1年が無事に終わりました
明日は修了式。学校も落ち着きを取り戻し、最後のクラスの空気感を楽しんでいる。年間の成績を通してクラス編成がされるので、このクラスは明日で終わるのだ。
「きっと私たちは同じクラスでしょうね」
「ああ。皆、成績は常に上位だからな」
「2年になれば社交界デビューが待っているわ」
「そうよね。そろそろドレスの事を考えないと」
「え?早過ぎでしょ」
「嫌ね。早い人はもうとっくに作り出しているわよ」
そんな軽い会話を楽しんでいる私たち。
「ラウリスはいつ隣国に?」
ジュリエッタ殿下との結婚の許しを得るため、この長期休暇を使って隣国へ行くのだ。
「ジュリが明日、修了式が終わったら国に戻るらしいから、私も明後日には向かう」
「そうか。ジュリエッタ殿下は、本当にこの王子でいいのか?」
ロザーリオがニヤリとする。
「うん。ラウリスがいいの。それに……皆とも離れたくないし」
「案外、そっちの方が本命だったりしてな」
オレステが悪びれずに言った。
「ふふ、それは秘密」
ジュリエッタ殿下も二人に乗っかる。
「え?」
ラウリスだけが真顔だ。
「ふふふ、冗談です」
ううう、可愛い。もう、何もかもが可愛い。ラウリスには勿体ない。
「なんだか……あっという間の1年だったわね」
チアが感慨深い顔になる。
「ホントにね。色々な事が目白押しだった気がするわ」
チタも賛同する。
「まあ、全てがアリーを中心に回っていたよな」
「私?」
「そうだな。正に嵐の中心で、高笑い状態だったな」
「私、高笑いなんてしてないわよ」
「で?アリーは聖女になるのか?」
「ならないわ。何かあればいつでも私の力を使う。でも聖女なんて堅苦しい型にははまりたくないかな」
「アリーは王妃の道が待っているものね」
チタがニコニコして、私に抱きついた。
「どうかしら?それもなかなか窮屈そう」
「え?お義姉様にはなってくれないの?」
ジュリエッタ殿下が、ブラウンの瞳をウルウルさせながら見上げて来る。
「なります、なりますよ。なりますとも。ジュリエッタ殿下の為に、私は王妃になるぞー」
右手に拳を作り、上に向かって突き出せば、その手首をキュッと握られた。
「何!?」
驚いて振り向くと、いつの間にかエンベルト殿下が立っていた。
「嬉しい申し出ですが、動機が納得いきませんね」
ああ、聞いていらした訳ですね。
「ほら、これはあれよ。その場のノリというか……ねえ」
笑顔のまま、全然離してくれない。
「ええっと……ルト?」
「はい?」
「手、離して」
「嫌です。私が納得する答えを聞きませんと」
「ここで?」
「はい、ここで」
「あの……クラスメイトもたくさんいるし……」
「それはちょうどいいですね。皆さんが証人になってくださいますから」
「恥ずかしいんですが」
「私は平気です」
「うっ」
もうこれは、言わないと離してもらえないやつだ。
「わかったわ」
大きく深呼吸をする。言えばいいんでしょ、言ってやろうじゃないの。
「私はルトを愛しています。だから、ルトのお嫁さんになりたいの」
ボッと火が点いたように、エンベルト殿下の顔が真っ赤になった。まさか、本当に言うとは思っていなかったのだろう。
『ふふふ、勝った』
そう悦に入っていると、目の前にエメラルドが煌いていた。
「え?」
そう思った瞬間、唇をしっかり塞がれていた。周りから耳をつんざくような悲鳴やどよめきが聞こえる。
「兄上……」
「よくやるよ」
「素敵」
そんな声がすぐ横で聞こえる。
リップ音と共に離れた殿下の唇が、濡れたように艶めいて私の心臓はもう爆発寸前だ。
「ふふ、言質はしっかり取りましたよ。もう本当に、何があっても逃がしてあげられませんから」
「はうっ」
呼吸困難に陥る私の背中を、チタがさすってくれる。
「本当に兄上なのか?」
ラウリスが頭を抱えている。
「私はいいと思うわ。今の殿下は素敵よ」
チアがにこやかに微笑んでいる。
「あ、こういう事か。アリーの両親もこんな感じなんだな」
オレステの結論が明後日の方へ向かった。ジュリエッタ殿下は顔を真っ赤にしながらプルプルしている。
ロザーリオはこめかみに怒りマークが見える。
「皆の前で、はしたないですよ」
「そう?私はいいと思うわ」
チアの言葉に固まったロザーリオ。
「私にもあれを求めていたりするのか?」
「それはそれで素敵だけど……誰にも秘密でこっそりと、っていうのも悪くないわ」
ロザーリオが真っ赤になった。チア、凄い。