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第二話 家族のこと



「……ふむふむ、今はこういうのが流行っていると」


 確かに呼び起こされた前世の記憶。

 ただ何となく配信者だったような気がするだけで、どんな人生を送っていたかとか詳細な部分はいまいち思い出せなかった。


 配信者街道を突き進むにもまずは敵を知らねばなるまい。

 テーブルランプの灯りの元、私は黒い箱を操作して某動画サイトを見回っているところだった。


 さっき海辺で拾ったそれを弄っているうちに分かったことがあった。

 まずは片手で持てるこの小さな機械がカメラやマイク、エンコーダーといった生配信に必要な機材が一通り揃ったものであること。

 ついでに電力が無尽蔵に供給されていて、かつ地球のインターネットと繋がっていた。

 つまりこれ一つあれば、簡単に地球に向けて生配信ができるというわけだ。

 

 ……ご都合主義、万歳!!!


 と、まあ冗談はともかく、得てして流具(地球から流れてきた物品のこと)はそういうものなのだ。一度も電球を変えたことがないこのランプ然り、例え色々な設備が足りていなくともその本来の役割を全うできる性質を持っている。


「VTuber、ですか」


 目に留まったのは、仮想のアバターを使って配信するVTuberという存在。今や何千というVTuberがいて、中にはドラゴン娘なんてプロフィールを携える人もいるらしい。


 うん、これならごり押せば異世界云々もそういうものだ(・・・・・・・)と受け入れてくれるかな。

 現状の私の強みーー本当に異世界人っていう特性を生かせるはずだ。


 ……元が日本人でしかも男だったことは多分言わない方がいいよね。

 出来るだけ俗世と離れたほうが説得力があるだろうし、女性ライバーに男が近づくのを嫌がるファンもいるみたいだから。


「こらっ、カタリナ。早く寝なさい。

 夜中にそんなものを見ていたら、目を悪くするわよ」


「はーい」


 様子を見に来たお母さんに諭され、機械の電源を落とす。


 ……こんなやり取りも何だか懐かしい気がするな。







「うん、良いんじゃないか」


 翌朝。両親がそろった食卓で改めて配信者になりたい旨を伝えると、返ってきたのはあっさりとした了承だった。隣でお母さんも大きく頷いている。


「え、いいの? 私結構変なこと言ってると思うけど?」


「そんなの今更よ。

 おままごとには目もくれず、昆虫採集に明け暮れるカタリナの姿をお母さんたちはずっと見てきたのよ?」


「う、その節はご心配をおかけしました」


 黒歴史を掘りおこされ、肩身が狭くなる私。

 まさかこんなところで前世の影響が出てるとは。ただそのおかげで自由にやらせてもらえるわけでーーこれが怪我の功名ってやつかっ(違う)。


「むしろようやく女の子らしい趣味に目覚めてくれたって感じよね。

 ほら、最近の若い子はヒップホップ? で踊る動画を取るんでしょう? 

 どうせならお母さんと二人でやってみる? こう見えて踊りには自信はあるのよ」


「母さん、もう昭和じゃないんだから……」


「あ、あはは」


 歳不相応(・・・・)にフリフリと腰を振り始めたお母さんに、思わず愛想笑いが零れる。


 お母さんの言う通り、地球では誰もが動画を投稿できる時代になったというのだから本当に不思議なものだ。

 私の時はやべー奴しか配信していなかったような、そんな気がする。


「でも、ね。ネットで活動していると、意味わからない理由で炎上したりするんだよ。そのせいでお母さんたちにも迷惑をかけるかもしれない」


「大丈夫よ。もしそうなったしても、テレビに出るのとかと違って地球の彼らは私たちには何もできないわ」


 それにね、とお母さんは優しげな笑みを浮かべた。


「ーー例え見ず知らずの誰かに貶められようと、私たちはお互いのことを思いあっている。だから大丈夫よ。

 何をそんなに心配しているかは知れないけど、カタリナは自分のやりたいようにやればいいわ」

 

「最悪、全てを消してここに引きこもればいいだけだしね」


 こんな無鉄砲な私の背中を優しく押してくれる二人。

 ……ほんと、良い人たちだよなあ。

 配信者になりたいのは私の我儘なんだから、二人には非難の矛先が向かないようにしたいな。


「ありがと、お父さん、お母さん。 

 それじゃあーー」







「ふっふっふ」


 初配信を終えて布団に入った後、タブレット(黒い箱を勝手にそう名付けた)のチャンネル管理画面を見て、思わず失笑が零れた。


 総再生回数は約1000回、チャンネル登録者数は117人。

 後ろ盾や導線が何もない中でこの数字はなかなか伸びたと言ってもいいじゃないだろうか。


 コメントを見るとやはり困惑の声が大きい。何か大きなプロジェクトの一部なのか、一体どこの企業がバックについているのか、様々な憶測が飛び交っていた。

 ただ気になるのは、そういう不可思議な面に押されて私個人に対する感想は少ないこと。


 うーん、次は質問枠とかにして、もっとカタリナ・フロムという人物に焦点を当てた方がいいかな?

 でもそれだと折角の異世界要素も出せないし……。


「こらっ。カタリナまたーー」


「え? 私、本を読んでただけだよ?」


 お母さんの声が聞こえたその刹那、タブレットを枕の下に潜り込ませ、予め横に置いていた本を取る。

 前世式緊急回避ーー名付けて「え、ゲームなんかしてないよ作戦だ」。前世の私はこれを多用して「ゲームは一日一時間」ルールを振り切っていたのだ、多分。


 頑張れ、私。ここをしのげば希望が――


「……へえ、カタリナは上下逆さまでも文字が読めるのね」


「あっ」


「嘘をつく悪い子は、これ没収よ」


「ちょ、ちょっとまーー」


「おやすみなさい、カタリナ。良い夢を」


 がばっと枕の下に手を入れ、タブレットを持っていってしまうお母さん。


 作戦失敗。司令部、次なる作戦を求む。

 オーダー了解……奪還任務の難易度はSSSを超えるわ。諦めて寝なさい。


「くっ、ごめん愛する半身。守れなかったよ……」


 屈辱にあふれる涙を拭って、私は大人しく布団にもぐる。


 なんにせよ、明日が楽しみだっ。



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