小鳥が飛び出てくる。
伸縮する手足はムチのようにしなり、物凄い速さで、心臓や脳を槍のように突き刺そうとする。
体をぐるぐると捻って、悶えたソイツが涙を流すたびに、オレ達も絶望の感情に襲われて、体がどうしても動かし辛くなった。
それでも、オレ達は死にかけながら、紙一重で勝って生き延びられた。
(けど…管理人さんはオレ達の盾になって死んじまったし、セツもヒナタも見つからねぇし…)
ウィンドウを睨みつけていると、灰色になっていた『質問』の文字が白く光る。
「お、おい!!…使えるぞ。アケチセツコの場所を教えろ、で良いよな」
「ヒナタくんは?…大丈夫そうだけど」
「答えが一つに定まる質問しかダメなんだ。それにヒナタがくたばってるイメージが湧かねぇ」
「…男女差別ね。まあ、私もアイツは元気でやってると思うけど」
「…で。いいよな?」
「ええ」
「うん…」
深呼吸をする。
(近くにいてくれとは言わない。頼む…生きていてくれ。そしたら回答があるはずだ)
「…ギフトを使う。アケチセツコの居場所はどこだ?」
酒樽の蓋を抜いたように、トクトクと頭の中に情報が流れ込んでくるのを感じる。
「…生きてる!しかも近いぞ!帝国だ!!」
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「それで、ウチを用心棒に雇うか雇わんのか。さっさと決めてくれへん?」
広い酒場中には血の匂いが漂い、地面に伏せた十数人の男達は苦しげに呻いている。
「…雇おう」
「オジ…オババ様!!」
床に伏せた男の中で一際体の大きい者が叫んだ。頭には獣のような耳が生えていて、もみあげから顎までがフサフサと獣毛に覆われていた。
「……お主、わざとじゃろう。」
老人は呆れたような表情で答える。女装をした老齢の男性。白塗りに口紅。髪は童女のようなオカッパ頭だ。
カウンター席に座る老人に立って向き合うのは、艶のある黒髪を腰まで伸ばした女。
前髪は、眉毛の間を斜めに横切るように、綺麗に切り揃えれていた。
白い細面に整った鼻梁。しかし吊り上がってギラギラと光る大きな目と、口元に覗く鋭い犬歯が、その印象を野生的な物にしている。
「雇ってくれるなら安心やわぁ。…まあな、別に給料は要らへんねん」
女は不恰好な刀を肩に担ぎ直して言う。濁った銀色に所々黒い斑点が付いた色合い。刃がほぼ潰れていて、刀身はデコボコとしている。柄はなく、持ち手の部分に赤黒い包帯が巻かれていた。
「この近くで、えらい美味そうな匂いがぷんぷん熟成してってんのを感じるんよ」
踵で、トントンと酒場の床を叩きながら、
「美味しく実った後のソイツらを、ウチが斬り殺すまでで構へん。それまでアンタらの、れじすたんす?っちゅーの手伝ったるから、衣食住の世話に関しては頼むわって話や」
老人は少し沈黙すると、堂々とした様子で答えた。
「うむ…まぁそれでよかろう。確かに共和国内で災禍の芽が育ちつつあるのは薄々気付いていたことじゃ。用心棒。願っても無いことじゃろう」
それに…と老人は女から視線を外し、酒場の入り口の方を向いた。
(運命力の塊が、帝国から近づいて来るのも感じるしのう……)




