2 おりこうさんが多くてこまります
というわけで第二話です。
「で、殿下! ここは国王陛下の執務室ですぞ! 許可無く徒党を引き連れて入るのは――」
王子に続き3人の青年貴族が入ってきたことを見とがめて侍従長が抗議をしたが、王の声がそれを遮る。
流石は在位40年の為政者、冷静さを取り戻している。
「フィリップよ。自分が何をしたか判っているのか?」
王子は、まっすぐ見返して答える。
「我が国を正す第一歩で御座います」
背後で3人の青年貴族もうなずいた。
3人共が王家への忠義が篤い家の跡取りである上に、優秀と評判の者たちであった。
「正す? お前の正すというのは、正当な婚約者を廃し、不義を正義とする事か。ずいぶんと奇怪な正すだな」
「正当ではありません。元婚約者の実家、ブルゴン公は不正を働いております」
「不正? それは聞き捨てならんな」
「王家の許可無く外国と密貿易をしております。国法に背く輩から王家の次代を担う者を入れることはできませぬ。ダヴィッド!」
声に応じて青年貴族の一人が前へ進みでると、王の執務机に書類の束を置いた。
「ここに証拠が御座います。この二十年の帳簿が全て。これで父上にも、正されるべきが何者かおわかりいただけるかと」
王は書類の束に、ちら、と目を遣ったが取ろうとはしなかった。
「こんな物をどこから手に入れた」
「勇敢で機知に富む娘が手に入れてくれました。彼女は密貿易の実務を仕切っているカロー商会の娘ですから確実です」
王は書類を手に取って、気のない様子で流し見た。
詳細な帳簿で、国法に背く不正な遣り取りが赤裸々に記録されている。
カロー商会の娘ズェルマは、単なる美人ではなかったらしい。
これらを手に入れるのには、どれほどの機知と勇気が必要であった事だろう。
凛とした小柄で利発な黒髪美人。なるほど。フィリップと惹かれ合うのも判るというもの。
若い二人が惹かれ合えば、そこに恋の磁力が発生してしまうのは道理である。
だが、と王は小さく溜息をついた。
悲しいかな、哀しいかな。二人とも若すぎた。
理想に燃える若鷹と、利発な年若い燕は、世の仕組みが判っていなかったと見える。
いや、判っていると思ってしまうのが若さか。
「これさえあればかの不忠の貴族を取り潰せます。そして資産を全て没収し王家の力とするのです」
青年貴族の一人が高ぶりの余りか発言する。
「陛下! 今こそ王家の力を取り戻す時です!」
嗚呼。と王は嘆息する。
若い小鳥どもよ。目を純粋に輝かせる者たちよ。なんという哀れさだろう。
何も判らぬというのは、どうしてこう哀しくも美しいのだろうか。
昔の自分にもこういう時があったのだろうか。
「父上! 今こそ立つべき時です! 彼らの他にも貴族十名が兵を挙げる準備をしております。御決断ください!」
そこまで進んでいては是非もない。決断せざるを得なかった。
王は苦渋の表情を消すと、無表情なまま分厚い書類を破り捨てる。
見せつけるように、ゆっくりと。
「なっ。ち、父上! それが真の記録だと判らぬほど耄碌してしまったのですか!?」
驚愕する息子に対して、父は冷静だった。
「どうせ写しであろう。それにワシはこれくらいの事は知っていた」
「こ、国法が踏みにじられているのをご存じだったのですか!?」
「これが行われ始めたのは、この記録の遙か以前。ワシが生まれる前からのことだ」
王子は気を取り直し、
「な、なるほど。証拠がなかったのですね」
「証拠があろうがなかろうが、我が王家は罰を執行する能力などない。
領土もない。人員もない。兵士もお飾りだ」
「判っております。この王城に満ちている兵は大貴族どもが持ち回りで派遣してくれている者たち。
いえ兵だけではなく、王家の所有しているかに見えるもの全てが、税や派遣の形式で納めてくれている物に依存していることを。
