悪あがき
クストーデは、ここにいる全ての人に聞こえるように話し出した。
『私は最北の火山を住処にしているドラゴン。神の気配を感じて誘われるようにここへ来た。神の気配を辿ると、神の加護を受けた娘が上から落下している最中だった。私は咄嗟に彼女を助け、これからも彼女を守る事にした』
美しいドラゴンに皆、釘付けになっている。
「そう言えば、セレート様たちとヴィストリアーノ様が、そんなやり取りをなさっていたわよね」
誰かが声に出す。そこから一気に熱が広がった。
「もしかして、セレート様が本物の聖女であるヴィストリアーノ様を殺そうとしたの?」
「邪魔になったという事か」
皆の視線が一気にセレート嬢に集まった。
「そんな。私は殺そうとなんて……」
首を横に振るセレート嬢。
「もう、今更嘘をついても無駄よ」
彼女の目の前に立ちはだかった。
「いい加減に全てを認めなさい。証拠も揃っているのよ。言い逃れなんて出来ないわ」
「そんな……私は……この物語のヒロインなのに」
そう言ったセレート嬢の目つきが変わった。
「私はヒロインなの。この世界の中心人物。ちゃんと順番に攻略してきたの」
ブツブツと呟いている。
「やっと大本命のエンベルトのルートが来たと言うのに……冗談じゃないわ!!」
彼女の魔力が一気に膨らんだ。
「!」
「熱っつ」
「嫌!」
ラウリスたちが熱さで苦しそうな表情になる。
「皆!?」
ラウリスたちの元へ駆け寄ろうとしたその時、何かが私めがけて飛んできた。咄嗟に背中をのけぞらせて避ける。飛んできたのは万年筆だった。
「うわあ」
どこから飛んできたのかと周りを見渡せば、お守りを着けている皆以外ほぼ全員が、私を睨みつけていた。どうやらセレート嬢は、超強力なレベルの魅了魔法をかけたようだ。男女関係なくこの場にいるクラスメイトたちが、ゆらりと立ち上がり私めがけて近づいて来る。その姿は、まるでゾンビのようだった。中には強い魔力に中てられ、耐えきれずに気を失ってしまっている令嬢たちもいた。
「まいったわ。この人数を相手にするのか……」
ラウリスもオレステも、耳をおさえて蹲っている。相当熱いらしい。エンベルト殿下とお兄様はそこまで熱さは感じていないようだが、倒れてしまった令嬢たちを助け起こしたりしているので、戦力として換算する事は出来ない。
自然と口角が上がる。
「ふふふ、どうやら私一人で対処するしかなさそうね。」
そう考えている間にも、私めがけて向かってくるクラスメイト。
「久しぶりだし。どうしようかなぁ」
少しだけ頭の中で戦法を組み立てる。
まずは、フラフラしながら近寄って来る、令嬢たちを次々と倒していく事にした。そもそも非力な上、思考回路も遮断されているようで、ただただ私に向かってくるだけなので、手刀一発で沈める事が出来てしまう。
しかし、令息たちは一発で決めきれない者も何人かいた。
「ちょっと、そんなものどこから持って来たのよ」
しかもいつの間に用意したのか、木剣を手にしている令息が数人いた。私の口角が更に上がった。
「やだ。腕が鳴っちゃう」
木剣を、むやみやたらに振り回すだけの令息をまずは沈める。すると、私の四方を囲うように木剣を持った令息たちが立ちふさがる。どうやらちゃんと考えているようだ。
彼らは一斉に襲って来た。
「危ないって」
四方から振り下ろされる木剣を躱して、正面にいる令息の木剣を足蹴りで蹴り飛ばす。そのまま膝を曲げ、飛ばされた剣に気を取られている顎めがけてもう一度蹴りを入れた。
その隙に死角に回り込んで襲って来た令息の木剣を、サイドステップを踏むように避け、彼の両肩を掴む。そのまま彼の腹部に膝蹴りをお見舞いした。
「アリー、頑張って下さい」
なんとも暢気な声が聞こえた。エンベルト殿下だ。声の方を見れば、私に向かって手を振っている。加勢する気はないようだ。
「ま、その方が足手まといにならずに済むからね」
一人呟くと、背後から殺気を感じた。