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壊れた世界を今日もゆく!  作者: テキサス
序章『骨吐き洞窟と人喰い蛇』
2/25

目が覚めれば極限状態

 「んぅ…」


 頭が痛い。なんか背中がヌメヌメする。体が怠いし、違和感がある。……というか誰かにまさぐられてる!?


 「ぐぇ!!」


 思わず飛び起きようとして、体の上にのしかかっていた何かを蹴飛ばす。男のくぐもった声が聞こえた。体を起こすと、男が3メートルほど遠くの壁に、紫色の肉を掻き分けるようにして埋まっている。


 男は腰から先をもがくようにして引き抜くと、


 「なにすんだよー、しょうがねぇだろ。だって、こんな場所で、もう絶体絶命だわって時にえらい真っ白な別嬪さんが寝っ転がってたらさ、え?触るだろ。てか……強いなあんた!俺っち四級だぜ?もしかして上位冒険者だったりする?だったら俺っちを助けてくれよ。いやさ、強者の義務って言うの?勿論謝礼は弾むぜ、四級の割には結構貯金してる自信もあるし、弟もまあまあイケメンなんだよ。な?頼むよ、足りないならまだ」


 「う、る、さい」


 急にベラベラと喋り始めた男の口を抑える。


 まずい、色々混乱してる、落ち着こう。深呼吸だ。状況を整理しなきゃ。とりあえず男の顔を見ると、少し怯えたような表情で鼻から呼吸していた。


 ……こいつはこのままでいいか。


 すぅーー、はぁーー。


 よし落ち着いた、ことにしよう。まず、この場所は転移先だろう。つまりは異世界。


 ぬらぬらとテカる紫色の肉で、四方を囲まれた小部屋。よく見ると隅の方の床に血溜まりがある。小型犬ほどの大きさの羽虫の死骸が、その周りにポツポツと散らばっていた。壁の一部からは何かの骨が突き出している。周りには痴漢疑惑の男を除いて、誰もいない。不気味で悍ましい空間。


 うん、最悪の目覚めだ。でも、


 「回帰」


何も起きない。


 「回帰」


何も起きない。


「ギフ、ト発、動」


何も起きない。


 「なん、で」


 あれ?ねぇ嘘でしょ。流石にダメだよそれは。貰ったじゃんギフト。地球に帰れないにしてもどこかには帰せよ。この状況は無理だよ。


 「ウィン、ドウ」


 ブゥゥン。という音がして目の前に半透明の板のようなものが浮かび上がった。


 『 アケチ セツコ 

   女    

   15歳

   所有ギフト:回帰

所有オーブ数:1 』


 え、これだけ?細かいステータスも説明もないの?出身地も身長体重も?オーブって何?いや、今それはどうでも良いか。とりあえず『回帰』と書かれている部分に触れてみるが反応はない。


 これ、どうやってギフトを使うんだ。







 しばらく念じたり唱えたりウィンドウを弄ったりしたものの、何も起きない。


 なので、痴漢男に話を聞く事にした。幸いにも言葉が通じることは、先ほどのドタバタで分かっていたからだ。光球のサービスだろうか。


 結局、かなり苦労したものの、多くの情報を抜き出すことに成功した。でも、コミュニケーションは苦手だ…。もうやりたくはない。

 

 男曰く、この世界の名前は『リーファ』。ただし彼は『ユザーミ帝国』という自分が生まれ育った国から出たことがなく、他の国の事情などはあまり知らないのだとか。


 ユザーミ帝国には厳格な身分制と、身分ごとに分けられた成分法があるらしい。


 また、ポツポツと蒸気機関が普及していてこれはこの国の自慢の一つだとか。文明のレベルで言えば、産業革命が本格的に始まる直前のイギリスくらいだろうか。


 もう少し真面目に管理人さんの特別授業を聞いていればよかった…。勉強熱心な施設のみんななら、知識チートが出来るかな。


 いや、そう簡単にはいかないかもしれない。詳しくは聞いてはないけど、この世界には魔法があるらしいから。それに勝る科学を提供するのは、素人には難しそうだ。


 そして、帝国では魔導具というものもメジャーらしい。生活の隅々に浸透していて、工場や交通機関でも使われているとのこと。そのためか、蒸気機関は金持ちの道楽扱いなんだとか。