だからこそです! ブルゴンの賊めを潰せば、その力が手に入るのです!」
背後の青年貴族も叫ぶ。
「我らは王家に忠誠を誓っております! 一言御命じ下されば軍を率いて賊を討ち滅ぼしてごらんにいれます!」
別の青年貴族も叫ぶ。
「今月は、王城の兵士のうち半分が我らの家と我らの同志が派遣した者たち。
王の兵として動かすことが可能な者たちなのです!」
王は息子と3人の青年貴族をゆっくりと見回した。
この顔ぶれからすると同心する者たちもおおよそ見当がついた。
動員できる兵力は彼らの見積もりだと五千程度か。それならブルゴン公を制圧は出来る。
だが実際は、まだ主君になったわけではない跡継ぎや次男の命令を聞く兵士は少数派だろう。
最大限大きく見積もっても五百という所だ。それでも甘いか。
王は嘆息した。
実働兵力を準備してあるのは悪くない。
ひとりよがりの見積もりとはいえ、目標より優勢な兵力を集める算段をしていたのも悪くない。
だが、もう一歩、踏み込んで考えるべきだったな。
「……お前らは阿呆だ。中途半端な才子は阿呆に劣る」
「な、なんですと! 父上は自らの怯懦を悟らず、行動をしようとしている我らを誹るおつもりか!」
「フィリップよ。お前は一を悟って十を知った気になる愚か者だ。
いいか。あの家だけがそれをしていると思っているのか?」
「な、なんですと!」
「領地の経営には金がかかる。金を回さなくてはならぬ。
それをいちいち王都にお伺いを立てていたら、回るものも回らぬではないか」
青年貴族のひとりが歓喜に満ちた叫び声をあげた。
「なんと! なんという好機! であれば、不忠の賊をまとめて掃滅するのみ!」
「滅するのは王家とお前達だけとなるであろうな」
王の声は冷ややかだった。
「お前達以外の全ての貴族と戦うことになるのだぞ。
しかもだ。お前達3人は自分の手は汚れていないような顔をしているが。
そなたらの実家もやっている事だ。
もっともこんな企てに参加するような中途半端な正義気取りに、教えてはいなかっただろうがな」
青年貴族の一人が声を張り上げた。
「嘘だ!」
「ならばお前の父に訊いてみるがよかろう。さっさと帰るがよい」
王は心の中で願った。
さっさと立ち去ってくれ、今ならまだ3人の青年貴族は引き返せる。
中途半端な才子とはいえ、将来有望な青年達だ。
あたら未来の芽を摘みたくはない。
「それが事実なら、国法に基づき、父にも罰を下すまでのこと!」
王は内心で天を仰いだ。
やんぬるかな。
若さというのは美しく、そして盲目だ。
「兵を動かすなら、ここになど来ず、さっさと動かすべきであったな。
もうおぬしらの企ては全て漏れている頃合いであろう」
「我が同志に裏切り者がいるとでも仰るのですか!」
王子が喰ってかかると。
「お前達は哀れなほどに貴族だ。そして貴族しか見えておらぬ。
考えてもみよ。この王城にどれほどの数の人間が勤めているかを。
下級兵士、料理人、召使い、庭師、掃除番……数えきれぬ。
それらのほぼ全員が貴族達から派遣されているのだぞ。中には貴族達の目と耳となっている者が多数おる。
変事の兆候を嗅ぎつければ、主達に逐一伝えていることだろう」
青年貴族のひとりが廊下へ駆け出し、すぐに青ざめた顔で戻ってきた。
「全部聞かれていた! 今、逃げていく人影が!」
王子はうめき。
「お前達! 早く兵を集めに行け! 私は父を説得する! どんな方法を用いてもだ!」
その言葉に、王は嘆息し、青年貴族達は慌てて駆けだしていった。
王の執務室には、王と王子と侍従長だけが残された。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。
第三話・第四話は、明日11月28日の午前0時に投稿します。それで完結です。
宜しくお願い致します。




