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壊れた世界を今日もゆく!  作者: テキサス
2章『ハリボテ英雄は許されたい』
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サイコパス

 頭がズキズキと痛む。


 目を覚ますと、拘束具を付けられた右手一本で、天井から吊り下げられていた。

 どうりで痺れてる訳だ。三方が石造りの小部屋。目の前には黒い鉄格子がある。


 右手に力を込めると、すぐ金具が外れそうな感触がした。

 とりあえずこのままにしておこう。黒い鉄格子は何やら硬そうな雰囲気がするし、白い石壁には見えにくいが、金色の魔法陣が描かれていた。

 

 (下手なことはしない方がいいな…)


 ふむ。とフリーだった左手首で顎を撫でる。


 丸眼鏡くんを殺した奴に囚われたのか、全くの第三者に捕まえられたのか。そもそも襲ってきた人間が、私をここに拘束した人間と同じだとも限らない。


 (今は待ちだな…)


 できることをしよう。

 呼吸を緩やかにして、精神を落ち着ける。ギリギリ届く爪先を地面に立てて、右腕への負担を軽減させようとした。







 「さむ…」


 あまり時間は経っていないだろう。けれど、コンディション不良のせいか、とても時間の経過が遅く感じた。左手の切断面は相変わらずムズムズしている。

 

 体が冷えて、くしゃみが出そうだ。


 「クチュンッ」

  カーーンッ


 くしゃみと同時に金属がぶつかった音がした。

 見ると、鉄格子の下辺りに赤黒い刃が落ちている。


 (なにこれ……え、痛いっ)


 左手首に痛みを感じた。

 そこには定規が収納できそうな穴が空いている。血が少し溢れてきた。


 (なんでなんでなんで)


 血はすぐに止まり、目の前で傷口が塞がって行く。なんだこれ。いよいよ人外染みてきたな。ほんとうに、意味が分からない。


 とりあえず、落ちている刃を足で回収しようとする。が、ギリギリ届かない。これ以上やると右手の拘束が外れる。

 仕方なく断念して、爪先でほどよく壁際に蹴り飛ばす。ちょうど良く目立たなくなった。


 混乱していると、コツコツと革靴の音が近づいてきた。


 鉄格子の向こうは通路になっていて、私からは壁しか見えない。視界の端から登場したのは茶色の軍服に金色の髭、しゃがれジジイことブレアだった。


 (まじか……)


 食料保管庫の時に気付かれていた?

 わからない。それなら一旦見逃したのは何故か。格闘の相手はコイツなのか。


 考えが纏まる前に、ブレアが鍵を開け、鉄格子をスライドして中に入ってくる。

 何故か、自分が入った後に内側から鍵をかけた。  


 「前置きはいい。貴様、どこの手の者だ」


 ブレアは冷たい眼光で私を見据えている。黙っていると、カツカツとこちらに歩み寄ってきて、


 バゴォオ!!


 思いっきり横っ面をぶん殴られた。

 一瞬あたまが真っ白になって、すぐに吐き気に襲われる。間違いない。コイツがさっきの相手だ。

 

 「意識を失わせずに、苦しさだけ与える殴り方なら心得ている」


 ブレアは私のほっぺたを片手で掴むと、ギリギリと力を籠める。痛い。血の味がする。


 「歯の抜き方も。爪の剥ぎ方も。効率的に相手を痛めつける方法ならいくらでも知っている」


 ブレアは私の顔から手を離すと、腰に付けていたポーチを開く。中には様々な色の液体や注射器が複数並んでいた。


 「自白剤も麻酔もクスリも何でもある」


 ポーチを閉じると、再び私の顔を見つめてきた。


 「早めに吐いたほうが良いと思うが?」


 ブレア目線で考える。私は何か怪しいことをしただろうか。


 私とマツリのおかげで領域は破壊できた。この栄光を受け取ったブレアの政治的基盤はますます盤石になる筈だ。

 思考が読めない。出自不明のスラム民の割に、身体能力が高すぎたからだろうか。ハデルの弟は怪力のギフト持ちだと聞いた。


 (なんでだ。なんでだ)


 高速で頭を回すが、ブレアがここまでする理由がわからない。彼はどこから取り出したのか、ゴム手袋のようなものを装着しようとしている。

  

 (ああ、もう!)


 右手に力を込めると、拘束を壊し、そのまま俯いたブレアの顎辺りに振り下ろす。ちょうど届きそうだ。


 吊るされていて力を込められなかったが、十分な威力のある拳は理想的な軌道を描く。

 そして、俯いたままのブレアに、ひらりと避けられる。腹に衝撃。蹴り飛ばされたか。覚悟していた背中の衝撃と同時に動き出そうとして、動けない。

 見れば、壁から生えた金属の蛇のようなものが、全身を拘束している。


 「本当に愚かだ」


 ブレアはゆっくりと近づいてきた。


 「例えば間諜を発見した場合。逃がさん自信があるなら、監視の中で泳がせておくのは定石だ」


 目の前で立ち止まると、また口を開く。


 「果物の中に隠れたって魔力感知には引っかかる。密談前にチェックをしないとでも思ったか?」


 お陰で手間が省けたが…と呟きながらブレアは続ける。


 「中途半端に拘束したことで、お前の考える攻撃パターンには制限がかかった。お前みたいな得体の知れない奴は、完全拘束で放置した方が余程怖い」


 ブレアは私の目線までしゃがみ、顔の位置を下げる。そして、落ち着いた低い声で言う。

  あまりしゃがれていない。威厳のある口調が、硬質なものへと変わっていた。


 「途中までの演技は良かった。だが減点要素が多いな。棄てられた割には容姿が良すぎる。我が子を特級の災害領域に棄てるようなイカれた親なら、擦り切れるまでは体を売らせる」


