魔術師団の実力
セレート嬢が叫ぶように言う。
「だから私は魅了など!」
「ふふ、そう言い張る事は想定済みですよ。私は教会からこの文献を受け取った時に、すぐに魅了を立証出来る道具を作るように、魔術師団に依頼しました。魔術師団には優秀な人材が揃っているのでね。彼もその中の一人なのですよ」
また扉が開いた。扉の向こうには野次馬がたくさん見えた。そしてその中から入って来たのはセヴェリンだった。
「セヴェリン?」
「アリー、ヤッホー」
手を振られ、反射的に振り返してしまう。
「セレート嬢、あなたが魅了などかけていないと、誤魔化し続ける事は初めからわかっていました。ですから彼にしばらくの間、あなたと行動を共にしてもらったのですよ。立証するために」
にこやかに言葉を紡ぐ殿下の横で、こちらもニコニコと爽やかな笑顔のセヴェリン。
「これ、なんだかわかる?これはね、魅了魔法の反応がスイッチになって、映像を残す水晶なんだ。これを作るために、父上は2,3日徹夜が続いてね。あの時の父上は面白かったなぁ」
水晶を持って、スタスタと私の前に来たセヴェリン。
「これをね、皆にも見せられるようにって出来るかなぁ」
「ああ、それなら。お兄様、明かりを消して」
教室の明かりを消してもらう。それだけでは足りないので、窓に映る景色を夜に変えた。
「セヴェリン、水晶を何か置ける台はある?底が空いている造りの物がいいのだけれど」
「ああ、じゃあちょっと待って」
セヴェリンが魔法で何かを作り出した。氷で出来た台だ。丸い穴がぽっかりと開いていて、ちょうど水晶玉がはまるようになっている。
「いい。素敵ね。これの下に明かりを点けて……」
すると天井に水晶の映像が映し出される。セレート嬢と数人の取り巻きだった。
「ほら、これ。この赤いオーラが魅了魔法をかけている時に放出されるんだ」
確かに、かけようと狙った人間たちを包み込むように、赤いオーラが広がった。しかし、セヴェリンの周りだけ霧散する。
「セヴェリンはやっぱり効かなかったのね」
「うん。どうやら彼女より魔力が高いとかからないみたい」
「なるほど」
どこかの廊下だ。エンベルト殿下の周りにも赤いオーラが広がった。でもセヴェリンの時と同様、霧散してしまう。その後も、殿下にかけている映像が多かった。やはり殿下を狙っていたのだろう。
クラス中の皆が天井を見上げている。なかなか面白い光景だった。
『天体観測……というよりプラネタリウムね』
そう思っていると、急に映像が消えた。
「あ!」
原因は、セレート嬢が持ち出したからだ。彼女は水晶を思いっきり外に放った。バリンと窓ガラスが割れ、水晶が外へ落ちて行ってしまう。
「クストーデ!!」
『わかっている』
少し後、黒い大きな姿が窓一杯に広がった。令嬢たちが悲鳴を上げる。皆が窓から離れる中で、私だけが窓へ近付いた。
「ナイスキャッチね」
『当然だ』
窓一杯でも全身が収まらない黒く大きなドラゴンは、小さな水晶玉を器用に持ち私に渡してくれた。
「やっぱり!アレクサンドラ様は闇の力の持ち主なのよ!聖魔法なんかじゃないわ!」
セレート嬢がニヤニヤとした顔で叫ぶ。周りも恐れおののき出す。
「はあぁ」
そんな空気を壊すような、大きな溜息が聞こえた。エンベルト殿下だ。
「セレート嬢。あなたはなんて罰当たりなのでしょう。ドラゴンですよ。ドラゴンはこの国では聖獣と言われています。まあ、実際は聖獣ではなく神獣なのですが」
「ホント、失礼よね」
私は夜を消した。昼間に戻った明るい中で、陽の光を浴びたドラゴンは、動く度に虹色に変化する。よく言えばオーロラ、悪く言えば雨上がりにアスファルトで滲んでいる油。
『絶対、誰にも言えないけど』
「なんて美しいの」
令嬢数人が、美しい煌きに見入っている。
「ですよね。このような美しいドラゴンを闇の力の配下のように言うなんて……セレート嬢は酷いですね」
「本当ですね」
「エンベルト殿下の言う通りですわ」
はい、令嬢の大半を味方に付けました。