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壊れた世界を今日もゆく!  作者: テキサス
2章『ハリボテ英雄は許されたい』
16/25

迫り来る閉塞感 

 「だから、じぃ…ばぁちゃんの所に行ったら、ここより安全に暮らせるとは思う」


 G婆ちゃん?


 A婆ちゃんからZ婆ちゃんまで、26人いるうちの1人だろうか。それなら婆ちゃんGの方が良くないか。いや…くだらない事を考えた。

 婆ちゃんと爺ちゃんを言い間違えるなんてロックな奴だ、と思いながらアキラの語った内容を思い返す。



 これまでの人生で何度か、祖母からアキラ宛に、共和国に住むお誘いの手紙が来ていたらしい。はるばる文鳥が届けてくれたんだとか。


 (鳥さん、すごいスタミナ…)


 両親は共和国出身だったが、アキラの祖母から離れたくて帝国にきたらしい。結局、まともな職にありつけなくなってスラムで犯罪に手を染める訳だが。


 とにかく両親はその手紙をビリビリにして処分してたんだとか。けれども彼はそれをこっそり復元して読んでいた。


 両親がアキラを捨てて、行方知れずになってから、彼は病を治したら共和国に行こうと思っていたらしい。



 「もうちょっと帝国に居たかったでござるが…」


 語り終えたアキラの周りには、しんみりとした雰囲気のみんなが座っている。


 「しょうがないわよ!」


 ララがルルを抱きながら、ホタルを励ます。


 この3人は帝国に愛着があるらしい。アキラが共和国に行くつもりだったという話への反応も、あまり良いものではなかった。 


 (私は色んな国を巡って、施設のみんなを見つけて、甘えまくりたいな…)


 タイショウくん達にはその義務があるだろう。そう思いながら、重々しい顔つきで口を開いたアキラを見る。


 「…とりあえず、もう限界だろ。ちょっと作戦会議したら、帝国の外まで突っ走ろうぜ」


 このまま餓死するか、危なくても動き出すかだ…と呟くアキラの、硬く握られた拳が印象に残った。







 「おのれ!!ちょこまかと!」


 「うる、さい」


 殺戮ロボットにスピーカー装着したクソ野郎、出てこい。耳鳴りに顔を顰めながら石畳を走る。


 (集中できない。今日は調子悪いのかな)


 目の前で吠えるロボット兵が放つ斬撃を、身を低くして避けた。そのまま懐に潜り込む。装甲の境目に聖剣を通す。溶かすようにそれが沈んでいき、素早く引くと、搭乗していた兵士があらわになった。


 「なにっ!!」


 驚いた彼の顔にスッと赤い線が通って、顔の上半分がズレていく。


 (ふぅ、私の分はこれで最後かな)


 人殺しにも慣れた。もう普通には戻れないかもしれない。それは元からか。…イキりみたいで嫌だな。


 倒れていく機体を眺めながら、どうしてこんなことになったのだろうと思う。

 本当に後悔しかない。ああ、油断した。




 私たちがセーフハウスで考えたのは、徒歩で帝都を出て、どこかで拾った馬で共和国に脱出するという作戦だった。

 ざっくりとした計画ながら、ホタルの忍術、私の武力、アキラの機転などを精一杯使い、無事に帝都を出ることができた。


 (本当に大変だったけど)


 帝国郊外に出てすぐ、兵隊がまばらなのを感じた。一般住民はどこかに連行されつつあるらしい。なので、人気のある場所も少ない。


 帝都を出てから兵隊の馬を盗めるタイミングは何度かあった。でも、それは中止して、色んな店や住宅を探った。みんなお腹が空いていたし、帝都脱出で気力を使い果たしていたのだ。


 (あの時急いでいればな…)


 帝国郊外で夜を2回ほど過ごして、辺りの空気は一変した。

 兵隊の話を盗み聞きするに、各地を制圧した兵隊達が一部、帝都に向かって集まっているらしい。慌てて馬を盗み共和国へ向かおうとした私達。でもやっぱり、慌てたせいでバレてしまった。


 視界を埋め尽くすくらい大量の兵隊に、追いかけられることになった。中にチラホラといるロボット兵は、そこを飛び出して襲い掛かってくるし、悪夢でしかなかった。


 (ほんと、慌てても得なんかないよね)


 しかたなく反転して帝都へと逃げる私達。けれども状況は厳しくなる一方。できるかぎり私は殺さずに無力化しようと思っていたが、そんなふうにこだわれる段階ではなかった。


 まずは歩兵を1人殺した。

 応援を呼ばれそうになったからだ。サクッと聖剣で首を飛ばす。簡単に彼女の世界は終わった。


 (あんまり葛藤とか無かったな)


 あまりにあっさりだった。彼女の人生の意味は何だったんだろう。これまでの過ごし方?最期の瞬間、力量の差に気付いた時の、あの覚悟を決めた目つき?


