表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/73

婚約発表

 夕暮れ時。

王城の花園にある月下美人が咲く頃だと言われ、エンベルト殿下と四阿で夜を待つ。

「寒くはありませんか?」

「ん、大丈夫」

今日は少し風が冷たい。


殿下の足の間に座らされ、思いっきり寄り掛かった状態の私には、冷たい風がちょうどいい。


木の上にはフクロウやテンだろうか。可愛らしい動物たちが、周りで一緒に過ごしている。


「今日はお疲れ様でした」

「本当に疲れた。ルトのせいで」

今日、私たちは正式に婚約を発表した。


謁見室で主要な貴族を招集し、エンベルト殿下自ら発表したのだが……



「あら、ヴィストリアーノ様ではありませんか」

「本当ですわ。お茶会以来ですわね」

謁見室に入るとすぐに、アネージオ様とパガニラーニ様に声を掛けられた。二人ともそれはそれは華やかな装いだ。


「お久しぶりでございます」

服装と期待値が比例しているようで、何とも言えない私は、どうしても挨拶がぎこちなくなってしまった。

『ああ、どちらもご自分が選ばれると信じていらっしゃる』


「ヴィストリアーノ様はどうしてこちらに?」

いきなりの核心を突く質問。どうしたらいいのだろう。正直に話したら私、この場で殺されちゃうんじゃないだろうか?


「ええとですね……話があるからと呼ばれまして……」

上手く返せず、ふわっとした答えしか言えなかった私を、ジロジロと見る二人がにこやかに微笑んだ。


「もしかしたら、ご自分の生徒でもあったあなたに、証人代わりとして見てもらおうと思ったのかしら?」

「ああ、同じ公爵家の令嬢で、エンベルト殿下の生徒でもあったヴィストリアーノ様を、ミケーリの代表としてお選びになったという事ですわね」

どうやら私の姿を見て、そう判断したようだ。私は自分の瞳に合わせたシンプルな紫のドレス姿。特に装飾も着けていない。


後ろでは、とても楽しそうにお母様が微笑んでいる。助けてくれるつもりはないらしい。


「今日のこの日を、どれだけ待ちわびたかおわかり頂けるかしら?昨晩なんて、緊張し過ぎてなかなか寝付けませんでしたわ」

アネージオ様が溜息をもらす。色気も一緒に漏れた気がした。


「それを言うなら私だって同じですわ。この日を指折り数えて待っておりました。やっとお美しいエンベルト殿下の隣に並ぶ事が出来るんですもの」

パガニラーニ様が、猫のような釣り目をキラキラさせていた。


「ふふ、おめでたいですわね」

「そちらこそ。この後泣くことになりますのに」

ああ、誰か。助けて下さい。クストーデ、今すぐ城を破壊しに来てぇ。そんな事を頭の中で願っていると、王族の入場を知らせる声が響いた。


 早速、エンベルト殿下が前に出て高らかに宣言する。

「この度は私の為に集まってくれてありがとうございます。私は長い間、婚約者を決め兼ねておりましたがやっと、生涯を共にしたいと思う人を見つける事が出来ました」


殿下の言葉に貴族たちから歓声が上がった。まるで舞台のクライマックスのようだ。心なしか、殿下も芝居がかっているような気がする。ああ、この国は平和だ。


「本当はずっと昔に見つけていたのです。ですが、彼女が自覚するまで私は待ち続けました」

「いやですわ。私の心はとっくに殿下の物でしたのに」

「ああ、私のアピールの無さが殿下をお待たせする事になっていたなんて」

エンベルト殿下の言葉に、二人の公爵令嬢が頬を染める。えーん、逃げたいよぉ。


「では、早速発表いたします」

その瞬間、謁見室が水を打ったように静まり返った。エンベルト殿下が壇上から降り、こちらの方へ真っ直ぐ歩いて来る。二人の公爵令嬢は、自分の所に来ると信じて疑っていない。


反対に私は、なんだか急に怖くなってきてジリジリと後ずさる。

『うう、嫌だ。この空気の中、ルトの手を取るなんて恐ろし過ぎる』


思わず踵を返して逃げ出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お父さんの許可は出たのか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