お守りの作り方
お昼休み。
食堂へ行けば、既にセヴェリンが待っていた。
「ごめんなさい。お待たせしちゃったわね」
ニコニコしているセヴェリンが、首を横に振った。
「全然。私が楽しみで早く来ちゃっただけだから」
食事をしながらリングの事を話す。
「へえ、物理攻撃だけじゃなく精神攻撃にも対応しているんだ、凄いな」
セヴェリンは、私のリングをあらゆる角度から眺めていた。
「魔力は大分削られるけれど、そんなに難しい事じゃないのよ」
「ふうん。私にも出来るかな?」
「魔力が高いのなら出来るかも」
「やり方、教えてくれる?」
「やり方も何も、リングを持って祈るだけよ」
難しい事など何もない。魔力がバカみたいに削られるというだけなのだ。
「よし、じゃあこれで試してみるよ」
彼が着けていたリングを外す。なかなか厳ついリングだ。中心にはアクアマリンのような宝石がはまっている。
「……」
「……」
「……出来ないな」
上手くいかないらしい。
「人のいない場所で、もっと集中した方がいいのかも」
私なりのアドバイスを言うと、なるほどと笑顔になる。
「じゃあ、寮に帰ってからやってみるよ」
それからも魔法の話で大いに盛り上がった。彼との会話は新鮮で、純粋に楽しかった。いつか魔術師団に遊びに行くという約束もした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
今日こそはと気合を入れてアリーを探す。お昼休みは食堂に行く事が多いとラウリスから聞いていたので食堂へ向かう。
探すまでもない。あれほど苦労したのが嘘のようにすぐに見つかった。
金色の絹糸のような髪が、彼女が動く度に揺れているのが見えた。
『今日こそは!』
彼女に気付かれる前に捕まえようと、彼女のいる席に向かった。が、途中で足が止まってしまう。
いつもならラウリスたちと一緒にいるはずなのに、ラウリスたちはアリーから2席分離れた場所にいた。
「どういう事なのか教えてくれると嬉しいのですが」
アリーに気付かれないように、ラウリスたちの席に素早く座る。
「さあ?」
フェリチタ嬢が、私が座った事に別段驚いた様子もなく答えた。
「新たな出会いをしただけです」
今度はフェリチア嬢だ。
「誤解だと言っていますよね」
アリーが他の男性と楽しそうに笑っている姿に、イラつく気持ちが隠せない。
「兄上が怒る道理はない」
「だから!」
自分でも驚くほど激昂してしまった。慌てて口を押さえる。
「そろそろエンベルト殿下に、弁明するチャンスを与えてあげてもいいんじゃないか?」
ロザーリオだ。
「それは私たちが決める事ではないでしょ。アリーが決める事だわ」
フェリチア嬢は賛同してくれないようだ。
「アリーの存在すら確かめられない状況で、どうしろと」
怒りの心が絶望へと変わっていく。
「はあぁ」
またもやラウリスに溜息を吐かれてしまった。
「アリーに話してみます。兄上の弁明を聞く気持ちがあるかどうか」
「ラウリス……」
「喜ぶのは気が早いです。アリー次第なんですからね」
「わかりました、ありがとう……ところで、あれはどういう事なんでしょう?」
何がそんなに楽しいのか、ずっと楽しそうに笑顔を見せているアリーを見て、相手の男にイラつくどころか殺気まで湧いてくる。
「落ち着いてください、エンベルト殿下。セヴェリンがお守りに興味を抱いたらしくて、話をしているだけです」
ロザーリオが、彼の名前を言う。
「セヴェリン……ああ、魔術師団の」
魔術師団長の子息が入団したという話は聞いていた。だからってどうしてアリーと二人で食事をしているんだ?私だってまだした事がないのに。
「ふふふ」
フェリチア嬢が突然、笑い出した。
「なんだ。思っていた以上にアリーの事好きなんじゃない」
ジャンに続いてフェリチア嬢にまで言われてしまう。
「私自身、つい最近気付きまして」
「なるほど……そうね、私は許してあげてもいいわ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「ねえ」
フェリチタ嬢が、アリーの席の方を見て声を上げた。