 立ち上がると、彼はポーチを開いて、


 「そして、無理やり連れて来られたとは言うが、身体能力も異常だ」


 ブレアはポーチから取り出した注射器を弄りながら、まだ話し続ける。


 「ただ、怪しい割にはポジションが見えなかった。他国の者ならば領域破壊は見過ごさないだろう。帝国軍の別派閥にしても、肉を切らせて骨を断つには痛すぎる人材を失った。そして、ノアを逃したのはミスリードだろう。俺が捜索を言い出した後、貴様はチラリと上の穴を見たな」


 フゥ、とブレアは息を吐いた。


 「まぁ、どこの手の者か。そんなことはとうに結論が付いているんだが」

 

 そんなはずは無い。


 だって、私はこの世界に来てまだ日が浅い異世界人だ。組織に属する時間なんてなかった。


 「マルシェとはすぐに仲良くなれたようだな」


 何が言いたい。


 「まあ。アイツの性格からしてあり得ない話ではないが、違和感を感じていた。調べてみたが、魅了魔法の痕跡は無かったな」


 ブレアは私の髪を掴むと、無理やり顔を上げさせる。

 

 「その年齢で、経験不足の割には優秀だったよ。いい線行っていた。巫女様と会うまではな。貴様ら、初対面から仲が良すぎるんだ。しかも、巫女様は気さくなタイプでは無い」


 どこかで覗かれていたのか?


 …私も疑問だったけど、それはルシエドが友達を欲しがりすぎた故の暴走で。


 「マルシェと巫女様が独自に繋がっているのは知っている。貴様、巫女派の反乱分子の1人だろう」


 違うし、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。ルシエドが友達作りに意欲的すぎたせいで、私の命がヤバい。


 「目的と内情を全部吐いてもらおうか」


 そういうと、注射器を私の首に刺した。


 青色の液体。首筋に何かが注ぎ込まれる感覚がする。すぐに重めの車酔いのような感覚に襲われ、嘔吐した。脳がスースーする。

 理性的なリミッターをかける部位が麻痺したような感覚。


 (なんか…フワフワする)


 「目的は?」


 (地球に帰りたい。たまの旅行なら異世界もいいけど、やっぱり日常が恋しい)


 「家、に、かえ、る」


 「弱味でも握られてるのか。あの澄ました腹黒巫女め。……知っている巫女派の反乱分子の秘密を吐け」


 (秘密?秘密って何だろう。マルシェは実はお嬢様で、寂しがり屋で、今は友達がいっぱいいるとかかな。ルシエドはあんまり知らないや。でも、ルシエドも、神輿に祀り上げられて、友達が居ないのが辛そうだったな)

 

 「…あ。まる…しぇ、ほん、とは、立派。なか、ま、沢、山。るし、えども、おな、じ。でも、せいじ、い、や」


 急に掴まれた髪を下に引っ張られる。

 しばらくの間、2人分の呼吸音だけが聞こえた。

 やっぱりか。と呟く声の後に、長いため息が聞こえて、


 「………そうか。最後に聞く。『鍵』の在処はどこだ」


 鍵?さっき使ってたけど。ニュアンス的に違うか。なにか立ち入っては行けない所に、どんどん足を突っ込んでる気がする。


 「……しら、ない」


 ブレアの表情が怒りで歪む。


 「そんなはずあるかッ!吐け!」


 ボグッ!!


 殴りつけられてグラグラした頭で、こういう奴なんだと、ようやく気づく。  


 ブレアの顔をこっそり窺うと、無表情に戻っていた。これまでの感情的な振る舞いは、場をコントロールしたり、腹芸ができないアピールをする為だったのだろう。


 つまり、状況は絶望的だ。ブレアの立場から見て、私を見逃す理由はない。

 グレーは黒だ。冤罪であっても、大義のためとして気にしないタイプだろう。


 自分の幼い容姿を使って情に訴えかけても、ダメだろう。手詰まりだ。ノアの、『エゴ押し付け親父』という表現は的確だった。


 「ハァ。貧相な体は趣味じゃ無いが、仕方がない」


 カチャカチャと音がする。見ると、ブレアが軍服のベルトを外し、ズボンを下ろそうとしていた。


 「ひとつ追加しておこう。俺は女の痛めつけ方もよく知っている」


 (さいあく)


 喉が恐怖でヒクついて、声が出ない。冗談だろ。私を固定していた金属の蛇が、手足に巻き付いたまま、体をもっと開こうと引っ張ってくる。


 「吐いた方が楽だぞ」

 

 ブレアは私の服、ルシエドに貰った高そうなパジャマに手をかける。


 ビリリッ


 襟元に少し裂け目ができて、手の動きが止まった。


 「…フゥー。本当に知らないようだな。……流石の巫女様と言えど、お気に入りの下っ端に教えないくらいには、公私を弁えているというわけか」


 パジャマを掴んでいた手を離すと、私を拘束していた魔法が解除される。

 そのまま鉄格子まで歩くと、ブレアは鍵を開けた。


 「もう行っていいぞ」


 「……え?」


 「情報も抜き出した。武力の程度も知れた。この出来事を話しても、組織からの信用を失うだけだ」


 ブレアは鉄格子をスライドして、道を開ける。


 「精々、巫女様に感謝することだ。子飼いを無断で処分すると、あの方は相当面倒になる」


 (……助かった?)


 拍子抜けしつつ、急いでふらつく足を動かすと、独房を出た。気が変わったら困る。


 注射の影響か、ブレアの真意を考える余裕もない。ここがどこかは分からないが、取り敢えずアイツから離れよう。


 ある程度通路を進むと、後ろを窺ってみる。ブレアはまだ鉄格子の前に居た。

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