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壊れた世界を今日もゆく!  作者: テキサス
2章『ハリボテ英雄は許されたい』
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怪獣大決戦 

 背中が痛い。


 それでも、私の頭はぐるぐるとつまらないことばかり考える。ララに酒入りジュースを飲まされてからというもの、封印していたナイーブな一面が復活してしまった。


 (天真爛漫、狂気のせっちゃんでやっとりますのに…)


 堂々巡りの思考で、似たような仕事ばかりさせられた脳細胞は、クタクタのボロボロだろう。

 あの子は、鬱病の患者は脳の一部に過剰な負荷が掛かっていると言っていた。多様な刺激でストレスを分散させるのが大事なんだと。


 (…あの子はいつも変な知識を語ってくれた)


 友達が居ない冷笑主義の私の心を、温めてくれた。私よりも明るくて社交的で、機知に富んで博学で。


 私はあの子の顔が好きだったけど、あの子はあの子の顔が嫌いだったらしい。そんなことで、とは言えない。


 自分には自分の価値基準の世界しか見えないし、アイデンティティなんて脆弱なものは、他人と入れ替え可能だろうから。


 誰にも、絶対者の後ろ楯なんてない。


 (あたりまえだ。でも昔の私にはあったんだ)


 私が一番必要としないものが、あの子が一番必要とするもので。あの子が一番必要としないものが、私が一番必要とするもので。


 (合わせて1人になれたらね、なんて言ったら…)


 やっぱり可愛い顔で、困ったように笑っていた。


  (もうもどらない)


 暗い顔をしたあの子が、自分は所詮動物性からは逃れられないと言っていた。なに浸ってんだろうと思って、別にいいじゃんと笑った。…私は本当に調子に乗っていた。


 (ずっと一緒だと思ってた)


 人に合わせられない私だけど、あの子にだけは合わせるべきだった。


 (葬式して、異世界来て、死にそうで、いい加減忘れたいよ。貴方のことなんて)


 後悔は尾を引き続けるが、それでも現実の景色は絶えず流れ去っていく。


 わたしはほんとうはどこにいるんだろう。



 (ああ…)


 近づく死を前に、色々と思い返す。


 (それにしても背中が痛いけれど)


 さっきまで押さえつけられていた身体を、捻ってバキバキと鳴らす。その音と共に、また思考内容が変わっていく。



 ニヒリスト特有の予防線は、私をずっと窮屈な場所に閉じ込めていた。


 みんなが信じているものを信じられなかった。


 顔がアンパンで出来た彼が言うような、愛と正義の感覚は、私にとって、お腹が一杯だとか、誰かが嫌いだとか、日差しが眩しいだとかと、同列だった。感覚にヒエラルキーを設けるのが苦手だった私に、初めて『特別』を感じさせてくれたのがあの子だった。


 「斜に構えてんじゃねーよ」


 (貴方がそれを言うの)


 社会的な感覚が欠落していた私を、あの子はいつも人の輪に放り込んできた。あの子は世渡りが上手かった。いつも輪の中心にいる。なのに、私みたいな欠けた人間にも構ってくれた。


 あの子は私なんかより、物事をよく分かっていた。



 そんな貴方が自殺しちゃったら、この世が生きるに値しないみたいだ。


 (行かないでよ…)


 身勝手な期待。あの子には世界を肯定して欲しかった。それなら自分で納得できなくても、明日に希望を繋げたから。

 

 (本当は絶望してたんだ。嘘つき)


 ハリボテの希望を、昔みたいに自信満々に語り続けて欲しかった。


 私の英雄ヒーローは居なくなった。




 頭上に立つ兵隊の隙間から、ステージを見つめ続ける。そこに、磔から降り立とうとする彼女。見慣れた赤髪が宙を舞った。


 この世に正しさなんてなくて、甘美な嘘に酔わせてくれた人も、もう居なくて。


 それでも生きようとすることを選ぶならば、


 (行け!!!マルシェ!!)