 他にも色々聞いたけど、今後のために重要なことだけまとめ直しておこうかな。


 男は冒険者だ。


 冒険者というのは色々な依頼を受ける、多種多様な技能のエキスパート集団らしい。といっても、武力を頼られることが一番多い。一般的には『災害領域』と呼ばれる危険な場所で活動する人々のことを指すんだとか。


 災害領域での活動は主にそこから溢れかけているモンスターの討伐や、素材の狩猟採集。他にも領域自体の破壊など、色々あるらしい。


 それらで際立った功績を上げると、冒険者としての級が高くなる。七から一級、そして特級へと。 三級以上が上級で、四級以下が下級らしい。七級は冒険者ギルドに登録するだけでなれるが、特級ともなれば単身で小国を滅ぼせるレベルだとか。


 ここで重要なポイントがある。帝国において、生まれガチャで低い身分が当たってしまった人間が居たとする。


 その人が法律的に上層民と同様の扱いを受ける為には、帝国での身分を向上させる必要がある。しかしその方法は、基本的には上級冒険者になることだけだそうだ。


 そんな上級冒険者を夢見る痴漢男改め『ハデル』くんは四級冒険者。もうひとおしの功績が欲しくて災害領域に来たらしい。


 8つの区分の冒険者に対し、災害領域は4区分。特級、そして一から三級。この辺りで私の頭はフラついてきたが、状況はもっと絶望的だった。


 この場所の名前は『骨吐き洞窟』。特級災害領域だ。







「でれた」


「だから言ったでしょーが。姐さんは疑りすぎですって」


 小部屋の隅にあった血溜まりを潜ると、壁の下を通り抜けることができた。


 ビーバーの巣みたいだ。浮上して顔を出すと、水路のような場所に出た。ちょうどT字路の突き当たりらへん。肩まで浸かった得体の知れない液体に鳥肌を立てながら、周りを見渡す。


 特に何もない。仄暗く生臭い空気の中に、3つの道がそれぞれ伸びているだけだ。


 「どれ?」


 「分かんないっすけど、こっちかな。あー怖い。せっかく逃げ場見つけたのに、出ちゃって。これで死んだら姐さんの責任っすよ」


 ハデルがぐちぐちと言うのを聞き流しながら、その背中に付いて行く。


 普通に喋ってるし、この辺りは平気なんだろうか。いや、他人に判断を頼るべきじゃない。油断大敵だ。モンスターを警戒しながらチャプチャプと進む。


 「そういや姐さんの武器って…」


 ハデルの口を抑えると、ゆっくりと水中に沈めた。自分も視界を遮られないギリギリまで水面下に隠れる。


 一本道を進んだ奥。水深が浅くなったところに、ナニカがいる。人だろうか。俯いて座り込んだ後ろ姿だけが見えた。


 「なにするんすか!!オェ!ちょっと飲んじゃったっすよ。これで俺っちがモンスターになったら…」

 

 「しず、かに」

 

 手の力を緩めた途端浮き上がって騒ぎ出したハデルは、私が注意する前に黙ってしまった。真っ白な顔色でワナワナと震えている。嘘。


 先ほどのナニカに視線を戻すと、明らかにこちらを向いていた。 

 

 よく見れば顔面の肉が削ぎ落とされてるし、所々骨が剥き出しだし、至る所から生えた黒い蛇のようなものがウネウネしている。確実にモンスターだ、ゾンビだ、全然人じゃない。


 (まずいまずいまずい、全然平気じゃないじゃん何で騒いだこのバカ)


 「どう、する」


 慌てて問いかけると自分のポーチをあれこれ弄っていたハデルは動きを止め、妙に悟ったような顔で言葉を返した。


 「どうしようもないっす。四級だし、弱いし。こっそり素材回収して出ようと思ってたんで、戦闘準備とか皆無っすよ。まあ、最期はこんなもんっすよね」


 (いや無駄な潔さ発揮しないで。なんかアイツゆっくりこっちに近づいて来てるし。止まった?屈んで……凄い太もも膨らんでるなんで)


 ドチャァア!!!!


