目指すは幸せ
散々二人で泣いた後、メリーが知っているゲームの内容と現状をすり合わせた。
「大分、話が変わっているのね。主に私の部分が」
「そうですね。一番大きいのはラウリス殿下の婚約者ではない、という事です。以前は、どんなに手を尽くしても避けられなかった部分です」
「なるほどねぇ。あとは、お守りのお陰で、主要人物が魅了にかかっていない」
「はい。フェリチア様とフェリチタ様も以前同様、ロザーリオ様とオレステ様の婚約者になってはおりますが、大丈夫そうですしね」
ん?
「ねえ、メリー。もしかして、あのカップリングはずっと一緒なの?」
「はい。と言ってもすぐに、関係は破綻いたしますが。それに、お嬢様との関係も同様です。幼なじみで非常に仲の良い三人組でした。魅了にかかるまでは、ですが」
ちょっと驚いてしまった。ロザーリオとオレステに婚約者がいた事は聞いていたけれど、誰だったかまでは知らなかったのだ。でもなんとなく、やっぱりそうだったんだと思う自分がいた。
「アレクサンドラは双子にも見放されてしまっていたのね」
「はい。校内で、たった一人で孤立させられていたそうです」
ああ、だから私には魅了をかけなかったのだ。孤立させる為に……妙に納得がいった。
「お嬢様はゲームの中で、カップルに立ちはだかる【悪役】だったのです。実際は何もしておりませんが、その【悪役】がいて初めて、主人公たちの絆が確立していくのだそうです」
「だから【悪役令嬢】なのね」
なんだか無性にムカついてきた。あの時は、女だと思って加減してしまった。もっとボコってやるんだったわ。卑怯極まりない強か女だったのだから。
「メリーの助言のお陰で、私は孤立せずに済んだのね」
「そう言ってもらえて、嬉しいです」
二人で微笑み合う。
「あ」
メリーが何かを思い出したのか、声を上げた。
「なあに?」
「そういえば……あの5回目には、異なる事がもう一つございました」
「へえ、私以外に?」
「はい。お嬢様がラウリス殿下たちを、ボコボコにする直前にエンベルト王太子殿下がいらっしゃっていたのを覚えておりますか?」
「……あ」
いた、確かにいた。やけに美しい男性が入って来たと思ったんだ。でも私、邪魔すんなって言ったような……
「お嬢様、会話もしていらっしゃいましたよね」
「うん、した……かなり失礼な言い回しをした気がする」
メリーがクスクスと笑う。
「ふふ、お嬢様ったら。確かに邪魔をするなとおっしゃっておりましたね。私も5回全てあの場にいた訳ではないので、確証はありませんが、あのタイミングで王太子殿下がいらっしゃったのを、私は初めて見ました」
「それって何か意味があるのかしら?」
メリーが少しだけ考えるような素振りを見せる。
「確か、このようなゲームには隠れキャラというものがあるのです。全員との恋愛を成就した後に、新たに一人恋愛出来る人物が増えるというものです。もしかすると、王太子殿下がその人物だったのではないでしょうか」
なるほど。アクションゲームにも、たまにあるシステムだ。
「じゃあ、次の標的はエンベルト殿下って事?」
「その可能性もあるかと」
「そうだとすると、上手くはいっていないようね。セレート嬢は色々と空回りしているような気がするわ」
「そうですね。もう何もかもが以前と全く異なっておりますので、セレート様も思うように事が運ばないのだと思います」
「魅了が効かないというのは大きいわね。お陰で私は孤立どころか、頼もしい仲間たちに囲まれているし。メリーも含めてね」
私が笑えば、メリーは優しい表情で微笑む。
「お嬢様……私は以前のお嬢様も、今のお嬢様も同じように大切です。決してもう、二度とお嬢様を不幸にはさせません。そのために魔女の力まで借りたのですから」
心にぽおっと明かりが灯ったような気がした。もしかしたら心の奥底に、アレクサンドラの想いの欠片が残っているのかもしれない。
「大丈夫。今度こそ皆で、本当の幸せを手に入れるのよ」
『心配しないで。私は何にも負けないわ』
メリーと、そして私ではない私に言い聞かせるように、心の中でも呟いた。