解散の原因
魔法学のあの事件から2カ月程経った。
セレート嬢は、特に罰を受ける事はなく、厳重注意で済んだ。聖魔法で、皆を癒したいと思っただけだった、そう言われてしまえば、それ以上の追及が出来ない。正に疑わしきは罰せず、だった。
「アリー」
珍しい人に声を掛けられる。
「セヴェリン」
「はは、久しぶりだね」
相変わらず中性的な美しさを持った彼を見て、ついキョロキョロしてしまったのは仕方がない事だろう。
「ふふ、いないよ」
「え?」
「デルフィーナ嬢たちだろう?」
「うん、そう」
あんなにずっと一緒にいたのに。珍しい事もあるものだ。
「今日は一人なの?」
「今日から一人なんだ」
「……喧嘩でもしたの?」
「はは、そうじゃないよ。もうね、一緒にいる必要がなくなったの」
「?」
「あはは。前から思っていたけど、アリーって公爵令嬢っぽくないよね」
「そう?」
もう大分、公爵令嬢が染みついていると思っているんだけれどな。
「だって、顔に色々出過ぎだよ。ふふ」
「嫌だ、本当?」
咄嗟に両手を顔に当てる。
「ははは、そういうとこだってば」
無邪気に笑うセヴェリン。本当に2つも年上なのかと、疑いたくなってしまう。
「これからはまた、前みたいに仲良くしてくれる?」
「別に仲良くしてあげない、なんて思ってないわよ。どちらかと言うと、セヴェリンがセレート様たちとずっと一緒に行動して忙しかったから、なかなか話す機会がなかったっていうだけでしょ」
私の返事が意外だったのか、キョトンとした後、思いっきり笑っていた。
「あはは、本当にアリーはいいね。魔力も面白いし、思考回路も面白い。これからもずっと仲良くしてよ。アリーの魔力なら魔術師団にすぐに入れるよ。一緒に魔術師にならないかい?」
いきなりの勧誘。
「仲良くはしても、魔術師団には入らないかな。なんだか身の危険を感じるから。なんか実験されそうだし」
「あれ?バレた?」
「もう」
二人で笑った。
セヴェリンがセレート嬢たちと、行動を共にしなくなった事はあっと言う間に噂になった。噂好きな令嬢の情報拡散速度が、恐ろしい程速い事に驚いてしまう程だった。
「なんでも、フレゴリーニ様の取り合いが始まって、フレゴリーニ様が面倒になってしまわれたそうですわ」
「セレート様が以前の魔法学の時間に、危ない魔法を使おうとしたことを知ったフレゴリーニ様が、見切りを付けたそうですわ」
などと、色々な噂が飛び交っていた。内容はマチマチだったが、どれもセヴェリンがセレート嬢たちを見限ったという所だけ一致していた。
「さぞかしご立腹なんじゃないのか、噂の令嬢たちは」
「きっとね。どういう訳か、彼女たちが捨てられたという部分だけ一致しているのよ。もうカンカンだと思うわよ」
「知っているかしら?セヴェリンの心変わりは、アリーが原因っていう噂もあるのだけれど」
チタから予想外の話を聞く。
「私?」
寝耳に水なのですが。
「セヴェリンがアリーに心変わりしたせいで、一緒にいる事がなくなったんですって。今は、この噂で持ちきりよ」
「どうしてそんな根も葉もない噂が?」
「なんでも、セレート様のグループの一人が、セヴェリンとアリーが仲良さげに話している姿を見たんですって」
ジュリエッタ殿下だ。
きっとあの時の事だろう。仲は良かったかもしれないが、あくまでも友人としてだ。そこに甘い空気なんてある訳がない。
「ねえ、これって怒りの矛先が決まったようなものじゃない?」
チアが冷静に私を見て言った。
「そうだね。まあ、元々矛先は決まっていただろうけど、間違いなくそうなるね」
ロザーリオも冷静に頷いている。
「今度は一体、何をされるんだろうな」
オレステの言葉で私は溜息を吐いた。
「なんで私ばっかりなのぉ」