何かが起こる?
翌日。学校へ行くとチアが待ち構えていた。
「どうだったの?アネージオ公爵家のお茶会は?」
絶対に面白い事があったに違いないという顔で見てくる。
「大変だったわよ。二人の令嬢のマウントを取り合うバトルが」
「やっぱり」
教室で話していると、自然と皆集まっていた。
「どちらがよりエンベルト殿下と親密に過ごしたかって自慢し合っていたわ。そのうち私に、学校での殿下の様子を聞かれて。根掘り葉掘りの勢いで本当に怖かった」
「どっちも自慢するほどの話題がないからだろ」
ラウリスだ。相変わらず婚約者候補に辛辣だ。
「それはさぞかし疲れたでしょう」
ジュリエッタ殿下が、いたわりの視線を向けてくれる。それだけで癒される。
「まあ、疲れたけれど、特に荒れる事もなく小康状態で終わったからいいの。本当に大変だったのはその後よ」
溜息を吐きながら、屋敷に戻ってからの出来事を皆に話して聞かせる。
目が覚めた私は、自分のベッドに横になっている事に首を傾げる。
「エンベルト王太子殿下が、馬車からここまで運んでくださいました」
「え?ルトが?」
「はい。たまたまジャンネス様を訪ねていらっしゃっていたのです」
「それってガッツリ寝顔を見られてしまったって事?」
「はい、ガッツリと」
「私、いびきとかかいてなかったわよね」
「……」
どうして黙る。まさかかいていたのか。私がプチパニックに陥っていると、クスクスと笑い出したメリー。
「大丈夫ですよ。いびきもかいていなかったですし、涎も垂れていませんでした」
「ああ、なんだ。良かった」
「王太子殿下は、お嬢様が目覚めるまで階下にいらっしゃるそうですよ」
「え?本当?じゃあすぐに支度しなくっちゃ」
「そうですね。急いで整えましょう」
身支度を整えて応接室へ下りていくと、満面の笑みを浮かべたエンベルト殿下が待っていた。
「お疲れ様でしたね、アリー」
立ち上がった殿下に、隣へ座るようにエスコートされる。
「なかなかの二人だったでしょう」
令嬢二人の事だと悟り、笑顔で濁しておく。
「あの二人には、何度もあなたたちを選ぶことはないと言っているのに全然聞いてくれなくて。地位的にも相応しいのは自分だと言って譲らないのですよ」
「ああ」
なんとなく想像がついてしまう。
「……諦めたくないんだと思うわ」
「え?」
キョトンとした顔になるエンベルト殿下。ドキッとしちゃうからやめて欲しい。
「お二人とも、どこまで本気かはわからないけれど、ちゃんとルトの事が好きなんだと思う。ずっとルトの話をしていたし。少なくとも王族という地位が欲しいだけではないみたいだった」
私は今日の事を話して聞かせた。
「アリーの話を聞く限り、私の中身よりも顔を重視している気がしますが」
「ははは、まあ顔くらいしか話す内容がないからでしょう」
お兄様が笑っている。
「まあ、最低限の付き合いしかしていませんからね。あの二人には全く興味ないですし。あの二人に時間を割くなら、アリーに全て使いたいですし」
予期せぬ言葉に、心臓が飛び出した。死ぬから。
「早く婚約したいですね。もういっそのこと、婚約を飛ばしてすぐに結婚してしまってもいいくらいですよ」
今度は顔が爆発した。咄嗟に顔を押さえる。
「真っ赤になったアリーも可愛い」
もうホント、勘弁してください。
「ふふ、アリー。たくさん愛されているわね」
お母様が暢気に笑った。
「でもまずは、大きな壁から打ち砕かなくてはいけないわよ」
「壁?」
「ふふ、そう。最初にして最大の壁。殿下、夕食を用意させますから是非どうぞ」
「え?いいのですか?」
「そろそろいいんじゃないかしら?」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます」
ちょっと不思議な二人のやり取りに首を傾げる。お兄様はわかっているようで「楽しみだなぁ」と笑っている。
そんな時だった。
「ただいま」
お父様が帰って来たのだ。
「お帰りなさい、お父様」
「アリー、ただいま」
私を抱き寄せ、頬にキスをする。それからお母様を抱きしめ、唇へキスを落とす。いつものように上機嫌で帰って来たお父様だったが、その向こうに見えた人物を捉えた瞬間、警戒心を顕わにした。
「どうして王太子殿下がここにいる?」