 恐らく違うのだろう。人間は本来無意味なものに意味を求めてしまう悲しい生き物だと、あの子は言っていた。そういう前提において、自然体で存在してるだけなはずの世界を、残酷だと形容できるのだとか。


 (あの子の言うことはよく分からないよ)


 1人殺してからは、どんどん殺した。感傷に浸る暇なんて無かった。殺さなきゃ殺されるんだもん。自分にも動物的なエゴがあったことに少し驚いた。


 (欠けた人間、じゃないでしょ…)


 「セツ殿!!」


 ホタルに声を掛けられて、意識が憂き世に戻ってくる。


 周囲にはロボットの残骸。

 自分の分のノルマを達成したと思い、少しボーッとしていた。他のみんなも終わらせたらしい。


 (でも…)


 ギュイイイィィイン


 通りの先から機械の駆動音が聞こえる。私達が帝都から再度脱出する為に進もうとしていた方向だ。嫌になる。こんなパターンの繰り返しだ。


 他に選択肢もない。私達は帝都の中央に向けて走り出す。


 「すみません!マツリはもうあんまり魔法が使えないです!魔力量が少ししか残ってないです!」


 「……マジかよ」


 宙を泳ぐマツリが申し訳なさそうに叫んだ。絶望した表情で、それでも足を動かし続けながら返したのはアキラ。その両肩にララとルルを担いでいる。


 「実を言うと拙者も…チャクラ切れにござる。影潜りの術も、後1回ほどが限界でござる」


 ホタルが小さな声で、言いにくそうに呟いた。

 喧騒の中、それでもその声はみんなの耳に届いたようで、


 「…ホタルはよく頑張ったわ!ねぇルル!」


 「うん…」


 ララとルルは青ざめた顔色でホタルを励まし、アキラは思い詰めたような表情をしている。


 「…セツさんは!セツさんはどうなの」


 「まだ、まだ、へ、いき」


 ララに聞かれたので、そう答える。


 「きっ、と、たす、か」



 る。と続けようとして、後ろから迫る音に追いつかれた。振り返る。10、いや15体程のロボット兵。


 (…良かった。全部雑魚ロボだ)


 じゃがいもに手足が生えたような外見。全身が真っ黒に染まっている。銃を持っているタイプと剣を持っているタイプがあるが、それほど強くない。


 (色違いだったらヤバかった)


 私達が初めに遭遇した赤いロボット、そしてその応援で来た同じ外見のロボットは、どうやらリーダー格だったらしい。機体性能と操作技術も段違いだった。


 今回は幸運にも色違いは混ざってないようで、


 「縛れ!アクアレストレイント!」


 魔力不足か、マツリが簡易的な詠唱をすると、三体のロボット兵が水のうねりに呑みこまれる。

 宙でもがく彼らを、


 「えーっと、貫け!ホーリーランス!」


 マツリの周囲に浮き上がった無数の光る槍が、突き刺していく。


 ロボット兵達から煙が上がり、武器を落とした。

 上手く機能停止したらしい。拘束を解かれ、そのまま落下する三体に意識を集中する。途端、景色がスローモーションで流れ出した。やっと調子が上がってきたみたい。


 (マツリの手は汚させたくない)


 少し離れて装甲を見つめると、切りやすそうな線が、その表面に浮かび上がって見える。回転する3つの線が1つにまとまる瞬間、聖剣に『想い』を籠める。そのまま空中を切り裂いて、


 キィィイン


 高音。次いでガシャンという落下音。3つのロボットのコックピットは両断されていた。隙間からはみ出る血と臓物。


 (満点かな)


 度重なる戦闘の中で、私は巨人やホタルと戦った時のような『デジャブ』を得ようとした。


 色んなパターンの試行錯誤をし、意識を集中させて、それでも結果的にあの感覚を再現することは出来なかった。


 (けれど…)


 収穫は2つある。


 1つは調子が良い時に物事の筋が見えるようになった。恐ろしい不正解を回避させにくるような、不自然で無理矢理なデジャブとは違う。自然で最も美しい筋が浮かび上がるのだ。今の剣筋のように。


 そしてもう一つ。

 強い想いを込める事で斬撃を飛ばせるようになった。


 これが魔法というやつか、と思いマツリに聞いてみたが、違うらしい。それじゃあ魔力による強化か、と聞いても違うらしい。

 確かに魔力を込める事で武器や身体は強化されるが、あくまで、そのものの在り方の延長線上なんだとか。


 不思議に思う私とマツリに、ホタルが教えてくれた。


 一部の強い『想念』を持つものは、物事の在り方に干渉できるらしい。そんなに私って感情的だったかな、と思ったが、とりあえずそれを、この現象についての説明として採用した。


