ボコった男たちでした
笑いながらチアが答えた。
「今の所いないわね。本気で探している訳でもないしね」
「少なくとも、私たちをちゃんと区別出来ないような男は願い下げよ」
二人で「ねえ」と息を合わせながら答える。
確かに二人は双子なだけあって見た目はよく似ている。だが、性格は全く違うし瞳の色も違う。
チタはヘーゼルナッツ色の瞳で、活発だ。でも少しドジな所が可愛い。チアはペリドットの瞳で動きは少しおっとり。でも口で敵わないのは彼女の方だったりする。どちらも見た目は儚げな美少女という印象だ。
「アリーこそどうなの?さっきからたくさんの男たちに見られているけれど?」
「アリーは外見だけは、ずば抜けて綺麗だものね」
外見の部分を強調しながらチアが言う。
「外見だけって、まあ否定はしきれないけれど」
双子は幼馴染なだけはあって、私の魔力の事を知っている。転生者である事も話している。
「私も興味ないな。大体、皆同じように見えるし。それに、私は結婚しないでお父様達とずっと一緒にいるって決めているからいいの」
昔から変わらず言っているこのセリフに溜息を吐く二人。
「気持ちはわからなくもないけれど、高位の貴族に生まれてそれは無理な話でしょ」
「アリーは絶対に、いつか好きな人が出来ると思うけれどね」
チタとチアが笑う。
「いいの。少なくともそれは今じゃないって事よ」
私の話はおしまいとばかりに、スイーツにかぶりつく。
「それにしても相変わらず不動の人気ね」
チタが4つの集団を見ながらプチケーキを頬張った。
「不動なの?」
「ええ、一つは第二王子のラウリス・バルティス殿下でしょ。もう一つは宰相様の所のロザーリオ・アルケッティ公爵令息。もう一つはオレステ・ロダート侯爵令息、騎士団長の息子ね。最後は魔術師団長の息子であるセヴェリン・フレゴリーニ侯爵令息。この四人よ」
ん?今、なんて?
「まあ皆、顔は整っているから」
チアが興味なさそうに言う。
「待って。もう1回、名前を言ってくれる?」
「いいけど」
チタがもう一度、名前を言う。
「どうしよう」
「どうしたの?」
動揺した私にチアが気付いた。
「四人のうちの三人は、私がボコボコにした奴らよ」
間違いない。あの会場で気絶させた三人だ。
「え?婚約者がいるのに、魅了で一人の女にメロメロになったっていう?」
「流石に記憶はないと思うけれど……ヤバくない?」
「因みに三人とは?」
「セヴェリン・フレゴリーニ以外」
「おお、王子もだったか」
双子たちには私が転生者で、酷い扱いを受けていたアレクサンドラを助けるために入れ替わって、酷い扱いをしていた三人の男と一人の女をボコボコにしたと話していた。だから誰かまでは知らなかったのだ。
「ああ、もう帰りたい。でもスイーツはやめられない」
美味し過ぎて、スイーツを食べる事がどうしてもやめられない。
「まあ、大丈夫でしょ。記憶が残っていることなんてないでしょうから」
皿の上のスイーツが大分消費された頃、数人の令息たちが私たちの座る席にやって来た。
「あの、良かったら僕たちと話しませんか?」
「話しません」
と、言いたいのを堪えて笑顔を作る。いくら子供とはいえ、仮にも高位貴族。上辺だけでも愛想良くしなければならないことくらいわかっている。
しかし、これが甘い考えだったと知るのは数分後。気が付けば、あの4つの集団と同じような状態になっていた。
「ヴィストリアーノ嬢、是非僕とあちらの庭園を散歩しませんか?」
「ヴィストリアーノ嬢、私と別のスイーツを貰いに行きませんか?」
「ヴィストリアーノ嬢、近々、僕の家でも茶会を開く予定なのです、是非来てください」
初めて参加した私が珍しいらしく、恐ろしいほどの誘いが来る。流石の私も笑顔がヒクヒクし出した。
「皆様、一度にお誘いを受けてアレクサンドラ様が驚いてしまっていますわ。一度お引きになってはいかが?」
チアがやんわりと皆を排除しようとしてくれるが、なかなか皆消えてくれない。
「君が離れるなら僕も離れる」などと、喧嘩のようになってさえいる。殴るわけにもいかないし、どうしたものかと頭を悩ませていると、後ろから声が聞こえた。