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壊れた世界を今日もゆく!  作者: テキサス
2章『ハリボテ英雄は許されたい』
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ラブコメの波動

 簾を上げて外に出ると、路地中で争う声や何かがぶつかる音が聞こえた。


 「おいやめろ!俺のテントを踏むんじゃねぇ!」


 「あんた達一体何なの!?」


 「ちょ、ちょっとね、皆さん穏やかに。痛ッ」


 主にスラム民の怒号や悲鳴が聞こえる。耳を澄ますと、それに混じって、冷たい口調の話し声。


 「先輩。これいちいち思想を審査するの面倒じゃないすか?みんな反乱分子の恐れありでいいでしょ」


 「…んーん。そうだよな。死人に口なしって言うし。いっちょ駆除するか」


 物騒な会話が聞こえ、続いて銃声。自動小銃によるものだろうか。暫くパララララという無機質な音が、悲鳴に混じって聞こえた。


 (耳、痛すぎ。鼓膜破れたかな)


 遠くの話し声に聴覚を集中していたせいか、突然の銃声で耳がキーンとなってしまった。


 (さて、この状況。どうしようかな)


 後ろを振り返る。戦闘体勢を整えたホタルと、緊張した顔のアキラが2人の子供を庇うようにして立っていた。


 「どう、する?」


 別れるか、一緒に行動するか。後者なら手始めに何をしようか。思考を巡らせながら、問いかけてみる。


 「あー。暫く一緒に動かねーか?兄貴から聞いてるかもしれねーけど、俺ギフト持ちなんだよ」


 「かい、りき?」


 「…そーそー。だからいざって時は守ってやる。さっきのお礼だ」

 

 アキラの足元は震えている。適当にからかって力を抜いてあげよう。


 「ちゅー、の?」


 「違ぇよ!代わりに戦ってやるっつってんだ。俺の『怪力』はすげぇぞ」


 まだ足元が少し震えている。指摘した方がいいのだろうか。ちょっと面白い。


 「だから、さっき突き飛ばしたのとか危なかったんだから!」


 「アキラ殿。セツ殿は相当つわものですぞ」


 ララとホタルが合いの手を入れた。ルルはララの服の裾を掴んで俯いている。

 断続的に響いていた銃声がやみ、二人分の足音がこちらへと近づく。ヒィッと息を呑む音が後ろから聞こえた。一歩前に踏み出そうとして、


 「セツ殿、御三方の子守りを任せてもよろしいか」


 ホタルが言う。 

 俺はガキじゃねぇ…と呟くアキラの声を無視して、


 「わかっ、た。いって、ら」


 見送る事にした。

 ホタルは少し歩いて建物の影に踏み込むと、


 (なるほど、さっきのは)


 ズブズブとその中に沈んでいった。

 3秒ほど経って、ドサリという音が2つ重なって、足音も止む。もう倒したのか。そして、


 「…ふぅ。さて、これからどうしますかな。拙者にも当てはございませんぞ」


  「ぅえ!」


 背後から声をかけられた。もっと心臓に優しく現れてくれ。


 「もう!ビックリさせちゃダメでしょ!」


 ララが怒る。その通り。

 

 (それにしても当て、ねぇ)


 怒られてシュンとなるホタルを見つめながら考える。帝国での生活歴は短い。思い当たるものといえば、


 「あ…」


 聖剣をもらった時に目に入った、トリグラオ地下一階の、ホテルのような施設を思い出す。


 (あそこなら5人くらい平気か。何が起きてるか分かんないけど、安全面でも大丈夫そうだし)

 

 別れたばかりで気まずいが、背に腹は変えられない。あそこにみんなを連れて行こう。







 「で、5人組でここまでいらしたと。…もー、僕が偶々いて良かったけどさ。今大変なんだよ。教会的に大事なものが奪われて非常事態だし。正直、今からセレモニーに乱入してブレアを問い詰めたいくらいだよ」