 私達に残されたのは手作りした正しさしかない。







 熱い。胸が熱い。『想い』が燃えていた。


 その反面、頭はクールに算盤を弾き、彼我の戦力差を導き出す。


 噂で聞いたことがある。


 魔導兵の中でも最強のその機体。開発者のノア=ウィズドラが自ら乗り込んで、時の大戦で大暴れしたともいう。そして、彼女が帝国を出た後は皇室に受け継がれ、戦争相手の虐殺に貢献していたが、平和条約以降封印しているという、曰く付きのシロモノ。その名も『王の機体』。


 シンプルなネーミングには、皇帝直轄の研究機関で働きながら、自らの専用機に『王』の名を入れた、彼女の自負と不遜さが滲み出る。


 (まずいな…崩し方が思い付かない)


 黄金の巨人は、右手に青く長い大剣を掲げている。その周囲の空気が小刻みに震えているのが見えた。一拍置いて、


 ブゥゥゥウン!!


 大剣が振り落とされた。

 バックステップで避け、準備していた武装を変形して、その間に挟み込む。多層構造の岩で衝撃を抑えようとした。が、吹き飛ばされてそのまま体が宙に浮く。眼下には破壊し尽くされたステージ。


 (危っ…)


 左手にぶら下がる赤色の、巨大なガトリングガンが持ち上がって、


 (急げ急げ急…!)


 ガシャァァア!!!


 足場を構築しようと魔力操作に注意を向けたアタシを、そのまま殴りつけた。


 (………)


 …一瞬意識が飛んでいた。反射で岩石の盾を造成しなきゃ死んでたかもしれない。


 (これじゃダメだ)


 痛みと危機感でスイッチが入る。

 

 視界がスローモーションに流れ始めた。左半身の骨はメチャクチャになっている。眼鏡が外れて、視界が悪い。さっきよりも上空だ。空中では立ち回りにくい。なにより、


 (このままだと、どうやっても倒せるイメージが湧かない)

 

 集中する。脳が加熱されていく。頭蓋骨の中の電気活動に共鳴して、頭の周りに白い雷の火花が散るのを感じる。


 高速で回転する思考。模索する。アレも、コレもだめだ。…こんなときは、初歩に立ち返ればいい。


 (シンプルに考えろ、アタシ)


 相手が大きすぎる。なら、自分も大きくなればいい。岩のボディで全身を覆え。視界がさらに悪くなる。関係ない、魔力感知の応用だ。広場全体に自分の魔力を広げろ。魔力が足りない。だったら、短期決戦で済ませろ。そんな巨体はコントロールできない。じゃあ、神経を張り巡らせろ。


 (アタシが勝つアタシが勝つアタシが勝つ)


 両手の指は高速で幾つもの魔法陣を描き、口は絶え間なく詠唱を呟く。身体中が痛い。脳が焼け切れそうな程の情報処理を続けていて、吐き気に襲われる。


 (だって、アタシが英雄だ)


 空中で、アタシの身体を岩が覆っていく。イメージするのは2つ。『王の機体』のサイズ感と、『絵本の英雄』の外見。


 瞬時に構築が済む。でも、動けない。何も感じない。


 慌てず次の段階に進む。岩の身体の中で、縒り合わされた細い糸のような形に、硬く岩を成形する。それを全身に張り巡らせていく。破壊と構築を繰り返して、グネグネと岩の体内を泳ぐ、岩の神経。


 同様にして全身も動くように、破壊と構築を高速で繰り返す。処理の多さに頭が壊れそうだ。でも後少し。全身を張り巡らせた外付けの神経に電気を纏わせると、そのまま頭蓋骨に突き刺す。


 (ぐっ…痛ぇな畜生)


 身体の準備は完了した。岩石の巨体が器用にバランスを取り戻し着地すると同時に、魔力感知を広場全体まで広げた。


 (なんだこれ…初めてだ。こんなに視えるの)


 目の前には、まだガトリングガンを振り切った姿勢の黄金の巨人。対するは、それとほぼ同じ大きさの存在。『絵本の英雄』の姿を真似て形作られ、全身を赤い岩で覆われて、雷の渦に巻き付かれた雷岩の巨人。


 (背後の小さな喧騒がよく耳に届く)


 広げた魔力に指向性を持たせ、自分と目の前の『王の機体』だけを囲むようにする。


 (…一瞬でカタを付けよう)


 広場の石畳を破壊しながら足を踏ん張り、前方に加速。右手に持った巨大な片手剣で、黄金の巨体を破壊しようと迫る。


 (オラァァア!!)


 ズッザァァアン!!!!

