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すれ違う気持ち

 エンベルト殿下について行った先は、教室ではなく、落ち着いた雰囲気の部屋だった。

「ここは?」

キョロキョロしてしまう私を、ソファへ座るように促す殿下。

「ここは、普段私が使っている部屋です。公務を持ち込むこともありますので、教員室にずっといる訳にはいかないのですよ」


「そうなんだ」

このまま立ち上がり、扉まで駆け出したい。逃げられないとわかっているけれど、無性に逃げたくなる。私はまだエンベルト殿下と向き合う覚悟が出来ていないのだ。


いたたまれない気持ちになり、何か会話をと焦る。そういう時に限って何故か避けたいと思っている内容しか頭に浮かんで来ない。

「そ、そういえば、無事に渡せましたか?」

「え?」

「ペンダント。大切な人にって用意したのでしょう」

「ああ、ちゃんと渡しましたよ」


胸が痛い。聞かなければ良かったと後悔しても後の祭りだ。ツキンツキンと痛む胸を掴めるはずはないのに、どうしようもなくて痛む部分の服をギュッと握ってしまう。


「そ、それは良かった。これでもう殿下の大切な人は安心ね。じゃあ、私は教室に戻るから」

勝手に溢れてくる涙をギリギリ堪える。泣くならこの部屋を出てからだ。


「待って!」

扉に向かおうとした私を、エンベルト殿下が後ろから抱きしめた。


「離してよ!」

力一杯暴れるけれど、びくともしない。それどころが抱きしめられている力が強まる。


「待って、アリー。お願いです、話を聞いて」

「話?話ならもう終わったわ。私はもう教室に戻るの。一刻も早く、殿下から離れるの!!」

堪えていた涙が頬を伝った。


「すみません、すみません、アリー。いくらでも謝ります。ですからお願いです、話を聞いてください」

「嫌!一体これ以上、何を聞けと言うの?私はあなたの大切な人の為にお守りを作った。あなたはそれを彼女に渡した。これで終わりよ。これ以上何かを聞く必要なんてない!あとは勝手に二人で盛り上がっていればいいでしょ。離してよ!!」


「アレクサンドラ!」

大きな声で名前を呼ばれる。ビクリと震えた私は、感情が爆発したように号泣してしまった。

「殿下なんて大っ嫌い!」


私を抱きしめていた殿下の力が緩んだ隙に、私は部屋から逃げ出した。こんなに泣いている姿で教室に戻る訳にもいかない。かと言って、寮に戻ればメリーを心配させてしまう。


咄嗟に考えた私は、敷地内で一番遠くにある小さな中庭へ向かった。


 思った通り、ここには人の気配はなかった。一本の大きな木と、ベンチが二つ。小さな池があるだけの中庭。私はベンチに座って思う存分泣いた。



 どれだけ時間が経ったのか。ふと肩に何かが触れている気配を感じた。

「チチッ」

白くてふわふわした鳥が、私の肩から私を覗いていた。

「ふふ、可愛い」

気が付けば小さな中庭に、たくさんの鳥たちがいた。


「もしかして、慰めに来てくれたの?」

たくさんの色とりどりの鳥たちが、返事をするように一斉に鳴いた。

「皆、ありがとう……なんか、元気出た」


様々な種類の鳥たちの大合唱は、思っている以上に大ボリュームだった。なんだか慰められているというより、励まされているようだ。

「いつまでも、うじうじしていちゃダメだよね」

私がそう言うと、賛同したように再び大合唱になった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 アリーを本気で泣かせてしまった。あまりにも話を聞いてくれない彼女に、つい、声を荒げてしまった。

「どうして上手くいかないんだ」


ジャンネスの言った通りだ。私はアリーの事になると、上手く立ち回れなくなるらしい。冷静さを保っていられない。ほんの少し前まで、自分の腕の中にあった熱が急激に冷えていく。


「アリー」

きっとまた追いかけっこが始まる。今度は隙をつく事なんて出来ないかもしれない。焦燥感と絶望感が一度に押し寄せてくる。


「アリー。愛しているんだ」

誰にも届かない告白が、部屋の中で霧散した。


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