降臨
「ふふ、不謹慎なのはわかっているけれど、あなたがここに飛ばされた時、私はすぐにこの考えが浮かんだの」
「何?怖いんだけど」
「あなたがアレクサンドラになるのよ」
「……はい?」
「あのね、彼女の死はもう確定している、でしょ」
「そうなるわね」
アレクサンドラという人は、5度目の死を迎える事になるだろう。
「彼女はね、もう既に心が壊れかかっているの。何度目の頃からか、まるで自分の運命を知っているかのように諦めて生きていた。もしかしたら知っていたのかもしれない。完全に心が壊れてしまったら、もう輪廻の輪には乗れないわ。魂ごと消えてなくなってしまう。それだけは避けたい」
「だから私と?」
「そう。それにね、デルフィーナはあそこの4人とそれぞれ幸せになる人生を歩んだわ。なのに、今回も人生が始まろうとしている。何か違う要素が加わるんじゃないかと私は踏んでいるわ」
「……もしかしたら、誰か新しい人物が加わる?」
「そうじゃないかと思っているわ」
「なるほど。でも、アレクサンドラって貴族令嬢なんでしょう。暴れても大丈夫なの?」
「ふふふ。そこは、なるようになるわ」
神様の言うセリフじゃない気がする。でも正直、私はあの4人の男とデルフィーナという女をぶっ飛ばしたい。他人事だけれど、無性に腹が立つ。
「いいのね」
「ええ」
「私とデルフィーナの仲を妬んだのだろう。それでデルフィーナに嫌がらせを」
「ん?あれ、上手く行った?」
自分の身体をあちこち見て撫でまわす。手をグーパーして、肩を回してみる。
「よし、馴染んでるわ」
「おい!聞いているのか!?」
「あれ?神様?聞こえてる?」
『聞こえているわ。上手く行ったわね。ここにアレクサンドラの魂がいるわ。この子はこのまま輪廻の輪に運ぶ。だからあなたは思う存分やってしまっていいわよ。因みにアレクサンドラは聖魔法以外、全部使えるから』
「え?使い方がわからないのだけれど?」
『出ろって思えばいいだけ。まあ、今回は魔法を使うまでもないとは思うけれど』
「出ろって……神様、適当過ぎじゃない?でも、ま、いいか。それは追々で」
「アレクサンドラ!何をブツブツ言っているんだ。私の話を聞け!」
「うるさいわね。怒鳴らなくても十分聞こえているわよ」
「は?アレクサンドラ?」
「さっきから偉そうに人を貶めているけれど、常識的に考えなさいよ。そもそもどっちが悪いのか」
「な、何を言っている」
「何を?正論を言っているだけですけど?」
私はドレスの具合を確かめる。ドレスって意外に重い。なんか中に着ているやつが邪魔だ。これは消す事は出来ないだろうか?
「消えて」
シュンという音と共に、スカートの中のごわつくものが消えた。
「凄い私。いきなり魔法使えちゃった」
すっかりすぼまったスカートの具合を確認する。ついでに右側の一部も縦に切り裂く。よし、これなら多少邪魔にはなるけれど動ける。
「おい!」
王子がブチ切れている。
「本当にうるさいわね。大体なんなの?婚約者のいる身で、他の女にうつつを抜かしている方が、どう考えても悪いに決まってるでしょ。王族だとかそんなの関係ないわ。人として最低よ。そっちの二人もね」
ビシリと黒髪のロザーリオと赤髪のオレステに指をさす。
「!」
二人とも固まってしまった。それはそうだろう。ガタガタ怯えていたはずの令嬢が、人が変わったように反旗を翻したのだから。まあ、実際、人は入れ替わったのだけど。
「自分たちの事を棚に上げて、よくもまあ一人の女性を追い詰められるわね。男のくせに」
「なんだと!?」
赤髪がキレて私に掴みかかって来た。
「はっ!分が悪くなった途端暴力?最低ね。この国では女性に暴力をふるう事が普通なのかしら?」
周りを見ると、フルフルと首を横に振っている人たちがいる。
「ねえ、これはそちらが仕掛けた事よね」
そんな時だった。
「おや?タイミングを間違ってしまいましたか?」
暢気な声が聞こえた。