 

 叩きつけようとした右手の片手剣が、震える青の大剣で、抵抗もなく、根本から断ち切られた。


 (…もう一回!!)


 くるり、と巨体を身軽に回転させた。そのまま裏剣を放つようにして、左手の片手盾を青の大剣の腹に叩きつける。


 ドゴォォォオン!!!!


 大きな音を立てて、その黄金の手から吹き飛ばされた青の大剣が、ひしゃげ、振動を停止しているのを確認する。


 ガガガガガガガッッ!!!


 身体中に衝撃。神経を通している分、痛みもしっかりと感じる。ガトリングガンが撃たれ、岩で出来た全身に穴が空いては再生していく。


 (クソ痛ぇけど、良い眠気覚ましだ)


 それを無視して、右手に大きな片手剣を再び構築すると、コックピットの辺りを思いっきり斬り付けた。


 バゴォォォォオン!!!


 黄金の巨体が後方に吹き飛び、石畳に背を付ける。しかし機体は少し凹んでいるだけだ。再び立ち上がろうとするので、片手剣を投げ、空中で回転させると、逆手に持ち替える。


 (さっきの振動してた青い剣みたいに…)


 片手剣の刀身は槍の穂先のように形を変え、そこに螺旋状の溝が刻み込まれていく。すぐに削岩機のように回転を始め、それは段々と加速していった。


 (行っっけぇ!!!)


 岩の脚がひしゃげるほど全力で踏み込む。石畳に深くめり込み、瞬時に離れた。立ち上がろうとする『王の機体』を、再び地面に縫い止めるようにして、右手の武器を叩き付ける。


 バッッッッギィ!!!!


 剣先がその装甲を突破した。刃こぼれする度に岩でできたそれは再生していく。


 ドッガガガガガ!!!!


 ジワジワと、コックピットに回転する剣先が沈み込むが、ブレアの『王の機体』が抵抗を示すことはない。


 ふと、手を止めた。本当にコレでいいんだろうか。


 すると、眼下の機体がガトリングガンをゆっくりと持ち上げて、避難したセツ達や兵隊達の方へ向けようとする。


 (……!最後まで悪者で居たいってか?何なんだよ。何がしたかったんだお前は!クソジジイ!!)


 逡巡を振り切った。


 (分かったよ…。アタシが英雄になればいいんだろ!!!!)


 ありったけの『想い』を籠めよう。

 半ば程沈み込んだ剣の柄、その底の部分を平べったく延ばす。左手の片手盾をハンマーに成形し、両手で持ち上げる。そして、刺さったままの剣の柄目がけて、全力で振り下ろした。







 轟音。そして衝撃波。


 空気がビリビリと震えるのを肌で感じる。

 伝わってくる。倒したんだ。あんなの、絶対に勝てないと思っていたのに。


 砂煙が晴れ、立っているのは巨大な一つの人影。ゆらゆらとバランスを崩しながらも、決してその膝を付かない。その足元には黄金の残骸。


 その赤の巨人は、右手に持った剣をそのまま宙に掲げた。


 少しの静寂。


 興奮したような歓声と拍手が、まばらに広場の周囲に響く。最後までブレアを止めていた銀髪の女性は、俯いたままで表情が窺えない。固く握られた拳から滴る血だけが、その感情の断片を伝えていた。


 あまりにシンプルな英雄譚に実際遭遇すると、冷やかす気も起こらない。ただ、ただ、圧倒される。


 (…ほんとうに、すごい)


 これから帝国がどうなるのかは分からない。ブレアを失って纏まりを欠いた残党が、どう振る舞うのか。勿論暗い方向に転ぶ可能性もある。


 (でも…)


 まばらな拍手と歓声が少しずつ増えていく中、フラフラになりながらも剣を掲げ続ける巨大な英雄を見ていると、そうは思えなかった。


 (彼女なら、きっと…)


 目を閉じて余韻に浸る。

 残念ながら私は猿轡と手錠をしている。だから少しずつ広場を囲む人々に伝わっていく、興奮の輪に入ることはできない。なんだかしまらない。


 (お疲れ様、マルシェ!!!)


 それでも希望を見せてくれた彼女に、私は心の中で大きな拍手喝采を送った。

 

 



 


 

 


 


 


 


 

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