 ロボット兵の間を駆け抜け、すれ違い様に斬り付けていく。


 ホタルは未だ一体しか倒していない。

 本当に相性が悪そうだ。倒された機体は、一箇所だけが完全に破壊されていた。


 (装甲を一点突破したのか、影潜りも使わず)


 相変わらず凄い技術だ。私の斜め後ろから、搭乗者が斬られたロボット兵が、こちらに倒れ込む。それを一歩移動して避けながら、


 (あっちは…)

 

 アキラの方に視線を遣った。


 彼は2人の子供を肩から下ろし、背中に庇うようにして戦っている。服はところどころ破れ、こめかみからは出血。かなり消耗した様子だ。

 しかし、傍らにはデコボコになった機体がいくつか転がっている。


 「オラァ!!」


 バゴォォォォオン!!!


 派手な音を立てて、殴られたロボットが弾き飛ばされる。

 

 どうなってんだそのギフト。計ったけど、体重もそんな無かったぞ。筋肉は凄かったけど。気になってお風呂覗いたのは怒られた。


 (病み上がりに突き飛ばされた時も、暫くお腹の青あざ消えなかったしな…)


 特殊な力場が彼だけに働いてるとしか思えない。筋肉というレベルじゃない、概念的な能力かもしれない。そう考えながら周囲を見渡す。全部片付けられたみたいだ。


 「ふぅ…」


 私が息を吐くと同時に、耳慣れた移動音。


 「マジかよ!ふざけんな!」


 アキラが罵声をあげた。

 ほんと、ふざけんなだよな。今までで最大級の危機かもしれない。列車が通過する音みたいだ。数多くのロボット兵が集まっているのを感じる。


 「みんな!逃げるでござる!」


 「逃げましょうみなさん!!」


 ホタルとマツリがそう急かす中、私は大通りに所狭しと並んで進むロボット兵、それを先導する巨大な白銀の機体に目を奪われていた。


 (でかいな、10メートルはあるぞ)


 沢山のロボット兵はそれ以上進まず、白銀の機体だけがこちらに近づいてきた。その側面にぶら下がったものが持ち上がって、


 (樽みたい。穴がたくさん空いて…)


 「ガトリングガンだ!伏せろ!」


 アキラの号令と共に伏せる。

 みんなの方を見ると、アキラはルルとララを抱いてロボット兵の残骸を盾にしている。


 マツリとホタルは目立ってしまったのか、射線の中心だ。マツリは光の盾で、ホタルはクナイ捌きで防いでいるが、どちらも辛そうな表情だ。弾が掠った部分から、血が噴き出していく。


 しばらく耐え続けて、静寂。

 

 「早く!逃げるぞ!」


 真っ先に駆け出したアキラに、みんなが続く。


 実弾か、魔力弾か。相手は恐らく装填中だ。白銀のロボット兵がしゃがみ込み、地面に垂れ下がったガトリングガンの周りに、多くの歩兵が集まってきた。


 それを追い抜くように、沢山の黒いロボット兵がこちらに向かってきて、


 (…これってもう詰みじゃないか)


 私は思わず笑ってしまった。







 頑張ったと思う。限界まで。

 背後から迫るロボット兵を避けたり、転ばせたり、破壊したり。ガトリングガンの雨霰を凌ぎ切ったり。私達は死に物狂いで逃げ続けた。


 「…どうしましょう。セツさん」


 (あは、馬鹿みたい)


 逃げて逃げて辿り着いたのは大きな広場。


 「クソ!触んなって!」

 

 中央にある大きなステージの上には十字架が立ち、マルシェが意識を失って磔にされていた。


 「やめるでござる!恥を知らないでござるか!」

 

 その近くに立ったブレアがこちらを見ている。傍らにはルシエド。後ろ手には黒い手錠がかけられていた。  


 「助けて!姉さん!」


 「ルルー!!」


 立ち止まった私の背中を、追いついた誰かが蹴飛ばす。そのまま地面に倒れ込んだ。全身を押さえつけられる感触。集まってくる兵隊が視界を埋め尽くす前に見えたのは、


 (最期ってこういう感じなのね。割と落ち着いてる)


 隙間なく広場を囲む大量の兵隊と、十字架の背後に聳え立つ、30メートルはありそうな黄金のロボット兵。


 (昔見た東大寺の大仏より全然デカいじゃん、おもしろ)


 私は冷たい石畳にぺたりと頬を付けた。



 


 

 

 


 


 


 


 



 

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