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angolmois  作者: ちょりん
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プロローグ

 『少年』はその朝、インターホンの音で目を覚ました。

 早朝とは言えないが、決して遅くはない時間での来客訪問。

 面倒ではあるが、出ざるを得ないのは仕方のないことである。

 電話で出る習慣を持っていなかったために、直接玄関のドアを開ける。

「……はい」

 寝起きであるために声からは覇気は感じられない。

 『少年』は扉の向こう側にいる人物の顔を確認する。そこには会ったことのない“少年”が立っていた。

 その“少年”は『少年』と同じくらいの年齢のように見えた。見た目からはそう見えるが実際の年齢は不詳である。

「うちに何か用ですか?」

 まだ覚醒しきっていない頭で質問をする。客人の方から用を言ってこないというのも中々に失礼だとは思うが……。

「おめでとうございます。貴方は審査の結果、見事当選致しました」

「…………」

 『少年』は何を言っているのか理解できていなかった。

 それもそのはずである。何も懸賞に送っていないというのに、いきなり「当選しました」というのは色々と変である。

 そんな『少年』の心境を把握したのか、“少年”は、

「ああ、気にしないで下さい。これは応募とかは元々ないんで。ですから、身に覚えがないのは当たり前ですから」

「…………」

 益々不審に思ってしまう。

 応募がないものなのに、抽選があるということは勝手に無作為に行ったということなのだろう。

 そして『少年』の頭の中で一つの解答が浮かび上がった。

「新手の詐欺なら、警察に訴えますよ?」

「いえいえ、決してそんな事ではありません」

 これ以上付き合っていると訳が分からなくなってしまう。

「意味が分かりません。帰って下さい」

 (ようや)く覚醒しだした頭で今出来る最善の行動を考えつき、ドアを閉めようとした。

 閉じている途中で“少年”は言ったような気がした。

「今は分からなくても、すぐに分かります」

 ドアを完全に閉め切ったところで、安堵の息をついた。


 完全に目が覚めてしまったので、これから二度寝をする気にはなれなかった。

 テレビをつけてワイドショーでも見ることにする。

 『少年』は休みのときには大抵、昼頃に起きる。それなのに現在は九時過ぎ。起きたのは恐らく九時前だろう。

 そう考えているとさらにさっきの“少年”に腹が立ってしまう。

 だが、それはすでに過ぎた事。もう会うことはない。

だから、忘れよう。

 そんな事を考えながらテレビを見ていると、左眼に軽い痛みを感じた。

 睫毛(まつげ)でも入ったのかと思い、洗面台へと向かった。

 鏡を見た瞬間は何が起きているのか理解することが出来なかった。

眼が紅い。

ただそれだけの出来事だというのに……。

充血とは違う。充血なら白い部分が紅くなるはず。

なら、黒いところが紅くなるというのは何なのだろうか? そんな病気の類は聞いたことがない。

『少年』は気味が悪くなったので、急いで病院に向かうことにした。

近くの病院にはそんなに行ったことがないが、記憶が間違っていなければ総合病院のはずである。近くに眼科はないのでその病院に行くしかなかった。


 記憶は正しかった。

 受付で診察の予約をし、呼ばれるまで椅子に座っていることにした。

 総合病院であるためか施設内は広い。近所にこんな立派な病院があることに感謝したいくらいだ。

 夏休みであるためか子連れの人が多かった。まだ遊び足りないのか、病院であるにも関わらず子供は無邪気に走り回る。

 『少年』はその光景を見て幾つか考えてしまった。

 五月蝿(うるさ)い。

 ウザい。

 (しつけ)がなってない。

 決して「子供だから仕方がない」という考えは出てこなかった。目の前に来たら殴ってしまいそうなくらいの感情が渦巻いていた。

 いつしかその子供は母親らしき人に叱られていた。

(叱るならもっと早くにやれ……)

 『少年』は負の感情で満たされている。

 あの“少年”の所為なのかはわからない。今の子供の所為なのかもわからない。

 ただ自分がこんな事しか考えられていない事に驚いている。

「○○○○さん、十二番の診察室に入って下さい」

 自分の名前が呼ばれたので椅子から立ち、子供を横目で見ながら診察室に向かった。


 診察室に入るとそこには初老の男性が机に向かって何かを書いていた。

 『少年』が入ってきたことに気付き、体ごとそっちに向ける。

「今日はどうされましたか?」

 一日にこの言葉を一体何回言うんだろうか、と考えながらも『少年』は答えた。

「今朝、気が付いたら左眼が紅くなっていました」

 医者はそれを聞くなりすぐに『少年』の左眼を見た。

 机の引き出しからペンライトを取り出し、光を眼に当てたり外したりする。

「ああ……、そう、ゴホッ、ですね……。ゴホッ……ゴホッ」

 次第に咳の回数が増えていく。

 もはや何を言っているのか聞き取れない。

「ゴホッ! ゲホッ!」

 言葉はなくなり、咳だけになった。

「ゴホッ! ……ア、ア!」

 咳までも無くなった。

 苦しいのか両手を首に宛がい、酸素を求めているようだった。

 そして……。

 ドサッ……。

 椅子から落ち、床に倒れた。

 恐怖で『少年』は椅子から立ち上がり、診察室を走って出て行った。


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