聖女は誰?
セレート嬢の顔が、真っ青から真っ白になっていく。
「そ、そんな事実、聞いたことがありません」
周りも首を傾げていた。そう。今まではどんなに神様が、神官に訴えてもなかったものにされていた。
だがやり直しの今、神様の声が見事に神官に届いたのだ。
「皆さんが知らないのも仕方がないです。つい最近、その事実が発覚したのですから」
教室に二人のイケメンが入ってくる。
「兄上」
「お兄様」
黄色い声が上がるよりも早く、私ともう一人のブラコンが、嬉しそうに自分の兄たちを呼んだ。
「私の方が呼ぶのが早かったな」
「早さの問題じゃないでしょ。愛情の問題よ」
「ふっ、負け犬の遠吠えとはよく言ったもんだ」
「なんですって」
「いたっ」
ラウリスと同時に頭に手をやる。
「今、それを争う時ではないと、わかるよな」
私たちの頭を叩いたのはロザーリオだった。アイスブルーの瞳が冷たく光っている。
「はい、ごめんなさい」
二人の兄は、肩を震わせて堪えていた。
「すみませんね、私たちの可愛い弟妹が」
そう言って笑った殿下に、前の方の何人かがノックアウトした。
「申し訳ありません。私のアレクサンドラが」
こちらも負けないくらい、美しい微笑みを見せた。またもや何人かノックアウト。もう前の方の令嬢は生きていないだろう。
「話を戻しましょう。教会から届いた文献には、聖魔法を使う者全てが善ではないと、聖魔法を使えても聖女となる者は同じ時代に一人だと書かれています」
「それだと、やはりセレート様になるのでは?」
一人の生徒が尤もな質問をする。
「文献には続きがありまして、こうも書かれています。聖女となる聖魔法保持者は、魅了を使えない。何故なら魅了を使う者は、動物や魔物に愛される事はないからと。神の加護を与えられし聖魔法保持者のみが、聖女となるそうです」
エンベルト殿下の言葉に、何人かの生徒が反応を示した。
「そう言えば、セレート様って魔馬にすごく嫌われていたわよね。反対に懐かれていたのって……」
皆の視線が私に向かって来た。
「ヴィストリアーノ様、よく小鳥とかとも戯れていらっしゃいましたよね」
「スケートでキツネと話していたヴィストリアーノ様を見たわ」
おう。色々やらかしているわよ、私。
「ですが!ヴィストリアーノ様が、聖魔法を持っているなんて聞いたことがないわ」
私だって少し前まで聞いたことなかったわよ。
「聞いたことがないから、持っていないという訳ではありませんよ。ですよね、メリー」
扉が開き、入って来たのはメリーだった。
「メリー?」
「お嬢様……校内にいるお嬢様は、初めて拝見いたしました。嬉しいものですね」
嬉しそうに微笑むメリーに、何人かの男子生徒がやられた。そう、メリーもとても綺麗なのだ。
「お嬢様は5歳の頃、神の加護をお受けになりました。神は、魔力の向上と全属性が使えるとおっしゃっていました。実際、この学校に入る前に、お嬢様は近しい友人の皆様にお守りを作っております。物理攻撃の軽減、精神攻撃に至っては完全に守る事の出来るお守りです。しかも効力は、本人が亡くなるまで。これは、聖魔法を持っている者にしか作る事が出来ません」
「そんなに凄い物だったのね、これ」
チタがマジマジとピンキーリングを見た。
「ね、私もびっくり」
「作った本人がびっくりって、アリーはバカだなぁ」
「チタ、オレステがバカって言った」
「もう仕方ないわね。めっよ」
それだけかい。
「セレート嬢、今の意味がわかりますか?物理だけでなく、精神攻撃も防ぐ。このお守りを学校で着けていたのは私を含め、七人です」
セレート嬢がハッとした顔になった。
「だから……」
そう呟いている。
「おわかり頂けましたか?だから誰もかからなかったのです。あなたの魅了に」