 ホテルのラウンジで果物のジュースを飲みながら、ルシエドと向き合う。マツリ、謝っといて。


 「セツさんも謝ってますし、許してもらえませんか?」


 私の首元に戻ってきたマツリがそう言う。


 ここは実際、昔客人を歓待するために使われていた施設らしい。地下の機密保持の観点から閉鎖されたが、今でもコンディションは保たれているのだとか。ラッキーだった。


 「頼ってもらえるのは嬉しいけどさ、あんな別れ方をした手前、情緒がないというか何というか」


 「うん」


 「……まぁ。僕ができる事なら何でもするよ。何かあったらあの人に伝えて」


 ルシエドが指差した方向を向くと、彼女とは違った、黒の神官服を着た男性が、頭を下げた。


 「…とりあえず、ちょっと席を外すね」


 ルシエドは早足でエレベーターに乗ると、その扉が閉まる。


 (みんなのとこ戻るか…)


 部屋は沢山あったが、どれも広かった。全員が貧乏性だったせいか、一つの部屋に5人で泊まる事になった。

 正直私は広い方が好きだが、みんなで寝るのって楽しそうだ。


 でも、部屋に案内されてすぐ、ルシエドに話があると言われて呼び出された。だからまだ私は遊べていない。


 (一杯あそびましょうねー、セツさん)


 通路を歩き、記憶にある扉を探す。マツリがいるから、結構話せるぞ。状況的に一蓮托生っぽいし、今更隠さなくてもいいだろう。


 (うん、たのしみ)







 布団を被って、さっきまでのことを思い返す。

 

 (めちゃめちゃ楽しかった…)


 まずは色んな話をした。蛇が私の通訳をするという事には驚いていたが、みんなすぐに慣れた。

 聖蛇様などとは言われなかったので、あの洞窟の昔は、身分や教養がある人しか知らないのかもしれない。



 ララとルルは実の姉弟らしい。

 親に捨てられた彼女たちを、同じく親に捨てられたアキラが誘って、共に暮らすようになったとか。3人とも黒髪なので、全員血が繋がっていると思っていた。


 (顔も割と似てるんだよな…)


 アキラが病に伏せるようになって、ハデルは登り詰めるとだけ言い残し、家を出た。緩衝役が居なくなったせいか、それから両親とアキラの仲はすぐに悪化したらしい。人間的にかなりゲスいことも出来てしまう2人と、潔癖なアキラは相性が悪かった。


 (そう思えばハデルはその中間って感じだったよな)


  小屋で一人になったアキラは、誰かと共に住もうと思って、痺れる体を動かし、ララとルルを見つけたらしい。ハデルは家を出て冒険者になってから、一度も帰っていないので、見捨てられたと思っていたとか。


 (不器用なやつだよ)


 アキラに、ハデルが彼を愛していた事を伝えようか迷ったが。やめておいた。領域での死に際にちょっとした世話を頼まれた、という嘘を付いた。アキラは複雑そうな顔をしていた。


 (…アキラ、か)

 「ん…」


 寝返りを打つ。


 「むぎゅう」


 枕にしていたマツリに肘を入れてしまった。その場所を撫でて、寝ぼけた頭で回想を続ける。


 次はホタルの話を聞いたんだった。

 ホタルはやっぱり忍者だった。


 (異世界にも居たんだよね…)


 抜け忍となった姉を殺す為に、里から追手として派遣されたらしい。


 (ドロドロの話だなぁ)

 

 結局、里の外の解放感に心を奪われたホタルは、姉を追う事をやめ、諸国を放浪してたんだとか。

 帝国に到着して、冒険者ギルドの存在を知らなかったせいか、職にありつけなかった彼は、スラムで行き倒れていたらしい。


 (世知辛いよなぁ)


 そんな彼が、もうダメか…と思っていたところで、倒れているのを見かけたララとルルが、大量のお菓子を恵んでくれた。

 そのお菓子は、彼女達がチャリティーイベントで食べ飽きるほど貰った物の、余りだったらしいけど。


 (ホタルは、それでも、その瞬間の感動そのものが大事だと言ってたから、結果オーライか)


