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壊れた世界を今日もゆく!  作者: テキサス
2章『ハリボテ英雄は許されたい』
19/25

レストインピース 

 マルシェがブレアを殺して、本人もあまり意図せず政争に勝利してしまってから、早くも一月半ほど経った。


 (この世界に来てからは3ヶ月くらいかな、あんま正確に数えてないけど)


 忙しいマルシェにたまに模擬戦を挑んでボコボコにされたり。ルシエドの金でスラムのみんなと大通りの店で豪遊したり。マツリとまた洞窟に行ったり。ルシエドにこの世界の常識を教えてもらったり。


 ルシエドはどんなに基本的な事を聞いても驚いた様子はなかった。下水道でも何やら意味深な事を言ってたし、何なんだろう。巫女特有の不思議ぱうわーというものかね。謎を放置したまま彼女と別れるのはちょっとスッキリしない。


 今日は、共和国への出発前日だ


 (頭韻ふんじゃったよ)


 私は施設のみんなを探すため、アキラは共和国の祖母を訪れるため、帝国を出る事になった。

 なので共和国までは、もっと外の世界を知りたいというマツリを添えて、この2人と1匹で共に過ごすことになる。


 アキラは、スラムの仲間との別れの準備を済ませたようで、みんなで、かなり穏やかな空気の中、日々を過ごしている。治安維持や復興に関してもマルシェが頑張ってるそうだし、心配はないだろう。



 そして、旅の準備といえば、装備である。


 今日はルシエドに用意してもらった、左手の魔導義手を、工房に受け取りに行く日なのだ。ロケットパンチを付けてもらおうかと思ったが、この荒っぽい世界では、生き死にに関わるレベルの問題だ。プロとルシエドに全部放り投げる事にした。


 そういえば魔法について。私は魔力はかなりあるものの、魔法の才能は無いんだとか。


 (まあ、ノアが言ってた事を踏まえると、異世界人なのに魔法が使える身体が発達してたらおかしいよね)


 それでも光球がサービスしてくれると思ったんだけどなぁ、と魔法が使えなくて落ち込んだ私を、ルシエドは笑って励ました。



 「帝国の代名詞が何か知ってるかい?」



 そう、魔導具。ルシエドは義手に魔力を込めるだけで、少しだけ魔法を使えるように注文してくれたらしい。義手という構造上、強い魔法や多くの魔法を仕込むことは出来ないらしいけど。でも、念願の、あの、魔法だ。


 (巫女様!ありがとう!しかも、整備をオートでやってくれるらしいしね。持つべき物は権力者の友人だ。いや、友人の権力者かな)


 「着いたよーセツ。ここだね。お〜い、クロネ婆。…勝手に入るよー」


 あれこれ考えていると、魔導具雇の前に着いたらしい。大通りの端っこ、隠れているとまでは言わないが、かなり目立ちにくいところにその建物はあった。


 黒色の木でつくられたログハウスのような外観。なんと、窓ガラスがない。扉には茶色い木のプレートがぶら下がっていて、書かれた名前の横に幾つか傷がつけられていた。


 (予約かな…それにしても閉鎖的だ)


 ルシエドが、その茶色いプレートに傷を付けて中に入っていったのを見て、慌ててその背中を追いかける。 






 「すご…い…」


 自分の手みたいだ。


 ルシエドが私の手を握ったタイミングで採寸していたらしいが、お店でも少し微調整した。

 サイズの調整された義手の、手首の断面にはプチプチ程度の丸い突起が二つある。

 その突起を私の手首の断面に押し当てた。

 すると、突起がピッタリと吸い付く。


 しかし、平たい義手の断面と、丸みを帯びた私の手の断面では、隙間が空いてしまった。不恰好だと思っていると、すぐに、変形した義手がその隙間に溶け込み自らを成形し直す。接合部がわからないほどに繋がりが滑らかになった。


 そして、外見だけでは無い。感覚も全く右手と同じだ。


 (とんでもないものをプレゼントされてしまった)


 「外したいって念じてみな」


 義手を作ってくれたらしいお婆さんが言うので、その通りに念じてみる。すると、


 「おっ、と」


 さっきまでが嘘のように義手が取れたので、慌てて空中でキャッチした。


 「付けたい、外したい、と念じると状態が変化する。念じないかぎりそのままさ」


 (便利だなー、外したい時ってあんまり思いつかないけど……そういや手首から刃生やせるわ私)


 もう一度義手をつけ直すと、


 「指を立てて、そう。そのまま人差し指に魔力を通すイメージ」


 お婆さんの言葉に従いながら、魔力を通してみる。


 ボォオッ!


