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黒歴史暴露

「あの人、具合でも悪いのかな」

セヴェリンが私の背後を見て言った。私も釣られるように後ろを見る。

「セレート様?」

少しふらついた様子で歩いてくるのはセレート嬢だった。


手助けしようと立ち上がりかけた時だった。ガシャーンという派手な音と共に、セレート嬢が私たちのテーブルの真横で倒れてしまう。


「大丈夫ですか?」

私とセヴェリンで彼女を支えた。


「申し訳ありません。せっかくのお食事を台無しに……」

カタカタ震えながら、私たちの食事を倒した事を謝っている。

「そんな事、気にしなくていいですわ。それより医務室に行った方がよろしいようですわね」


私が言っても、彼女はまだ震えている。

「そんな、公爵令嬢であるアレクサンドラ様のお食事を台無しにした私なんて」

なんなのだろう、その言い回しは。不可抗力で倒してしまったのだから、怒る訳がないのに。そんなに狭量に見えるのだろうか。


「食事はまた注文すればいいのです。人が倒れたのに食事の方を優先する人なんていませんわよ。あなたは早く医務室に行かなければ」

私の言葉にセヴェリンが反応した。


「私が連れて行くよ。流石に女性ではいくら小柄な彼女でも連れて行くのは無理だろうから」

「じゃあ、私は医務室に先に行って先生に知らせておくわ」


私は食堂のカウンターに行って、おばちゃんに謝る。

「ごめんね、おばちゃん。置いておいてくれれば、戻ってから私が片付けるわ」

「何を言ってるんだろうね、この子は。そんなのいいから、早く行っておやり」

笑うおばちゃんに軽く手を振って、私は医務室に走った。



「特に異常は見られないけど……もしかしたら少し疲れているのかもしれないわね」

医務室にセレート嬢を連れて行くと、先生が彼女をベッドに寝かせる。

「まあ、少し横になれば大丈夫でしょ。心配いらないわ」


「良かった。ありがとうございます、先生」

「ふふふ、あなたの昔作ったコブに比べれば、こんなの何でもないわよ」

「え?」

「小さい頃、馬から真っ逆さまに落ちたあなたの頭を診察したのは私よ」

「わーっ」

思わぬところで黒歴史を暴露された。恥ずかしくて顔を両手で隠してしまう。


「馬から落ちたの?いつ?」

セヴェリンが楽しそうに聞く。

「あれは確か5歳くらいだったかしら。馬丁がいない隙を狙って馬の背によじ登ったのはいいけれど、頭が重くて体勢を整える前にそのまま頭から落ちちゃったのよね」


「わーわー、聞こえない、聞こえない」

聞こえているけれど誤魔化すしかない。

「本当に大きいコブでね。もしかしたらあのまま残ってしまうかもって心配したのだけれど、良かったわね」


ふふふと笑う先生。

「全部言った……」


脱力している私にセヴェリンが近づくと、後頭部に触れた。

「本当だ。もうコブはない」

「当たり前でしょ。何年前の話をしてると思っているのよ」


コンコン。扉をノックする音がした。

「はい」

先生が返事をすると、思ってもみなかった人が入って来た。


「エンベルト殿下……」

思わず声に出してしまった。

「アリー」

久しぶりに聞く殿下の声。胸の中心がキュウッとなった。


「私のクラスの生徒が医務室に運ばれたと聞いて、様子を見に来たのです」

エンベルト殿下はセヴェリンに向き合う。

「セヴェリン・フレゴリーニ君ですね。生徒を連れて来てくれた」

「はい」


「ありがとう。それと、若いのに優秀なんですよね。これからも学校との両立は大変だろうけれど頑張って下さいね」

セヴェリンの黒曜石がキラキラし出した。エンベルト殿下が、自分の事をちゃんと知ってくれているとわかって感動したのだろう。


「ありがとうございます。頑張ります!」

セヴェリンはとても嬉しそうに、医務室を後にした。


「アレクサンドラ嬢」

「……はい」

「教室まで一緒に行きましょうか?」


今更、認識阻害も使えない。私の鬼ごっこは終わったのだった。


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