 そして、回復してスラムで力仕事を始めた彼に、冒険者ギルドの存在を教えたのはアキラらしい。


 そんな3人に恩を返すと決めたホタルは、これからもギルドで稼ぎつつ、用心棒として無償で働くつもりだと言った。


 (みんな、「家族だろう」と言って怒ってたけど)


 私の話も話せる範囲で色々とした。スラム民と言う嘘はバレそうだったので、他国から出稼ぎにきた親に捨てられたばかりだと伝えた。

 部分部分を濁しながら、これまでの旅のことを話すと、みんな慰めてくれたし、誉めてくれた。


 (でもアレは失敗だったかな…)


 調子に乗った私はギフトを使って、赤黒いジェンガを作成した。

 とても引かれたし、ララは泣き出してしまった。けれど結局、5人と1匹で楽しむことができたが。


 (あれも、これも、結果オーライ。人生綱渡りだなぁ)


 ウトウトとしてきた、忍び寄る睡魔に身を任せようとして、


 ドンドンドン!!!


 激しいノックの音がした。







 下水道の中を走る。 


 ノックがしてすぐ、血相を変えたルシエドや教会の人達は、私達を連れて駆け回った。隠し扉を開け、狭い通路を抜け、レンガを引き抜き、岩に空いた穴をくぐり抜けて。


 気づけば巨大な地下水路に出ていた。入り組んだその中をさらに先導される。


 臭い。トイレと工場の嫌な匂いを混ぜた感じ。

岩造りのトンネル状の通路。所々に緑色の苔のようなものがこびりついている。中央には、どぶ川のような酷い見た目の水が流れていた。


 「…それで、いったいどうしたんですか?」


 めまぐるしい展開に言葉を失っていた面々の中、マツリがルシエドに尋ねた。


 「どうやって説明すればいいんだろうな…」


 ルシエドは歩きながら、悩ましげに通路の天井を見つめる。

 

 「さん、ぎょう、で、まと、めて」


 ルシエドは溜息を吐いた。両手をヒラヒラさせながら私の顔を見つめると、


 「ブレアがクーデターを起こした。しかもそれは、かなり成功する可能性が高い。成功したら教会もスラムの民も、恐らく君やマルシェもお終い」


 「なる、ほど…」


 (さっぱりわからん)


 「おい!それってどういうことだよ。…もうちょっと詳しく説明してくれ」


 アキラが怒ったように問いかける。

 教会の人達がそれに反応するのを手で制して、ルシエドは答えた。


 「君は、イベントで会ったことがあったね」


 170センチはありそうなルシエドが、160センチはなさそうなアキラを、見下して言った。


 「…だから何だよ。質問に答えてくれよ」


 「いや、何でもないよ。久しぶりってだけ。そうだね、まずは今日のセレモニーで起きたことから振り返ろうか。僕も全貌を報告してもらえたわけじゃないんだけど…」


 ルシエドが言葉を止める。

 私達の背後。遠くの方からかすかな反響音。機械の駆動音のようなものが段々と近づいてくる。


 「ハァ。流石第一か。説明の時間は無さそうだ」


 ルシエドはお付きの人から金色の棒を受け取った。赤い幾何学模様が走っている。


 (ブレアのと似てる…?)


 そして私の方を向くと、口を開く。

 意外と焦ってはいない様子だ。


 「ここは僕達が食い止めるから、早く逃げて」


 そう言って、通路を進むように、背中をポンと押してくる。


 「…え」


 「早く!!僕だって半信半疑なんだ、行ってくれ」


 彼女が何を言ってるのかイマイチ分からない。でも少しずつ焦ってきた様子なので、とりあえず逃げ出す事にする。


 私はマツリを首に巻いたまま、プチパニックの5人を促して、通路の奥へ駆け出した。

 


 


 


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