萌えを感じてしまった
数秒の時間差で驚いた顔になったエンベルト殿下。先程までの情けない表情はもう消え、エメラルドの瞳がキラキラしている。
「もう一度言ってくれませんか?」
殿下の艶やかな笑みを、間近で見てしまった私は息を飲んだ。
「無理」
「どうして?」
「恥ずか死ぬ」
「あはは」
こうして無事に私たちは仲直りをし、想いを告げ合う事が出来たのだった。
「あの」
翌朝。教室に入ると可愛らしい令嬢に声を掛けられた。
「王女殿下」
私に声を掛けてきたのは、隣国の第二王女、ジュリエッタ・コッタリーニ殿下だった。
「あの、突然すみません。私……ずっとお礼を言いたくて」
もじもじしながら言葉を紡ぐ第二王女。小柄でウェーブのかかったストロベリーブロンドが可愛らしい。次の言葉をじっと待っていると、意を決したようにブラウンの瞳をこちらに向けた。
「お守り、ありがとうございました」
王族なのにペコリと頭を下げる。
「王女殿下、どうか頭をお上げください」
「ですが、あなたのかけてくれた魔法のお陰で本当に助かりましたの」
興奮したのか声が大きくなっている。周りの視線がこちらに集まってしまった。
「よろしければ、カフェの方でお茶でもしながらお話ししませんか?」
私が提案すると、嬉しそうに「はい」と答える。
『なにこれ、可愛いんですけど』
これが萌えなのかと、感動しつつカフェへと向かう。
「自己紹介の後から、なんとなく身体がだるくなってしまったのです」
紅茶を飲みながら、王女殿下が話す。
「疲れが出たのかと、気にしないようにしていたのですが、改善が見られなくて……少しして、特定のグループの中にいるとだるさが増す事がわかったのです。それで、少し怖くなってしまってエンベルト殿下にご相談させて頂いたのです」
聞けば特定のグループと言うのは、セレート嬢率いる6人くらいのグループらしい。何かと行動を共にしてくれるのだが、彼女達と一緒にいる日に限って具合が悪くなるという事だった。
「実は初日が終わった後、殿下から何か調子が悪くなるような事はないかと聞かれたのです。その時は疲れだと思っていたので何も言わなかったのですが、段々辛くなってしまって……でも、これを身に着けるようになってからは、元気一杯なのです」
胸の前で両手の拳を握りしめる。その姿がハムスターやリスのようでたまらなく可愛かった。思わず鼻を押さえる。
「どうかなさいましたか?」
第二王女が心配そうにこちらを見るが「いえ、何でも」と答える。あなたの可愛さに鼻血が出そうになりました、とは言えない。
「王女殿下が元気になって下さったのなら、良かったですわ」
にこやかに微笑めば、とても嬉しそうに微笑みを返された。
「私、ずっとヴィストリアーノ様とお話をしたかったのです。エンベルト殿下が留学で我が国にいらしていた時にいつもお話を聞いていて。暴れていた魔馬を大人しくさせたとか、体術がとてもお強いのだとか。話を聞いてずっと憧れていましたの。だからこの学校へ留学を決意したのです」
「それは……ありがとうございます」
まさか、エンベルト殿下が隣国で私の話をしていたとは。そのせいで彼女の留学先がここになったとは。色々驚き過ぎて口が開きっぱなしになってしまった。そんな私を尻目に殿下の話は続く。
「自己紹介の時は、あまりにもお綺麗で驚いてしまって……本当はすぐにでもお声をお掛けしたかったのですけれど、ヴィストリアーノ様を目にすると恥ずかしくなってしまって……今更で本当にごめんなさい」
またもやペコリとする。再び鼻を押さえたのは言うまでもない。
「私の方こそ、渡しっぱなしで確認もせずに申し訳ありませんでした」
あの時は殿下の大切な人になんて会いたくないと思っていたから、投げっぱなしにしていた。
「いえ、そんな。でも、嬉しかったです。このペンダントは、国を離れる前にお父様から頂いた物だったので」
首から持ち上げて見せてくれる。
「そうだったのですか?そんなに大切な物に、魔法を付与してしまって良かったのですか?」
「ふふ。ええ、勿論。一生の宝物になりました。ずっと身に着けているつもりです」
小首を傾げて嬉しそうに笑った殿下に、完全にノックアウトされた。
「あと……」
再びもじもじする。
「ヴィストリアーノ様とお友達になりたいです!」
ああ、もう意識飛ばしていいですか?