 「わ、あ」

 

 人差し指の先からイワシサイズの火が噴き出した。


 「まあ出力は御察しさ。そもそも義手に魔法杖の亜種みたいな機能つけろってのが無理筋なんだ。まともな大きさの核玉を入れるスペースもありゃしない」


 「帝国一器用なクロネ婆しかできないとおもったから頼んだんだよ…」


 ルシエドが言う。お婆さんは少し頬を赤くして目を逸らすと、


 「…お世辞はいいよ。とりあえず、他の指も似たような感じだ。適当な機能も色々付けといたから、暇な時間にでも弄っときな」


 「あり、が、とう」


 私がお礼を言うと、彼女は私の顔を悲しそうに眺めてきた。


 「ふん。すまないね」


 お婆さんはそう言うと、工房の奥に行こうとする。それを見て、ルシエドが慌てたように口を開いた。


 「ちょっとちょっと、義手代払ってないよ!」


 お婆さんは足を止めてこちらを振り返る。


 「アーノルドの坊主のせいなんだろう、その手首。刀を整備した人間として、徳を回復させておくれ」


 そう言うと、今度こそ工房の奥に消えていった。







 平時の英雄は、意外とやることがない。いや、沢山あるが、全部地味だ。


 アタシはルシエドに連れ回されながら各地を訪れていた。復興作業をする人に声をかけ、差し入れをした。実際に手伝おうとすると、ルシエドに嗜められた。


 「その時間を使って君が帝国各地を激励したほうが、みんな元気なるよ」


 (アタシが来て、本当にみんなは嬉しいのだろうか…)


 そして、ブレア派の残党に声を掛けて、体制の立て直しに協力してもらった。特にゼルア中将が精力的に働いている。ブレアの遺言を忠実に実行するつもりなのだろう。アラン中将は自害したし、徒党を組んでアタシを暗殺しにくる兵隊も、まだ結構居る。けれど、状況は少しずつ良くなっているはずだ。


 (相変わらず空気は少し重いけれど…)


 一ヶ月半も立てばアタシとブレアが破壊した広場も、兵隊が壊した建物なども、かなり元通りになった。でも、親しい人を亡くした悲しみや、この先どうなるのだろうという先行きの見えない不安は、簡単には拭えない。


 帝政は選挙王制に変えた。アタシの役職は、ユザーミ帝国第一帝国軍少将から、ユザーミ王国初代王に変わった。アタシが嫌いだった血筋も意味があったのかもしれない。無事だった叔父さんにこれまでのお礼を言って、再び皇室の人間になった。


 皇帝の一人娘がクーデターから国を守り、さらにその事実を重く受け止めて体制を変革し、若くして王に即位する。そんなエピソードはかなり大衆ウケが良かったらしく、今のところ、想像以上の歓迎を受けている。


 (実体は全然違うし…ハリボテなんだけどな)


 ルシエドにそれを言うと、英雄とは意外に無自覚なものだと言われた。

 

 (そうなると、自覚的に英雄になろうとしているアタシってダメじゃないか…?)


 ネガティブな考えを、頭を振って消し飛ばす。ルシエドの方を見ると、朝からソワソワしている。


 「ルシエド、アンタどーしたの、オシッコでも行きたいの?」


 そう言うと、ジトっとした目で睨んできた。


 「王様、その言葉遣いは如何なものかと。いや、私めはお昼から、妖精とのデートでしてね」


 そういえば、今日セツに義手を渡すって言ってたな。それで、明日出発か。…セツとも色々あったな。あの子が居なけりゃ洞窟で死んでたかもしれない。ブレアもアタシも死んでれば流石に帝国は危なかった。そして、磔にされた時勇気を出せたのは、あの子のお陰でもある。


  (別れって、寂しいな)


 アーノルドも死んだ。ノアは帝国中探しても行方不明だ。二人とも派閥が違って、関わりは薄かったけど。第一で厳しく指導されて、長い間共に過ごしたブレアも、アタシが殺した。


 ブレアは今、諸悪の根源のような扱いを受けている。今の社会における帝国民の鬱憤、その原因が、全てたった1人の死者に還元されている。共通の憎むべき相手がいるというおかげもあり、帝国民は今の所団結できている。それは分かるけれど。

 

 (ブレアはクソ野郎だけど、これは納得いかない。……でも、アイツはアタシに託したんだ)


 アタシが帝国を良くしないと。政治を腐敗させた身分制を緩くして、法律も考え直さないと。共和国とも仲良くしたり、派閥間の繋がりも円滑にしたり。もっと、もっと働かなくちゃ…


 ベシッ!!


 「痛ッ」


 おでこに衝撃。見ると、ルシエドが眼前で仁王立ちしていた。彼女は、僕の指の方が痛いけどね、と呟くと、


 「まーた、変なこと考えてるよね。マルシェもセツも、強いのに変なとこでナイーブなんだから困るよ」


 「なんでお前が困るんだよ」


 「君たちのことが大好きだからさ。帝国なんて本当はどうでもいいしね」


 「…おい!誰かが聞いてたらどうすんだよ、巫女様。王様の相棒がこんなんだってばれたら」


 「巫女様……ね」


 ルシエドは意味深に笑うと、


 「これから大変だろうけど、頑張ってね、『英雄王』さん」


 「おま…」


 仕返しのように、笑顔で、最近呼ばれるようになった恥ずかしい二つ名を口にする。その笑顔は、どうしても悪戯っ子のようにしか見えなかった。

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