 粘り気のある水音が聞こえると同時に、ゾンビは宙を舞ってこちらへ跳んできた。


 (あ、終わった)

 

 迫り来る醜い怪物を前にパニックになった私は、思わずそれを振り払おうとして、


 グシャ


 血煙と共にバラバラ死体にしてしまった。


 「……すっげぇ!蛇人形がワンパンって。姐さん絶対上級でしょ。さっきは濁してたけど」 


 いやすご。私つよ。そういえば、さっきハデルを蹴飛ばした時も凄い吹っ飛んでたな。ギフトとは別に身体能力が向上してる?


 これなら普通に脱出できそう。異世界の危険な場所って言っても、意外と楽勝かもしれない。


 「こい」

 「ちょ、ちょっと置いてかないで」


 ハデルの前に出ると、ズンズン道を進む。水深はだんだんと浅くなり、暫く歩いて道を抜けると広場のような場所に出た。


 中央には大量の白い蛇の死骸がうずたかく積み上がっている。それ以外は紫の肉壁といくつかの血溜まり。見慣れた光景だ。


 見晴らしは良く、モンスターの気配はない。蛇山の向こうには別の通路があるらしい。人間が通れるサイズの暗がりが目に入った。


 「やす、も」  


 「とりあえず休憩っすねー」


 蛇山の前に腰を下ろし、ふぅーーっと息を吐く。


 正直疲れた。ずっと極限状態で周りを警戒して気を張っていると、対して動いたわけじゃなくてもクタクタになる。出てくるモンスターが全部さっきみたいな強さならいいんだけど、まだ一体しか遭遇していないから分からない。


 (未知は怖い…でも大丈夫なはず)


 隣を見ると、ハデルがプロテインバーのような物を食べようとしていた。


 赤黒く汚れた手を、おでこで拭ってから差し出す。半分に割った後に掌に置かれたそれを咥えて、ゆっくりと目を閉じた。







 「…で、起きたら股が濡れてるのに気づいた弟は大慌てってわけです。よく嗅ぎゃあ水って分かるのにな。恥ずかしそうな弟の隠蔽工作を手伝った後にネタバラシした時のあの顔。最高にスカッとしやしたよ」


 「きらい?」


 「とんでもない!世界で一番愛してますぜ。クソ親から生まれたとは思えないほどピュアでね。頭も良いしギフト持ち。自慢の弟ですよ。もうちょっと可愛げが欲しいってだけでさぁ」


 「ギフト?」


 「そう。世にも珍しきギフト持ち。たしか『怪力』だったかな。ビビリのくせに」


 「へー」


 ハデルが話すのをずっと聞いてたら、眠くなってしまった。お腹もかなり空いている。明日すぐにここを出発しよう。


 「ねる」


 「えー!もう寝るんですか?もうちょっと聞いてくださいよ。まだまだあるんすよ弟の話」


 「ねる」


 「はぁ、そうですかい。じゃあお休みなさいっと」


 ハデルの話は両親の愚痴と弟との話ばかりだった。それ以外で心を動かすことが、特にないのだろう。


 彼は家から出て弟と2人で一緒に暮らすために、上級冒険者としての地位が欲しいとのこと。災害領域には入らず領域外での依頼のみをこなして、コツコツ四級まで上げてきたらしい。冒険者を始めてからは家に帰らず必死で級を上げてきたんだとか。


 それでいきなり特級の領域に突入するなんて、やっぱりバカだと思った。でもなかなか上がらない級に焦る理由があった。


 弟が動けなくなる病気で寝込んでいて、一緒に家を出るにはその治療薬が必要らしい。貯金でギリギリ買えるはずなのに、その薬は身分の高い人専用の店でしか売ってないんだとか。ギルドで取り寄せようとしても、身分証明で弾かれるらしい。


 みんなままならないな。そう思いながら自分自身のこれからを考えていると、いつの間にか睡魔に飲み込まれていた。



 


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