セヴェリンと?
「はあ、疲れた」
ホームルームの後、エンベルト殿下との関係を令嬢方から問い詰められ、説明するのに一苦労だった。幼い頃からの儀式のようなものだと言っても、なかなか信じてもらえず、やっと皆が納得する頃には私の精神が疲労困憊になっていた。
「それにしても、あのグループはどうしたって言うのかしらね」
「セレート嬢以外はゴミとでも思っているような視線だった」
チアとロザーリオは、私とエンベルト殿下のやり取りから、チタとオレステのやり取りの間中、ずっとセレート嬢たちを観察していたらしい。
「仮面を着けたように、ピクリとも表情が動かなかったよ」
「そう。セレート嬢が言葉を発する時だけ表情が動いていたわね。にこやかな笑みを浮かべてね」
「正直、ちょっと気味が悪かったよ」
そんな話をしていると、噂のグループがすぐそばを通りかかった。
「あら?」
グループの中に見た事のある人物がいる。
「セヴェリンだわ」
3年のセヴェリン・フレゴリーニだった。セレート嬢をエスコートして歩いている。
「まさか、魔法にかかってしまったのかしら?」
チアが言うが、セヴェリンは魔力が相当高いから、お守りがなくてもかからないだろうとメリーが言っていたはず。
すれ違う瞬間、セヴェリンと目が合った。
「やあ。アリーじゃないか」
「ごきげんよう、セヴェリン」
声を掛けられるとは思っていなかったので、少しだけ動揺してしまう。
「セレート様とお知り合いだったのね」
セヴェリンの腕に絡まっていた腕に力を入れ、しがみつくように身体を傾けたセレート嬢は、私の顔を見て勝ち誇ったような顔つきになっていた。いちいち敵意を出して来る彼女に少しだけ笑いそうになる。
「うん。デルフィーナ嬢の聖魔法に興味があってね。友人になったんだ」
「へえ、そうなんだ」
「うん。じゃ、私たちはあっちに行くから。またね、アリー」
そう言ってセヴェリンは、セレート嬢を促して去って行った。
『魅了にかかっている訳ではないみたい』
本当に聖魔法に興味があるのかもしれない。私のお守りにも興味を出していたくらいだ。珍しい魔法や魔力が好きなのだろう。
それからは、セレート嬢と共に行動しているセヴェリンを、本当によく見かけるようになった。周囲ではすっかり噂になっている。二人は付き合っているのではないかと。確かに儚げなセレート嬢と中性的なセヴェリンは、一緒に並んでいるとお似合いだった。
「あのカップリングで落ち着いてくれたらいいけれどね」
チアがまるで信じてないように鼻で笑う。まあ、正直私も信じてはいないが、そうなったらいいなとは思う。
寮に戻ってセヴェリンの話をメリーにする。
「セヴェリン自身は魅了にかかってはいなさそうなのよね。でもまあ、仲良くなって落ち着いてくれたらいいなって」
「ふふ、そうでございますね。でもお嬢様。夏が来るまでは油断はなさらないでくださいませ」
「そうね。気は抜かないわ」
「そうですよ。大きく変わった今、これからの事を予言する事は魔女の力では難しいのです。ですが、どうしてもこれで終わるとは思えないのです」
真剣な顔だ。本当に心配してくれているのだとわかる。
「うん、ありがとうメリー」
私はとびきりの笑顔を見せて、そう答えた。
セヴェリンがセレート嬢たちと一緒に行動するようになってから1カ月近く経った。相変わらず定期的に魔法はかけられているらしいが、それ以外は特に何もしてこない。実に平和な日々だった。
「今日の授業では、2種類以上の魔法を使って、何かを作り出してみてください。形に残るものでもいいし、儚く消えて行くものでもいいです。1種類しか使えないという人はそれでも全く構いません。同じように何かを作り出してみてください」
エンベルト殿下の言葉に、皆が懸命に考え出した。
「先生、風の場合はどうしたらいいですか?」
そんな質問に笑顔で答えるエンベルト殿下。
「そうですね。花や葉などを使って舞わせる、なんて素敵そうですね」
質問をした令嬢は、顔を真っ赤にさせていた。
「どうしようか?」
私たちは暫く考え込んだ。