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angolmois  作者: ちょりん
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第一話(1)

 今年は一九九九年。ある賢人によれば、今年の七月末に恐怖の大魔王が降臨し、世界を滅亡させてしまうらしい。

 けれど、今は九月。夏休みが終わり、二学期が始まろうとしていた。

そう、この賢人の予言は外れてしまった。ついこの前までこの話題で盛り上がっていたのに、いざ、過ぎ去ってしまえば、マスコミも取り上げることはなくなってしまった。

 過ぎた頃―――八月初旬の番組では、予言書の暗号解析が間違っていたり、ある国では西暦をとっておらず、まだ一九九九年ではないというところがあるなど、外れてしまった『言い訳』の内容をやっているところがあった。しかし、今では誰もそんなことに興味はないだろう。


 学校の校門が近づいてくる。

朝月桜(あさづきさくら)は夏休みでも、毎日学校に来ていたが、いつも部活のメンバーにしか会ってはいなかった。なので、少しだけど昨日からワクワクしていた。ちょっと幼稚っぽい表現かもしれないけど、これが一番しっくりくる気がする。

部活のとき以外でも遊びに行くのに、他の友人と会うこともあった。でも、そこには女友達しかいない。思春期真っ只中の女の子にとっては男の子との交流には興味がある。だから、久々の男友達に会うのが少し楽しみなのだ。

 別に好意を抱いている男の子がいるわけではない。そう考えてしまうと少し寂しい、だとか悲しいと思ってしまう。

 校門に入ろうとしたところで、友人の磯辺茉奈香(いそべまなか)に後ろから肩を叩かれた。

「おはよ、桜」

 茉奈香とは夏休みの間は部活で会っていたので、久しぶりではない。そもそも、昨日も会っていた。

 毎日、会っているのにも関わらず会話が尽きないのは、やはり仲がいい証拠なのか。それとも女であるが故の語学能力の賜なのか。恐らく前者だと桜は思う。

 教室に着くまで、二人で他愛のない話をする。それでも、それは楽しいもの。

 教室に入るといつものメンバーが話していた。桜と茉奈香は自分の机に鞄を置いて、そのメンバーのところに行った。

「久しぶり〜」

「お、久しぶり」

 桜は軽く手を振りながら友人たちに久々の挨拶をする。

 その挨拶に最初に応えてくれたのはこのクラスの委員長こと中村啓祐(なかむらけいすけ)だった。

「桜にしては少し遅めかな?」

 右手を腰に当て、副委員長の白井由美(しらいゆみ)が言った。

 毎日、部活があったとはいえ、始まる時間は授業のある日よりも遅い。それの習慣が抜けていなかった所為なのか、今日は少し寝坊してしまった。その甲斐あってか、この時間にいつも来ている茉奈香と登校することが出来た。結果オーライというものかもしれない。

 グループに近づき、いつもと違っていることに気が付いた。

 そのグループの一人の少年―――天野一輝(あまのかずき)が左眼に眼帯をしていたのである。

「あれ? 左眼どうかしたの?」

「ああ、ちょっと転んでさ。ぶつけちゃったんだよ」

 ははは、と軽く笑いながら一輝は桜の問いに応える。「ポケットに手を突っ込んでた」と付け加えた。

「手は出しとかないと駄目だよ? 危ないんだから……」

 ついつい、いつもの癖で注意してしまう。心配して言っているのだが、周りからは『世話焼き』だと思われているんじゃないかと思っている。

 時間ギリギリに着いたので、そんなに会話することなく終了してしまった。担任の先生が入ってきたからだ。

 特に急ぐことなく自分たちの席に戻っていく。それでも、静かになることはなく、周りの近くにいる人と話している人が殆ど。

「夏休みは何かしてたの?」

 桜もそのうちの一人。

後ろの席の一輝に話しかける。

一輝と桜はバイトが同じで夏休みでも会う機会は多かったが、シフトの関係かプライベートな会話は殆どしていなかった。なので、一輝と話すのは意外と久しぶりになる。

「いや、特に何もしてないよ。バイトくらいじゃないか? どこにも出掛けてないし」

 教卓の前では先生が何やら話しているようだが、一輝は全く気にもせずに桜の質問に応えた。ホームルームのときに会話をいていてもこの先生は特に怒ることはない。幾らか五月蝿くなると注意をする程度。

「そうなんだ。じゃあ私と同じなんだね」

 自分と同じ境遇の仲間がいたと思うと少しばかり安心する。

 長い夏休みだったというのに、バイトしかしていないのだから、青春の一欠片も感じられない。そんな悲しい夏休みを送っていたのが自分だけではないと分かったのでどこかで安心感が生まれたのだろう。

 気が付くと担任は教室からいなくなっていた。担任の声はそれほど大きいものではないので聞く耳を持っていなければ聞き取りにくい。

「四〇分までには体育館に移動してるんだぞ? お前ら殆ど、聞いてなかっただろ?」

 啓祐が教卓の前で叫んでいた。誰も先生の話を聴いていなかったのを予測した行動なのか、先生の『代わり』に言ったのだろう。やはり、一応“委員長”ではある。

 四〇分までと言っても今は三五分。それほど余裕がある時間ではないので、教室の端々から徐々に出て行っている。

「じゃ、あたし達もそろそろ行こっか?」

 由美がみんなに告げた。そんなに不真面目ではないからなのか、副委員長という肩書きの所為なのかはわからないが、二学期最初の行事に遅れてしまうのは如何せん、いけないことだと思ってしまう。

 この五人のメンバーは話しながら、ゆっくりではあるが、予定の時間に着くように体育館へと向かっていった。


 体育館に着くなり啓祐は走り出した。

「やべ! 整列しないといけねぇんだった!」

「あ、あたしもやらないと!」

 啓祐の言葉を聞いた由美も同じく走っていった。

 走り出したのはこの二人だけで残りの三人は急ごうという素振りすら見せない。

 啓祐と由美が仕事に走っていったのに、三人とも全く急ごうとしないのは、自分たちが教室を出たときにはまだ残っている人がいたから、整列が完全に終了するのはまだ先のこと、だからである。


 自分たちのクラスの列に並び始めて五分くらいたった後に整列が完了した。

 桜は「お疲れ様」と二人に思った。

 決して纏まりがないクラスではあるが、やはりまだまだ遊びたい時期である。ルールに則って時間通りに動く生徒ばかりではない。それはこのクラスに限ったことではなく、他のクラスでもそうなのだが、一人でも遅れるとその責任はやはり委員長、副委員長にある。一人でも遅れてくるとその度に列は、微妙ではあるが乱れてしまう。

 そのためにもやはり時間はせめて守るようにしないといけない。


全クラスの整列が終わったようなので(ようや)く、始業式が開始された。

開演の挨拶があったあとすぐに校長の話が始まる。

これは恐らくどの学校でも同じことなのだろうけど、こういう式のときの校長の話は非常に長い。

 きっと誰もこの話を聴いている生徒なんていないだろう。

 それは桜も同じである。

 聴いていないので呆けている人やケータイを弄くっている人など、色々な人がいる。ちなみに校則で校内でのケータイの使用は禁止されている。

 桜もその内の一人だった。

 桜は考え事をしていた。

 先々月末に大魔王が降りてくるという予言。

たしか、その魔王には名前があったはず……。

 それを考えているときに同時に「私も不真面目なんだな」と思ってしまう。

 そうして(しばら)く考えていると、その答えが出た。

(ああ、そうだ。アレの名前はたしか―――)

 angolmois(アンゴルモア)……。


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